このまま止まってしまえばえぇ。
      時間も俺の心臓さえも。



























      別れ






























      どれだけ経っても忘れられへん。
      心が脳が身体が全部がを覚えとる。
      お願いやから思い出させんで。
      お願いやから忘れさせんで。
      

      どこまで行ったら終わりが見えるんか。
      終わりの場所にがおるんか。
      それとも終わりのもっともっと先におるんか。
      それとももうおらんのか。
      誰か教えて。

  
      俺の声が聞こえるなら答えて。
      俺の声が聞こえんなら答えて。
      此処におるからって。
      

      いつも悲しみに目が覚める。
      俺は我が儘なんですか?
      そんな多くは望んでへんやん。
      何で一つくらい、俺の夢、叶えてくれへんの?



































      「京!おっそーい!!」


      「悪い悪い。30分くらいでんな怒んなや」


      「自分は10分遅刻でも帰っちゃうくせに」


      「当たり前や。遅れてくるヤツが悪い」


      待ち合わせた場所へ行くと必ずが先に来とる。
      たったそれだけのことが嬉しい。
      遅いって怒りながらも絶対に待っとってくれるから。

     
      俺は怒るの手をとって歩き出した。
      女って感じの小さくて柔らかい手。
      俺に応えるように指を絡めてくれる。
      たったそれだけのことが嬉しい。


      「海、見に行かへん?」


      「海?珍しいね、そんなこと言うの」


      「今急に見たくなった」


      「良いよ、海、行こう?」



      絡めたままの指を引いてはそう笑った。
      誰もおらん場所に行きたかった。
      別に海が見たかったわけやない。
      唯、二人になりたかった。


      
      電車を何本も乗り継いで。
      人のおらん路線を選んでは乗り換えて。
      えらく長い時間乗っとった電車。
      乗り換え路線もなく着いた先は終点。
      

      電車に乗っとる間、と何を話したかは覚えてへん。
      せやけどの笑顔だけ、頭に残っとる。
      繋いどった指がやけに温かかった。
      


      気付けばもうすっかり外は暗くなっとった。














      「ぅわぁー・・・夜の海って初めて見た」


      「・・・」



      観光地でもない海にはほとんど人もおらへんかった。
      外灯さえない暗い海。
      波の音だけやけにリアルに聞こえる。
      風が吹くたびに潮の香りがする。
      俺は繋いだ手に力を込めた。


      「ねぇ、波打ち際まで行っても良い?」

      
      「濡れるやん」


      「足だけ」


      「危ない」


      「だから一緒に行こ?」



      当たり前やけど、波は寄せては返して。
      靴を脱いで湿った砂を踏みしめる。
      足の裏に感じる確かな砂の感触。
      冷たいような、それでいて温かいような変な感じ。
      

      規則的に足元に寄せる波。
      足の温度を預けるように海水を指に絡めた。
      静かな世界に波の音だけが煩く響いた。


      ずっと沖の方を見ると其処には闇しかない。
      真っ黒な海と真っ暗な海が重なる場所。
      


      「なぁーんにも見えないねぇ」


      「・・・せやな」


      「・・・」


      「何やねん」


      「京・・・怖いんでしょ?」


      「・・・アホか」


      「図星か」


      「恐ない言うとるやろ!」


      「言ってないじゃん」


      「話の流れで解るやろ、普通!」


      
      の頭をくしゃくしゃ撫でると懐かしい香りがした。
      折角セットしてきたのにって笑う
      この困ったような笑顔が凄く好きで。
      その後に見せる優しい笑顔がもっともっと好きで。
      指を絡めたままそっとキスをした。


      
      「・・・京?」


      「俺を馬鹿にした罰や」


      「罰になんないじゃん」



      重なるの唇が温かい。
      真っ暗で何も見えへんのに、だけは感じれる。
      傍におるって判る。


      俺等が付けた足跡が波に消される。
      足に当たる波が微かに痛い。
      熱が全部吸い取られるような感じがする。


      恐い・・・んかもしらん。
      が言うたこと、あながち嘘やないかもしらん。
      俺が恐いと思うそれはもう起こってしまった何かかもしらんし、
      これから起こる何かなんかもしらん。
      もしかしたら今この瞬間なんかもしらん。
      闇に慣れることのない目は、ちゃんとを見れとるんやろか。



