必要ないもんなら全部無くなればいい。
      全部消えて無くなれば、未練なんてもん存在しねぇのに。























      離別忘れ























      
      幾層にも重なって重そうな雲。
      灰色の空は今にも落ちてきそうなくらい近い。
      雲を抜けきれない想いが世界に沈澱する。
      雨のヒマツが少しだけ冷たい、そんな夕暮れ。


      お前の為なら死ねるって。
      そんな甘い夢を見たのは多分夢。
      一緒に死ぬよって言ってくれたのは多分幻聴。
      都合の良いことばっか作り出す頭。
      きっとは、一緒に死んでなんかくれねぇよな。


      「秋になったらさ、紅葉見に行こうって言ったじゃん?」


      「覚えててくれたんだ?」


      忘れるわけない。
      忘れられるわけがない。
      約束、守ることより破ることの方が多かったかもしんねぇけど。
      忘れたこととか一度もねぇよ。
      言い訳にしか聞こえねぇかもしれねぇけど。


      「悪ぃけど、一緒行けそうにねぇよ」


      「仕事、忙しいから・・・?」


      「・・・」


      「秋じゃなくたって良いよ・・・?」


      「・・・」


      秋になったら一緒に仙台行ってな。
      仙台の綺麗な紅葉見ようなって約束した。
      冬になったら鍋しようなって。
      雪見ながらこたつの中でくっつきあったりしてな。
      春になったら花見とかして。
      桜の下には死体があるとか笑ったりしたいって。
      夏になったらベタだけど海とか行ったりしてさ。
      いっぱい、いっぱい一緒に過ごそうなって。


      「春も夏も冬も・・・一緒にいけない」


      「新弥・・・?」


      「悪ぃ・・・」


      「それじゃ解んないよ・・ねぇ、新弥?」


      気持ちが冷めたわけじゃない。
      だけど何言ったら良いかわかんねぇよ。
      

      「もう・・・一緒にはいれねぇよ・・・」


      晴れなんてものが無かったら、晴れて欲しいなんて思わなかった。
      雨なんてものが無かったら、雨が降るかもしれないなんて思わなかった。


      あの日、初めてが泣くのを見た。






      
















      独りになった部屋。
      独りのはずなのに、まだ二人でいるような気になる。


      キッチンに行けば料理してたの後姿を思い出す。
      色違いで買った青いグラスと紫のグラス。
      それが出されることはもう二度とねぇけど。
      

      風呂場に行けばの使ってたシャンプーがある。
      いつだって綺麗な黒髪は俺の好きなもんの一つで。
      良い匂いだって言ってから変わることのないそれ。
      そしてもう減ることもねぇソレ。


      リビングに行けばが気に入ってたソファーとクッション。
      一人用のそれに二人で無理矢理座って。
      いつか壊れそうだって言ってたよな。
      一人分の重さじゃ壊れようがねぇよ。


      寝室に行けば、が作った淡い光のランプ。
      すげぇ綺麗で、こんなん素人でも作れんのかって思った。
      電球が切れたら一緒に買いに行こうなって。
      なぁ、一人じゃ付け替えらんねぇよ。


      自分から突き放したくせに。
      欲しくて欲しくて仕方ない。
      いつだっての姿を探してる。
      いつだって、いつだって、いつだって。


      別れたかったわけじゃねぇ。
      でもそうやってじゃねぇと守れなかった。
      守ってやるにはそれしかなかった。


      好きで好きで好きで好きで好きで好きで。
      好きで好きで好きで好きで好きで大好きで。
      もう、殺すしかないと思った。


      「はっ・・・馬鹿じゃねぇ?俺ってさ・・・」


      愛しさの先に立つものが殺意であるなんて。
      自分が恐かった。
      が恐かった。
      どうしたら良いかなんか解るわけなかった。


      抱きしめるだけじゃ足りなくなって。
      キスするだけじゃ全然足りなくなって。
      触れるだけじゃ足りな過ぎておかしくなりそうで。


      愛しい。
      愛しくてどうしたら良いか解んねぇよ。
      

      なぁ、今までどうやって愛してた?
      どんな目でを見てた?
      どんな声でを呼んで、どんな手でに触れた?
      どんな仕草で身体で吐息でを抱いた?
      

