紅い飴玉ばっかり床に散りばめた。
      どれだけ経っても埋まることのない床と、心。
      ビー玉みたいなそれは愁いを帯びては乱反射する。
      足元に転げたそれを口に含むと、ゆっくり、溶けていくのが解った。

















      罪と罪とと罪


















      この時がずっと続けばええと思った。
      ガラにもなく、最後の恋やと思った。
      の後なん、考えた事もなかった。
      この幸せがずっと続けばええなと思っとった。
      この幸せを信じすぎて、疑う事を忘れとった。




      「ねぇ、薫?聞いてもいい?」




      「ん?どした?」




      ベランダに続く窓に寄りかかって雑誌を読む俺に、はそう言った。
      俺の肩にコトンと頭を置くと、柔らかい髪が頬にあたる。
      の髪に顔を近づけようとしたとき、ふいに思い出したコト。
      人の匂い嗅ぐんはオヤジ行為やで?!って京くんのセリフ。
      別にの匂い嗅ぎたいんやないで?
      唯、柔らかそうやなぁと思て・・・あかん・・・
      またオヤジ行為や!って言われそうやん・・・
      一人で苦笑いしとったらが不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。
      ダメ?と言わんばわかりのに、ダメやないよ?と笑ってみせる。




      「あのさ、『生まれる』って言葉あるよね?」




      「生命の誕生とかの『生まれる』?」




      「うん、そう」




      「それがどうかしたん?」




      「コレってさ、私が望んで『生まれた』ってコトかな?
       それとも私はお母さんに『生まれた』のかな?」




      ベランダで鳥の鳴く声が聞こえた。  
      もう春なんやなぁと阿呆な事考えた。
      一瞬、の言うた意味が理解出来ひんかってん。
      『生まれる』の言葉が持つ意味、そないな事考えた事なかってんやんか。




      「私ね、ずっと不思議だったの。私は『生まれた』のかなぁって」




      「おかんに勝手に生まれたんかて?」




      「うん、私は『生まれた』かったんじゃないのかなぁって」




      の感覚は、そう、京くんのそれと似とる。
      いや、少しちゃうわ。
      京くんのそれよりもっと透明で澄んだ感じや。
      純粋で、綺麗で、俺なんかが触ってもええんかて思う。
      せやけど抱きしめずにおれんのは、あそれがやから。




      「は、生まれてきたくなかったん?」




      「・・・よく解んない・・・」




      「さよか。あんな、『生まれた』か『生まれた』かはどうでもええねんて」




      は振り返って、じっと俺の目を見つめた。
      次の言葉を急かすかのように、答えを急かすかのように。
      ありふれた言葉しか、使い古された言葉しか言えへんけど。
      




      「俺にとってはが存在しとぉ事に意味があんねんから」




      にとっては反吐が出るような言葉かもしらん。
      にとっては何の意味もあらへん言葉かもしらん。
      唯のエゴで、端から戯言でしかないんかもしらん。
      上手く言えへん自分がもどかしい。





      「薫は・・・私が生まれてなかったら、どうする?」




      「どうもせぇへんよ?」




      「冷たっ・・・」




      「だってがおらへんかったら、俺だっておらへんもん」




      が生まれてなくても俺は生まれとんのやけど。
      確かに生まれとんのやけど、それは間違いないねんけど。
      でもそれは俺やないねん。
      とおった全ての俺を「俺」って言うねんで?
      と過ごした時間が「俺」を創ったんや、意味、解る?




      「『生まれた』か『生まれた』かなんて考えても解らんやろ。
       どっちやったかは、が決めてええねんて」




      「私が?」




      「せや。がなして生きとんのか、これ以上の答えはないんとちゃう?」




      「そ・・・なのかな?」




      「実感してみる?生きとる意味っちゅーやつ」




      俺は左手での前髪を掻き上げて、額にキスを落とした。
      低めの体温が温かかった唇に伝わる。
      こんなキス1つで何も伝わるわけないねんけど。
      こんなキス1つで何か伝わればええなぁと思う。
      唇を離すとはそっと目を閉じた。
      なぁ、こんなんもアリやない?
      俺は目を閉じながら、の瞼に唇を重ねた。
     



      「これが生きてる、意味?」




      「どないなもん?」




      「薫に愛されてるなぁって実感したよ?」




      「が感じたんが、本物の答えやろ?」




      「・・・うん・・・」




      照れると右側の髪を掻き上げる癖が妙に可愛くて。
      あぁ、好きやなぁて思った。
      過去に「もしも」が禁句なんは鉄則。
      せやけどたまに考えてまうねんな、もしもに出逢えんかったら、って。
      と過ごした時間、を愛しいと思った気持ち、全部無かった事になんねん。
      今、この瞬間さえもなくて、今、この瞬間の俺さえもいない。
      こうやって幸せやなぁって感じる事さえなくて。
      「もしも」って考えると今の俺を否定しとるような気持ちになる。
      それでも考えてまうんは、が愛しくて堪らんから。
      がおらん生活は考えたくないほど、を好きな気持ちばっかり大きなって。
      がおればええやって思う浮遊感には気付かんフリをした。
      今、この瞬間が幸せやと思うから。
      今、この瞬間を壊したないって思うから。