      「京は弱いね」


      「弱ないわ」


      「京は弱い」


      「弱ない」


      「そうやって強がってて、疲れない?」


      「強がってへん」


      「そうやって自分隠して、苦しくない?」


      「・・・」


      「ねぇ、ちゃんと笑えてる?」



      風が突き抜ける。
      の言葉が波の音に攫われる。
      それでも確かに俺の耳には届いた、泣きそうな言葉。
      張りつめとかんとあかんのに、崩れそうになる。
      見せたらあかんもんまで曝け出しそうになる。
      弱い俺を、は受け止めてくれるんか?


      俺は力任せにを抱き寄せた。
      細い肩が壊れそうなくらいきつく抱きしめる。
      巧く息が出来ひん。
      心臓が押し潰されそうになる。
      心が壊れるんやないかと思うくらい、痛い。


      呼吸が嗚咽に変わる。
      息を吸っても吸っても吐き出せへん。
      苦しくて苦しくて苦しくて、出来ることなら今すぐ助けて。
      背中に腕を回して子供みたいにあやしてほしい。
      大丈夫やって背中を擦ってほしい。
      傍におるよって頭を撫でてほしい。
      独りやないって頬にキスしてほしい。
      

      背中に腕を回して子供みたいにあやさんのがの優しさ。
      大丈夫やって背中を擦ってくれへんのがの優しさ。
      傍におるよって頭を撫でてくれへんのがの優しさ。
      独りやないって頬にキスしてくれへんのがの優しさ。
      

      そして全部がの苦しさ。



      「京、聞いて?」

    
      「・・・っ・・はぁ・・・」


      「辛いこととか苦しいこと、独りで抱え込むのはもう止めて?」


      「・・っ・・・」


      「京の周りにはね、素敵な人がいっぱいいるよね」


      「・・・」


      「その中にはきっと、京の苦しみを解ってくれる人がいるよ」


      「・・・そんなん・・おらへん・・」


      「絶対にいるよ。きっと京を必要としてくれる人だっている」


      「・・・」


      「きっと京のこと愛してくれる人がいる」


      「・・・なしてそんな・・・」


      「そんな人が現れたらね、ちゃんと愛してあげて」


      「・・・以外におらへん・・・」


      「きっと京を支えてくれるよ」


      「・・俺、しかいらん・・・」


      「いつかそんな人が現れたらね・・・お願い、幸せになってね」


      「なしてそんなこと言うん・・?俺にはしかおらんって言うとるやん・・」


      「お願いだから、幸せになって」


      「俺、とやないと幸せになんてなれんで・・・?」


      「お願い・・・」



      真っ暗な世界に光が差し込み始める。
      何も知らん顔して太陽が昇ってく。
      重なった空と海が引き裂かれる。
      

      もう少しでえぇから待ってや。
      あとちょっとでえぇから、ほんの少しでえぇねん。
      お願いやから、太陽昇らせんといて。
      このまま別れさせんといて。
      

      なぁ、
      俺、お前とやないと幸せになれへんで。
      理解してくれる他の誰かなんていらん。
      他の誰かに愛される必要なんてあらへん。
      誰もいらん。   
      以外誰もいらんよ。
      

      以外の人間に愛されたって何の意味もあらへん。
      以外の人間を愛したって何の意味もあらへんよ。
      他の人間なんて必要ない。
      以外必要ないねん。
      

      お願いやから、そんな悲しいこと言わんで。
      これで終わりみたいなこと言わんでや。
      まだ何も終わってへんよ。
      俺の中では何も終わってへんねん。
      頼むから、まだ傍におって・・・



      「京は弱いね」



      が背中を擦ってくれんのは、頭を撫でてくれんのは、キスをしてくれんのは。
      全部なりの優しさで、全部の苦しみ。
      優しくしたら、俺がを忘れられんの知っとるから。
      優しくしたら、俺がから離れなれんの知っとるから。
      

      
      「京は強いね」



      太陽が昇っていく。
      待ってって言うたのに、何も聞いてくれんのやな。
      徐々に明るくなって行く景色。
      少しの光にも目が反応して開けとかれん。


