1から10まで欲しいんやない。
      全部を理解して、全部を包み込んで欲しいんやない。
      こんなん、俺の我が儘なんやけど。














      warmth of ou
















      最近イライラすることが多い。
      何か上手くいかんかったら、次の仕事にも影響が出る。
      まぁ、よくある悪循環なんやけど。
      今回はスランプまで重なって、結構な根性モン。
      どんだけ叩いても、納得いくもんなんて出来へんし。
      やけど、時間は押しに押してるし。
      あー…ほんまどうしたらええんやろ。








      んな訳で、今日もスタジオ。
      かれこれ14時間は缶詰なんやけど、状況は平行線。
      皆に迷惑かけとるんやからと思えば思うほど空回り。
      俺って、こんなに要領悪い奴やったっけ?
      暫く一人にして欲しいと、人払いした部屋。
      閑静なスタジオは俺一人には広すぎ。
      誰かといたいわけやないんやけど。
      タン、とタムを叩いてみる。
      跳ね返る音が余計に感じさせる、一人だということ。
      自分から突き放しといて構って欲しいなんて、子供と変わらへんし。
      自嘲の笑みを浮かべながら、自分の膝へと頭を埋めた。









      真っ暗になった視界で、考えなんことは沢山ある。
      でも、何を考えなんのか考えんのも嫌や。
      考える暇があんなら練習するべきやろか。
      いや、練習なら腐るほどやったやん。
      それでも出来へんのは、調子が悪いからやろか?
      いや、それ以前に才能ないんやない?
      それやったらどうしようもあらへんやん。
      それでも叩かなあかんのは解っとる。
      俺一人の問題やないんやから。
      でも、今この時点では、俺一人の問題やないやろか?
      それやったらどうしたらええ?








      
      どうしとうもない考えばっかりが頭に浮かぶ。
      不安が浮かんでは、新しい不安に塗り込められる。
      止めようがない連鎖反応。 
      頭を上げても、目の前は真っ暗で。
      こんな時、いつもどうしとった?
      誰に助けを求めて、誰が救ってくれた?












      「やーすのっ!頑張ってる?!」







 
      「・・・・・・・?」









      マイクを通して聞こえてくる声で、はっと我にかえった。
      人がこんなに悩んでんのに、バカ明るい声。
      知ってる、俺の好きな人の声やもん。
      ドラムセットの間から硝子の向こうを覗くと、が笑顔で手を振ってる。
      なんで此処におるん?と訊くと、
      時間があったから見にきたの、と返事が聞こえた。
      ブース全体にの明るい声が響き渡る。
      自分が更にどうしようもない奴やって感じがする。
      理由は解らんけど。










      今日は何故かの笑顔が、痛い。
      いつもはあんなに愛しいのに。
      この笑顔だけは、何があっても守ってやりたいと思うのに。 
      が笑えば、こんな世の中でも綺麗なものに思えてくるほど。
      何よりも大切にしたいと思っとんのに。









      ブースの重いドアが開き、がひょっこりと顔を出した。
      茶色い癖のある髪を二つに結んだピンクの花がついたゴムが目立つ。
      淡いピンク色のスカートから出る、細くて綺麗な脚。
      歩くたびに柔らかなスカートが空気を泳ぐ。
      猫みたいに大きな目が捕らえとるんは、俺。
      可愛えの代名詞みたいな子。
      はバスドラの前まで来ると、ふいに周りを見渡した。








      「今日は一人なの?いつも景夕くん達と一緒なのに」









   
      「他んトコ・・に・・おるんやない?」










      「そーなんだ?一人だと寂しいね〜」












      「一人の方が、集中出来んねん」










   
      「そ?じゃあ、頑張ってね!」













      「頑張ってね」
      がそう言った瞬間、俺の中で何かが切れる音がした。 
      笑顔で俺の髪に触れるに。
      いや、違う。俺の髪に触れるの'笑顔’に。
      なぁ、頑張るって、どないしたらええの?
      頑張るって、どないな事なん?
      俺のそれじゃ、まだ足りんの?
      どうしたら認めてもらえるん?







      何よりも、誰よりも大切にせなんに、
      今、冗談でも許されん事を考えた。
      嘘でも思ったらあかんことを考えた。
      "もう、笑わんで”








 
      この場所に日は当たらん。
      太陽を迎える窓が無いから。
      気が付いて辺りを見回すと、四方を壁で囲まれた部屋。
      出口なんて、とうの昔に見失っとった。
      四方に壁があるのに、囲まれとんのか外にいるのか。
      元からこんな狭い場所やったんか、それとも壁に侵蝕されたんか。
      身動きが取れへん。
      前が向けへん。








 
      「何でにんな事言われなあかんの?!」







      「靖乃?」






 
      「に俺の何が解るん?!俺の何を知っとるん?!」






 
      「・・急に・・・どうしたの?」









      黒い、ドロドロした感情に飲まれる。
      助けを求めてもがけばもがくほど、深みに嵌る。
      こんな事言いたいんやない。
      傷つけたいわけやないねん。
      なのに、言葉が止まらんのはどうしてやろ?
      を傷つけるための尖った言葉は次から次に出てくんのに、
      自分を抑える方法だけは、さっきから一つも見つからへん。
      イライラする。








