*徒然恋慕*















なんて・・・遠い目をしてるんやろ。
深くて、悲しい。

こんなざわついた居酒屋ん中でも、そこだけ凍りついてるみたいや。




「堕威君堕威君、知ってた?」

「・・・は?なんや敏弥」

「京君と、別れたらしいじゃん」

「あ〜・・・」

「知ってた?」

「空気でわかるやん、なんとなく」

「まぁね・・・。
ハッキリした理由はわかんないけど、あの様子だと、の方はまだ・・・」

「そうみたいやな。で、何や?」


「・・・堕威君、別に興味無い?」

「べっつに・・・人の事なんかどうでもえぇやん」

「なーんだ!俺さ、てっきり堕威君もの事狙ってたのかと思ってたんだけど!」

「・・・んな訳無いやん。自分と同じ職場におる女なんか嫌や」

「そう?いっつも一緒にいられていいじゃん。ま、別れたら気まずいけどさ」

「そやろ?学校とかでもそうやん。同じクラスの女と付き合うて別れたら、めっちゃ気まずうて・・・」

「そうだけど・・・」


「ん?なんやお前、もしかして・・・ん事狙っとんの?」

「ん〜どうかな(苦笑)」

「やめとけって!」

「なんで?」

「なんでって・・・」



「おーい!敏弥!!」



「あ、薫君が呼んでる・・・んじゃね、堕威君」

「・・・・・・・・・」




さっき、ドキッとした。
自分の気持ちなんて、誰にも話した事あらへんのに、敏弥のヤツ・・・サラッと言いよった。

そうや、敏弥にはあんなん言うたけど・・・
ほんまは、が俺らのスタッフとして仕事をし始めた時から、ずっとアイツの事気になっとった。


でも、いつの間にか京と付き合うっとって。
その頃は、ま・・・しゃあないか、くらいの気持ちやったんやけど。

それでも、やっぱが傍におったら多少は気になる。
せやから・・・だんだん、の表情が変わり始めてるのにも気づいとった。京と上手く行って無いんかな・・・とか。



っていうか!敏弥・・・アイツもの事気にしとるみたいやけど。本気・・・なんか?

本気や無いんなら、そんな傷心の女に付け込むような真似すんなって。
少しはの気持ち考えろっちゅーねん。






は、同じスタッフの子らと・・・一見楽しそうに会話しとるよう見えるけど。
フッと途切れた会話の間なんかに、何気なく京の方へ視線を向けとる。酷く、悲しい目で。

・・・って、何観察しとるん、俺(汗)



あ・・・あっ!!

アカンッ・・・と目ぇ合ってもうた(汗)

不自然に目を逸らし、煙草に手を伸ばして火を点ける。
あっ煙草逆やん!!燃える燃える!!(死)何テンパってんねん!俺!!(焦)



まさか、見られてへんよな・・・と思って、ゆっくりの方に視線を移すと・・・




「くすっ・・・」



・・・笑われとるやん(汗)
めっちゃ恥ずかしいんやけど(滝汗)


でも、またすぐに表情を強張らせて・・・視線を逸らした。

なんだか・・・な・・・;;




その京といえば、を意識しとる様子は全くみられない。
何があったのかわからんけど、の方は、まだほんま未練たっぷりみたいやな。













次の日移動日で・・・そのまた次の日。
とある、地方のライブ会場。


開演まで1時間という・・・一番切羽詰った時間帯。
と言っても、俺らメンバーは指ならしをしたり、準備体操なんかをしたりと・・・ほどほどに余裕もある。

今の時間帯、一番忙しいのはスタッフの方やな。


そう思い、何気なく楽屋内を見回すと・・・衣装チェックをしてるの姿が。
アンコールの衣装をメンバー別に仕訳して、ハンガーに掛けとる。

そして、おもむろに京の衣装んとこで・・・顔をしかめて、動きがスローになる。


なんか・・・結構重症やねんな。見てられへんわ。





、あの・・・」

「・・・えっ、あ、はい!何ですか?堕威さん」



あ・・・アカン・・・無意識に声掛けてもうた(汗)



「や、あんな?(汗)アレや。その・・・あんま元気あらへんな、思って・・・」

「え・・・あ、そんな事無いですよ」

「あ〜・・・そか」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」



そら、元気あらへんな言うて・・・はい、元気ないです、とは言わへんよな(汗)