      離したくないのに。
      まだ離れたくないのに。
      霞んでいく目の前ではどんな顔しとるんやろか。
      

      こんなにきつく抱きしめとんのに。
      苦しいくらい強く抱きしめとんのに。
      腕の中が空っぽになっていくのが解る。
      もう少しだけでも繋ぎとめときたくて。
      あと少しだけ繋ぎとめときたいのに。
      無力な両腕に力を込めれば込めるほど、が消えていくのが解る。
      


      「お願い、笑ってて」


      「・・嫌や・・・もう少しだけ・・ッ」


      「お願い、幸せになってね」


      「まだ・・・まだ傍におってやッ!」


      「幸せになることは罪じゃないよ?ね、京」


      「いややッ・・・待ってや・・ッ・・」


      「忘れることは逃げることじゃないよ」


      「・・消えんといて・・・・・・ッ!」


      「大好きだよ、京・・・」


      「お願いや・・・待って、もう少し・・・ッ」


      「幸せにしてあげられなくて、ごめんね」


      「・・・嫌や・・・・・・ッ!」



      
      波音と潮風が腕の中をすり抜ける。
      の余韻を洗い流すように、強く、強く。
      腕に残る感触も匂いも忘れられへんはずなのに。
      

      絡めあった指はまだ温かくて。
      確かには此処におったはずなのに。
      まだ温かいのに。
      まだ、温かいのに・・・。

































      
      目を開けると見慣れた天井。
      真っ白なシーツは目を閉じた時から何も変わってへん。
      閉めたカーテンの隙間から刺す朝日。
      白くて黄色い太陽の光。


 
      「・・・夢・・・?」


      
      目を覚ますと俺の両目からは涙が溢れとって。
      瞬きをする度に頬を目尻を伝ってシーツへと落ちる。
      止まることを知らん涙は次から次へと溢れる。
      酷く、悲しい夢を見た気がする。


      夢の中でくらい、幸せにしてくれたってえぇのに。
      夢の中でくらい、ハッピーエンドにしてくれたってえぇのに。
      夢の中でくらい、傍におらせてくれたってえぇのに。
     

      それが出来ひんのやったら忘れさせてや。
      どうせ忘れられんのやから、せめて夢の中くらいでは。
      この身体に染み付いたの記憶。
      せめて夢の中くらいでは忘れさせてくれたってえぇやん。
      どうせ忘れられんのやから。



      「・・・・・・」


      
      俺はベッドの脇に置いてあるの写真を手に取った。
      笑っとった俺達の写真。
      もしかしたらコッチが夢なんかもしらん。
      本当に笑いあうことなんて出来とったんやろか。
      もう今では解らへんけど。


    
      「・・・愛してんで・・・」



      俺は微笑むにそっと口付けた。
      夢の中とは違う、渇いた現像液の味。
      感じることの出来へん指での頬をなぞる。
      夢の中とは違う、平面で冷たい感触。
      俺はもう一度、の写真にキスを落とした。



      もう一度目を閉じたい。
      もう二度と覚めない夢がみたい。
      太陽が昇らん世界でと一緒におりたい。
      暗闇で顔が見えんでもえぇ。
      指を絡めてキスがしたい。
      抱きしめて、抱きしめて、抱きしめたい。


      
      このまま止まってしまえばえぇ。
      時間も俺の心臓さえも。

      
      
      別れの来ぃへん世界でと過ごしたい。
      別れの来ぃへん世界でと過ごしたい。
      別れの来ぃへん世界でと過ごしたい。



      「・・・・・・」



      愛する人と一緒におりたいっちゅうのは我が儘ですか?
      そんなにあかんことなんか?
      唯々、愛しいだけなんに。
      俺、そんなに多くのこと望んでへんやん。
      なして一つくらい、叶えてくれへんの?



      「・・・・・会いたい・・・」



      唯々、傍におりたいだけなのに。































      BE HAPPY・・・?


      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

      自分でもよく解んないけど、泣きながら書きました。
      結構驚かれるけど、私、この曲一番好きなんです、はい。
      大切な人が、もう一度笑ってくれますように。
      二度と叶わなくても、願うだけは自由だって言うならば。

      少しでもお気に召しましたら、感想くださると嬉しいです!



      20040715  未邑拝
      










 
           
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