      今まで通りじゃ意味がなくて。
      だけど今まで通りの意味すら解んなくて。
      思い出せねぇ。
      

      「でもさ・・・」


      今まで通りじゃ意味がねぇの。
      今まで通りの中に収まる感情じゃねぇ。
      今にも溢れ出しそうで、零れ落ちそうで。
      それを受けとめてくれる器は、もういない。


      「こんなの・・望んでたわけじゃねぇって・・・」


      壊したくなかった。
      大切にしたかった。
      だから壊した。


      俺のやってることは結局は無意味なことで。
      自己満にすらなりゃしねぇ。
      空回りならまだ可愛い。
      まだ元に戻せる可能性があるから。


      「今更・・・謝れねぇよ・・・」


      後悔がどんなものかなんて知らなかった。
      圧倒的な絶望の前に思い知らされたソレ。
      身動きが取れなくなる。
      足元に絡みついたのは後悔の蔦。


      無くしたものが元通りになることなんて無いに等しい。
      それが自分から捨てたものなら、尚更。
      

      「なぁ、・・・」


      繋がったものが切れた瞬間。
      二つに分かれたそれは一瞬にして別の物質に変わる。
      空気に触れて、世界に触れて。
      強制的に、だけどごく自然に変形してく。
      歩み寄ることはあってもまた繋がることは有り得ねぇ。
      間違ったパズルのピースみたいに、歪に醸しだす不協和音。
      結局はまた離れていくしかねぇんだ。


      「それでも俺・・・お前が好きなんだよ・・・」


      俺は幼すぎたのか、それとも知りすぎてたのか。
      繋ぎとめておく術なんて、何も知らねぇよ。
      突き放すことで自己に陶酔して。
      知ったのは後悔の言葉の意味だけで。


      「どーすりゃいいんだよ・・・」


      必要ないもんなら全部無くなればいい。
      全部消えて無くなれば、未練なんてもん存在しねぇのに。     


      「俺には、必要なんだよ・・・っ」


      が消えれば、こんな想いしなくても良いのかも。
      違う。
      俺が消えれば、こんな想いしなくても良いんだ。






      















      「辛いのは自分だけだとか思ってる?」


      「・・・悪ぃ・・・」


      「私も新弥と同じ気持ちだって、少しでも思わなかった?」


      「・・・そんなこと、あるわけねぇじゃん・・・」


      「ねぇ、新弥?幸せって、何だろうね」


      「・・・」


      「唯大好きで、唯々・・・愛しいだけなのにね」


      「・・・」


      「どうして好きだけじゃ駄目なんだろうね」


      「・・・・・・」


      「どうして足りなくなっちゃうんだろうね」


      「・・・好きだからじゃねぇ・・・?」


      「・・・」


      「好きだよ・・・」


      「新弥・・・もしかしたらさ・・・」


      「っ・・・俺・・・」


      「人を愛することって、間違いなのかもしれないね」


      「・・・」


      「私達、間違ってたのかもしれないね」


      「・・・俺・・・お前が好きだよ・・・」


      「きっと、間違ってたんだろうね」


      「・・・愛してる・・・」


      届かない想いなら消えてしまえ。
      届かない想いならさっさと消えろって。
      こんなの・・・惨め過ぎんだろ。


      秋に始まった恋は、本当の恋だって。
      俺達の恋っていつから始まったんだっけな。
      

      ニセモノでも、俺にとってはホンモノだった。
      俺馬鹿だからさ、区別が付かねぇだけかもしんねぇけど。
      間違いと正解なんて、俺には解んねぇよ。
      

      愛しすぎたことが間違いなら、今すぐ忘れるから。
      愛しくて狂いそうなあの感情が間違ってるなら、今すぐ捨てるから。
      

      なぁ、ニセモノはホンモノには敵わねぇの?


      なぁ、ニセモノはホンモノにはなれねぇの?


      なぁ、忘れられるわけねぇじゃん。


      なぁ、・・・


























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      5万打御礼リクで煌鵺サン家の時雨さんに捧げます。
      【泣ける話】ってリクだったけど・・・これじゃ泣けねぇよ・・・ごめん。
      
      時雨のみお持ち帰りOK。
      書き直しはいつでも受け付けます!カモンベイベー。


      
      20041029  未邑拝

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