「あっそうだ。ちょうど良かった。堕威さんのこの衣装なんですけど・・・」

「ん?」



話題を変えるべく・・・急に衣装の話なんかをし出した
必死に、明るく振舞おうとする。

そんなに気張らんでえぇのに。無理しとるその姿は、見てるだけでほんまに痛々しい。
思わず、抱きしめたくなる衝動に駆られる。





「〜・・・ですね、わかりました!じゃあこれで行きますね」

「ん、宜しくな」



ちゃーん!こっちお願い!」



「・・・あ、はい!今行きます!!あっごめんなさい、堕威さん!じゃ行きます!」

「あっ!ちょっと待っ・・・!」

「はい?」


「あんま・・・無理したらアカンで」

「えっ・・・堕威さ・・・」

「ほな」

「・・・・・・・・・」



・・・と、軽くの肩を叩いて、立ち去った。
俺、何カッコ付けてんねん(汗)

っていうか、余計なお世話や!思うたかな・・・?(汗)













そして開演・・・本編終了。只今アンコール前。
何やら、薫君の機材がトラブってるらしく、それの復旧待ち。




「あの・・・堕威さん」

「・・・ん?あっ、!(ドキ)」


「あの・・・さっきのって・・・」

「へ?さっきの?」

「あたし・・・その、無理してるように見えます・・・か?」

「あぁ・・・その話か・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」



アカン・・・何て言うたらえぇんやろ(汗)

、怒っとるんかな?
の口から何も聞いた訳や無いのに、いきなりあんな意味深な事言うて・・・




「あ・・・ごっごめんなさい、突然!あたしってば・・・ライブ中なのに・・・失礼ですよね・・・」

「いや、俺の方こそ・・・なんか、わかったような口聞いてもうて・・・ごめんな」

「いいえ・・・無理してたのは本当ですから」

「あ・・・」


「堕威さん・・・もしかして、京さんから何か・・・」

「いや、ちゃうねん。の事見とって・・・最近アレやな・・・思うて・・・うん」

「そ・・・うですか」

「ん、せやから・・・何も知らんねん。俺の勝手な憶測で・・・な」

「・・・・・・・・・」



すると、少し俯き・・・ポツリと呟いた。



「別れたんです、こないだ」

「そう・・・なんや」

「結局、あたしじゃ役不足って感じで・・・だから、あたしが全部悪くって・・・」


「詳しい事はようわからんけど・・・でも、そんなんが全部背負い込む事は無いんちゃう?」

「え・・・?」

が全部悪いとかそれは・・・こういうのって、お互い様みたいなとこあるやん」

「あ・・・」

「せやから、そんな自分ばっか責めんでも・・・」

「・・・・・・・・・」

「元気・・・まだ出ぇへん思うけど・・・あんま思いつめたらアカンで?」

「堕威さん・・・」



少し涙目で、俺を見上げるに・・・やっぱりドキッとしてしまう俺。
真剣に慰めてるつもりやのに・・・なんか下心あるみたいで嫌やな。

まぁ・・・無いとは言い切れへんけど(汗)




「あ〜・・・薫君の機材復活したんかな?ちょぉ見て来るわ」

「あっ、あの・・・!」

「ん?」

「ありがとうございました、なんか・・・ちょっと軽くなった気がします、心の中が」

「そか・・・」

「堕威さんって優しいんですね・・・」

「いや・・・」



少し笑顔を見せたが、俺の目にはますます眩しく映って。

今までは京の事もあったし、どこか自分の気持ちを押さえ付けとった部分があったんやけど・・・
アカンわ。今俺、完璧の事・・・


ってゆうか、敏弥にあんな偉そうな事言えへんやん、自分!(死)
でも、俺は俺なりに・・・本気やねん。








それから、なんとなくメールのやり取りなんかが始まった。
勿論、付き合うてる訳やない。友達として。

せやから内容なんて・・・大したもんやあらへん。
家帰ったらゴキブリおったとか、コンビニ寄ったら新発売のイチゴのお菓子があったとか・・・そんな話題。

そんな、一見くだらなく見えるやり取りでも、俺は楽しかった。








ある時・・・ひょんなやり取りから、一緒に飯を食いに行く話になった。2人だけで。
これはある意味・・・デートやんな。

早る気持ちを抑えつつ、ドキドキしながら待ち合わせ場所へ向かった。



「堕威さん!!」

「あ・・・」



ちょっと遠くから駆け寄って来たは・・・普段見る仕事着のようなパンツスタイルでは無く、スカートに・・・
それから、いつも結ってる髪を下ろして。

なんかこう・・・いつもより色気っちゅーか・・・(照)




「ごめんなさい;;疲れてるのに・・・」

「や、なんかこう・・・無償にラーメン食いたなる時ってあるよな。
俺もちょうど麺類食いたい思っとったとこやし、うん」

「ほんとですか・・・?」

「ん」



そうなん。がどんなに色っぽい格好して来ようとも・・・行く場所はラーメン屋。

がいつものように、仕事帰りコンビニ寄ったら・・・どうしても食いたかった目当てのラーメンが無かったんやと。
せやから今日は何も食わんと寝る!みたいなメール来よって・・・

そんなん言われたら、せやったら美味しいラーメン屋連れてったる!って話になるやろ?