      「もっと実感してみたない?俺の愛っちゅーやつ」




      「薫・・・オヤジくさ・・・・」




      「可愛ない事言うたんはこの口かぁ?」




      「やっ・・・ぅんッ・・・・」





      この時がずっと続けばええと思った。
      ガラにもなく、最後の恋やと思った。
      の後なん、考えた事もなかった。
      この幸せがずっと続けばええなと思っとった。
      この幸せを信じすぎて、疑う事を忘れとった。
      俺が幸せやからって、が幸せとは限らんって事、気付かへんかった。























      「警察は自殺と断定しました」
      





















      最後に見たの姿は、真っ赤、やった。
      真っ赤な血が太陽に反射してキラキラ光っとった。
      血の海を漂う海月みたいに真っ白な腕、足。
      怖いくらい綺麗やて思った。




      「なぁ、?俺置いて、何処行ったん?」




      抱き起こした身体に熱はのうて、せやけど冷たくもなかった。
      服に付く血もその匂いさえも、愛しく感じた。
      コレがの身体ん中流れよったんやと思たら、それさえも愛しゅうて。
      俺の身体もと一緒に血溜まりの中に埋めた。




      「も今、独りなん?」




      床に転がった紅く染まった銀のカミソリ。
      生を抉るにはあまりにも小さ過ぎて心を抉るにはあまりにも大きすぎる。
      見とるだけでも眩暈を覚える。
      こんなヤツがの肌を撫でたんやと思うだけで眩暈を覚える。
      嫉妬深い自分に吐き気を覚えた。




      「なぁ、?独りって寂しゅうない?」




      が拘っとった『生まれる』と『生まれる』の意味。
      能動態と受動態っちゅう説明不足の世の中の仕組み。
      自分の意志で生を受ける子供なんておらへんよな。
      せやったら皆生まれたくもないんに『生まれた』っちゅー事なんやろか?
      おかんに勝手に生まれたっちゅう事なん?
      の答え、俺にも教えてくれへん?





      「俺、めっちゃに会いたいねんけど」





      最初っから答えがないのは解ってんねん。
      せやけど、不確かな自分が恐くて答えに縋り付きたいねん。
      贋物でもええから、創られた答えに確固たる自分をみる。
      答えがあらへんなら贋物も本物もないねんけど、それじゃあかんねん。
      そうやって生きていけるほど、強ないねん、俺もも。
      弱いって言われてもええ、根性なしって言われてもええ。
      自分を護って生きてく事は、そんなに悪い事なんか?





      「なぁ、?今から会いに行ってもええか?」




      望んだ命でも作られた命でも、俺らは変わらず出逢えたと思う?
      出逢って、恋に落ちて、また同じ過ちを繰り返したと思う?
      過去に「もしも」は無くても、未来に「もしも」はあるんやろか?
      なぁ、今がおる場所は過去なん?それとも未来?
      俺等は何処に行ったらまた、出逢えるんやと思う?
      もし知っとるなら教えてくれへん?
      俺、今から逢いに行くから。
      




      「そこで、待っとってくれへん?」




      紅い飴玉ばっかり床に散りばめた。
      どれだけ経っても埋まることのない床と、心。
      ビー玉みたいなそれは愁いを帯びては乱反射する。
      ほら、の血と同じ色に見えへんか?
      キラキラ光っとって、怖いくらい綺麗やと思わへん?
      そんな顔せんといてや、勿論の方が綺麗やて。
      銀色のカミソリは右手?左手?・・・両手で持つ事にするわ。
      首?左手首?胸?と同じ傷がええな。
      少しでもはよ逢いたいねん。




      の罪は生まれた事に疑問を抱いた事。
      俺の罪は答えを導き出そうとした事。
      の罪は俺に何も気付かせんかった事。
      俺の罪は何も気付いてやれへんかった事。
      の罪は俺を置いて独りになろうとした事。
      俺の罪はを独りにしてしもた事。
      俺等の罰はまた出逢いを繰り返す事。




      きっとは息苦しかったんやと思う。
      自分が何なのか解らんかったんやと思う。
      あの時俺が違う答えを提示しとったら、こないな事にはならんかったんやろか?
      あの時もしも・・・どうしようもないねんけどな。
      、独りにしてごめんな、助けてやれんでごめん。
      すぐ行くから待っとってな、そこで待っとってな。
      今度は『生まれる』前に、答え合わせしよ?
      『生まれる』んか『生まれる』んか、どっちなんかを。
      そしたら今度は、もっと上手に生きれるかもしれへんやろ?
      もしも、の話やけどな。




      薄れ行く意識の中で、散りばめた飴玉がキラキラしとんのが見えた。
      重ね合わせるのはあの日の血溜まり。
      愛しくてしゃーなかった真っ赤に染まるの身体。
      見惚れてまうくらい綺麗な、紅。
      足元に転げたそれを口に含むと、ゆっくり、溶けていくのが解った。
      






























      BE HAPPY・・・?


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      えへへ・・・意味不明な精神世界みたいな話に・・・なっちゃって・・・。
      良いのです、何もツッコまないで下さい、頼むから。
      一番最初の15文字が書きたいがためにこの話は生まれたんです。
      これもまた主人公がほとんど出てこない話になっちゃいました。
      イロイロ期待してた方、ごめんなさい(何も期待してない?!)

      少しでもお気に召しましたら感想戴けると嬉しいです。





      20040317    未邑拝











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