      「何か・・嫌な事でもあった?」







   
      「そんな事聞いてどないするん?
       人の痛み解るフリすんのもええ加減にせぇ!!」









      俺は俺の髪を絡める指を払い除けた。
      行き場を無くした手は、胸の前で動きを止めた。
      沈黙が走る。
      俺はその沈黙を破るかのように、スティックを横の壁へ投げつけた。
      大きく跳ね返ったそれは、渇いた音を立てての足元へ転がった。
      こんな乱暴に扱ったことは無かった。
      ドラムも、も。
      俺は立ち上げれないまま、無言での足元を見つめた。
      スティックがカランと音を立てて、身を止めた。
      の視線が気になるのに、目も合わされへん。    
      、どんな目で俺を見とる?
      軽蔑した?
      侮蔑した?
      こんな俺、嫌いに成った?
      いつまでたっても、黒い悪循環から抜け出せへんねん。








 
      頭の中がぐちゃぐちゃする。
      粘着質な黒い液体が、思考回路に詰まる。
      に言わなあかん事が、謝らなあかん事があるのに。
      その言葉を考えることさえ許されへん。
      俺、こんなにどうしようもない奴やったっけ?
      もっとしっかりした人間やなかった?
      そうなるために、努力してきたんやなかった?
      なのに俺・・・



















      「一人で、辛かったの?」























      空気が、動いた。
      がしゃがみ込んで、足元のスティックを拾い上げた。
      ピンク色のそれは妙に傷だらけで。
      はそれを慈しむように、左手で撫でた。
      







      「気付いてあげられなくて、ごめんね」











      「違っ・・・、俺・・・」










 
      「一人で悩ませて、ごめんね」












      はスティックをそっと、俺に渡した。
      一瞬触れた指先が、妙に温かかった。
      柔らかな手は、傷つけたらあかんかったもの。
      俺は引きかけたの手をぐっと引っ張った。
      言いたい事があるんに、言葉が出て来いへん。
      








      「私には、靖乃がどうして苦しんでるのか解らないけど・・・」








      「・・・っ・・・・」







    
      「ううん、原因が解ってもきっと何も出来ないんだけど・・・」









      「・・・・」









      「靖乃は、一人で苦しむ必要なんてないんだと思う」










      「・・・・・俺・・・・」









      「靖乃は独りじゃないんだよ?」











   
      あぁ、どうしてこの人には解るんやろ。
      どうして俺の欲しかった言葉を、こんな簡単にくれるんやろ?
      俺でさえ解らんかったこの感情。
      どうしては解ってくれるんやろ?
      どうして包み込んでくれるんやろ?
      溢れてきそうな涙を必死に堪える。
      きっとそうしてる事も、にはお見通しなんやろうなぁ。
      そう思うと自然と笑みが零れた。
      





   
      出口がないと思っとったこの部屋。
      違う、周りが暗くて見えんかっただけなんやね。
      きっとな、電気があることに気付かへんかったんよ。
      俺、スイッチの場所が解らんでイライラしとった。
      でもな、が照らしてくれたから。
      小さな蝋燭みたいな温かい光で、照らしてくれたから。
      一緒に探そうって、言ってくれたから。
      









 
      「、酷い事言うて、ごめん」









      「ん」








 
      「・・ありがと・・・・」










      「どういたしまして」










      があんまりにも優しう笑うから。
      思わずつられて一緒に笑った。
      やっと笑った、とは柔らかな手で俺の頬を撫でた。
      おかげさまで、と俺はの手にそっと口付けた。
      いつの間にか消えてなくなったあのドロドロした感情。
      粘っこい、心臓に詰まるようなあの感情。
      全部、が綺麗にしてくれたん?
      










      「、キスしてもええ?」











      「レコーディング終わったらね」













       そう笑ったを引き寄せて、そのまま唇を重ねた。
       優しく、触れるだけのキス。
       ごめんとありがとうを一緒に込めたキス。
       が綺麗にしてくれたこの心と身体、伝わったやろか?
       唇を離したの顔は妙に膨れっ面で。
       早く終わらせないと怒るからね!と俺を叱咤した。
       俺は、任せときい、との額に口付けた。






   

  
      1から10まで欲しいんやない。
      全部を理解して、全部を包み込んで欲しいんやない。
      こんなん、俺の我が儘なんやけど。
      は結局何も聞かへんかった。
      やから俺も何も話さんかった。
      でも、それが俺らの愛の形っちゅーもの。
      俺の我が儘を我が儘にさせてくれへんの愛の形。
      この上なく愛しく思う。






















      BE HAPPY...?




      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

      ありえないくらい情けない靖乃さんです。
      普段凄く頼れる人っていますよね?
      頼りになるから頼って、頼って、頼ってて。
      じゃあ貴方は、その人の「頼れる人」になってますか?
      「頼りになる人」は一体誰に頼れば良いのでしょうね?
      貴方は大切な人、支えてあげられていますか?






      20040216     未邑拝 

     







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