で・・・今に至る訳で。
ラーメン屋デートなんて微妙やけど・・・ま、えぇやん!2人で食事出来るんやから!




「場所、どこなんですか?」

「ん、すぐ近くや。結構人気あるから、もしかしたら並んどるかもしれんけど・・・」

「へぇ・・・。でも並んで待ってから食べるラーメンって美味しいですよね!!わぁ・・・楽しみ!!」







そして、歩く事5分・・・




「ここや」

「あ・・・ここ・・・」

「ん?来た事あるん?」

「あ・・・はい、1回だけ・・・」



思わず、京と?って聞きそうになってもうた。
ちょっと曇らせたその表情から・・・安易に予想出来てまうけど。


あー・・・他の店にしたら良かったな。
ラーメン屋なんか腐るほどあんのに・・・(汗)

でも、ここで他の店にしよか、なんて言うたら・・・変に気ぃ廻しとるみたいで、かえってアレやんな。




「あぁ!来た事あるんや?ここの豚骨ラーメン、めっちゃ美味いんよな!」

「あ、そうですよね!あたしも豚骨ラーメンがいいなぁ・・・」

「そんな並んでへんな。良かった」

「はい!じゃあ、並びましょっか・・・」




そんで・・・ほどなく俺らの順番が来て。
食い終わって・・・で、まだ並んどる人おったから、ゆっくりしとるのも悪くて、とっとと店を出た。




「腹いっぱいなったか?」

「はい!すいません、なんか・・・あたしが誘ったようなもんなのにご馳走になっちゃって・・・
ほんとは、あたしがご馳走しないといけないのに・・・」

「何言うとるん。女の子に払わせたら・・・俺、格好悪いやん(苦笑)」

「ほんとすいません・・・。じゃあ・・・ご馳走様です;;」

「えぇって、こんくらい。また食いに来よな?」

「はい!でも、今度はあたしが払いますからね?」

「せやから、えぇって!(笑)」

「そういう訳には参りません!(笑)」

「結構強情なんやな・・・って(苦笑)」

「すいません;;(苦笑)」



・・・と、何気なく言うたけど・・・また一緒に俺と食いに行くって・・・言うてくれたよな?
俺にもまだチャンスあるって解釈でえぇんよな・・・?

たかだかラーメン一杯で、こんな気分えぇの初めてや。


そしたら・・・今日のとこはあんま深入りせんと、送ってくか。




「ほな帰るか」

「あ、はい」



そして途中、自販機でペットボトルを買い・・・(これはどうしてもが出す言うて聞かんかった)
それを飲みながら、の家に向かった。

ここまでは、えぇ流れやったんやけど・・・



の家に着く、一歩手前んとこで・・・妙な人影を発見してもうた。
一瞬、グッと胸がきしんだような気がした。




「あ・・・あれ・・・」

「・・・・・・・・・」



向こうは、まだ俺らの存在に気づいてへんようやった。


その人影を見てから、自分の携帯を取り出して、電源を入れとる
って事は・・・今ずっと電源切っとったんや?

で・・・いくつかメールを受信したようやった。

そして、その画面を見ながら・・・うっすら涙を浮かべ始める。





そんなを見ながら・・・
さっきまでの、自分の紅潮しとった気持ちが・・・一気に青ざめてった。


なんやねん、ほんまに・・・やっぱ俺やアカンねやんか。俺や・・・アカンねん。

しゃあないやん。
えぇ方に解釈して、俺が勝手に調子こいてただけやし。



せやから・・・俺やアカンねん。






「・・・ほら、早よ行かんと、

「でも・・・っっ・・・」

「今行かへんかったら後悔するやろ?」

「・・・・・・・・・」



メールの内容はわからへんけど・・・
アイツがこうして電話の繋がらん相手を、じっと待ってる姿なん・・・普通やったら考えられへん。

せやから、よっぽどの用なんやろ。




「俺と一緒におるとこ見られて・・・誤解されてもアレやから・・・帰るな?」

「堕威さ・・・」

「ちゃんと話するんやで?な?」



ようやく、コクリと頷いたは・・・俺に背を向けた。
それから少し振り返り・・・



「今日はほんと・・・ご馳走様でした」

「ん。えぇから早よ行き?」

「はい・・・じゃあ・・・」



そして、角を曲がり・・・家の方へ向かって歩き始めた

盗み見みたいで嫌やけど、ちょっと自販機の陰に隠れて様子を伺っとった。
すると、2人は少し会話した後、の部屋に上がってった。


ヨリ・・・戻ったんやろか・・・。

俺は、大きく溜息を吐いてから、歩き出した。












次の日。

恐らく、昨日あれから・・・京と上手く行ったんやろうと、その事を聞こうと・・・
に話し掛けるチャンスを狙っとった。

ヨリ戻ったゆう事実を叩きつけられたら、俺の心ん中も完全にシャットダウン出来る思って。



で、取材の合間・・・ちょうど楽屋でと2人っきりになったとこで・・・




、昨日・・・上手く行ったんやろ?」

「あ・・・(///)」



この反応。やっぱ・・・そうか。
ほんの少し・・・アホな期待もしとったけど・・・やっぱそうか。

しゃあないねんな・・・。




「良かったやん」

「あっううん・・・違うんです」

「・・・へ?」

「ヨリを戻したとかじゃなくて・・・」

「どういう・・・事なん?」


「堕威さんだから言っちゃいますけど・・・
”もうちょっとだけ待ってて欲しい”って言われたんです」

「え・・・なんなんそれ?意味わからんのやけど・・・」

「今はあたしの事受け入れる余裕が無いけど、でも、その・・・あたしの事・・・」

「好きや、言うたんか?」

「・・・はい」



え・・・ちょっと待てや。
そんなん調子良過ぎるやろ!待てって何やねん?これ以上ん事傷つけるつもりなん?!

”好き”ゆう言葉だけで、を縛るんか・・・?!


カッと来たものの・・・を見ると、何故か表情は明るい。




「それで・・・えぇんか?!」

「はい」

「でも!ちゃんと付き合うてくんや無いんやろ?そんな漠然とした答えでえぇんか聞いとるん!」



何故かヒートアップしとる俺に、は少々驚きつつも・・・
俯いてはにかみながら、答える。



「例え・・・京さんがあたしの事嫌いになったとしても、あたしの気持ちは変わらないってわかったから・・・」

「・・・・・・・・・」

「だから、好きって言ってくれただけでもあたし・・・」

「・・・・・・・・・」

「堕威さんには、いっぱいご迷惑掛けて・・・ごめんなさい。あたし、もう大丈夫です」

・・・」




な・・・んや、それ。


やっぱ・・・アカンやん。
どう転んでも、アカンかったんや。

がヨリ戻したんちゃう言うた時・・・また、少なからず期待した、単純でアホな自分がおった。


悲しそうなの表情を見るたび、今にも折れそうなその体を抱きしめたくなった。
でも・・・の気持ちは、俺が考えとった以上に・・・ずっとずっと強いもんやった。


もう・・・降参や。
えぇ加減諦めや、自分。

男は引き際が肝心やねん・・・。





「そか・・・。ほんなら、早よその時期が来るとえぇな」

「そうですね・・・。でも、あんまり期待しないで待ってみるつもりです;;
期待してダメだったらショックが大きいでしょう?だから・・・」

「いや、京は・・・いい加減な気持ちで”好き”とか言わん奴や。
せやから・・・きっとの事ちゃんと考えとる思うで」

「堕威さん・・・」

「また何かあったら・・・いつでも相談しぃや?大した事言われへんけどな」

「はい・・・何かあったらまた話聞いて下さい・・・。
あ!ラーメン屋、また行きましょうね?今度は、あたしのお勧めのお店紹介しますから!」

「あぁ・・・そうやな。行こな」



にはそう言うたけど・・・多分、もう2度とと2人では出掛けへん。
ごめんな、俺・・・弱い男やねん。


せやから、俺にも時間くれや。お前の事、完璧に自分の心ん中から消し去る時間を・・・な。








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〜エピローグ。

「レッテルパラドックス」様のサイトお誕生日記念にて、氷祈 未邑 様へ捧げさせて頂きます!!
2周年おめでとうございます!!これからも素敵な夢を沢山生み出してって下さい!
という訳で、拙いながらも餞にこの小説・・・受け取ってやってっ!!(逃)   藍楓。



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あああありがとうございますー!!
私のなんとも言えないリクに応えてくださってほんと感激です!
堕威くんの切ない心の動きに心臓がキュンとしました。
一人で全てを抱え込んでしまう彼が本当にいとおしく思いました。
ほんとうにありがとう!大好きですvV
未邑拝



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