なかなか言えない言葉がある。
      口に出したくて堪らないのに、どうしても言えない。
      とっても特別な言葉。





















      特別な言葉























      すっかり日も沈んでしまった午後8時。
      食事を終えて部屋でまったり中。
      隣には大好きな京が寝転がってテレビを見ているのかいないのか・・・。
      点いているだけのテレビから流れる雑音に近い音。
      テーブルの上に置かれた夕食の時に使った食器。
      洗うのが面倒だからもう少し置きっぱなしでいいや。
      私は寝転がる京のお腹あたりに寄り掛かるように身体を預けた。



      「・・・重い・・・」


      「なッ・・・失礼な!!」


      「更にさっきのハンバーグでプラス500グラムやな」


      「京だった食べたじゃん!」


      「俺、動くからええねん」


      「私だって動くもん!」


      「へぇ〜・・・俺が帰って来るまで爆睡しとったのはどこのどいつや?」


      「・・・京の意地悪ッ!!」


      「最高の褒め言葉やな」


      「褒めてない!!」



      私が膨れっ面でそっぽ向くと後ろから京の笑い声が聞えてきた。
      無遠慮な笑い声の京に私が肘打ちすると後ろから頭を叩かれた。
      頭を撫でながらバカって言うと、バカって言う方がバカじゃ、ボケ!って言われた。
      今時そんな理屈小学生にも通用しないよね。
      でも京らしいって思わず笑いそうになる。
      悔しいけど一番幸せな時間。



      この雰囲気なら言えるかもしれない!
      ずっとずっとずーっと言いたかった言葉。
      でも恥かしくてなかなか言えなかった言葉。



      「あ・あのさッ・・・!」


      「何や?」


      「えっと・・・あ、あ・あ・・・」


      「『あ』?」


      「いゃ・・・その〜・・・あ、あぃ・・・」


      「アイ?」


      「〜〜〜アイス!!アイス食べたくない?!」



      あぁ〜〜!!私の大馬鹿ぁー!!!
      こんな事が言いたいんじゃないのに!
      たった数秒前までは言えそうな感じだったじゃない!
      どうしても・・・言いたいのになぁ・・・



      「アイス?まだ食うつもりなんか?」


      「え?!あ、いや・・・やっぱ暑い日はアイスに限るなぁって!」


      「今日の最高気温15度やったらしいけどな」


      「へ・・・?それは・・・涼しゅう御座いますね・・・?」


      「の脳内は年中常夏なんやな、よぉー解ったわ」


      「・・・滅相も御座いません・・・」



      京は呆れたような声でそう言うと、後ろから私の頭を小突いた。
      私は返す言葉もなく小突かれた箇所を手で押さえてみた。
      相変わらず京はテレビに目線を向けてはいるものの音声素通り状態。
      ぼぉーっとしたこの目がとっても好き。
      黒いシャツから見える鎖骨がとっても綺麗で大好き。
      私をバカにしたり笑ったりする声が大好き。
      大好き、大好き、大好き。
      大好き過ぎてね、それだけじゃ足りないの。


      「京ッ・・・あのねッ!あ・・・あぃ・・あ・・・」


      「何やねん、金魚みたいに口パクパクさして」


      「・・・は?!金魚?!なんでよりによって金魚なの?!」


      「金魚に見えんやからしゃーないやろ!」


      「愛らしい彼女を金魚に例えてイイと思ってんの?!」


      「じゃあ愛らしい仕草の一つでもしてみぃ、このボケ!」


      「ボケって何よ!ボケって言う方がボケなんだから!」


      「お前は小学生か!その負けず嫌いな性格どーにかせぇ!」


      「京だってその口の悪さどうにかしてよね!」


      「俺のどこが悪いねん、アホ!」


      「そう言うとこだよ!普通彼女にバカとかボケとかアホとか言わないじゃん!」


      「ホンマやねんからしゃーないやろ!」


      「ッ・・・京のバカー!アホー!!チビー!!!」


      「じゃかぁしぃ!!!誰がチビじゃ!!えぇ根性しとるやんけぇ!!」


      「本当の事だったら口にしても良いんでしょ?!」


      「屁理屈ばっかり言い晒すんはこの口かぁ?!」



      京の怒鳴り声に目を瞑った瞬間。
      ぐっと引き寄せられて寝転がったままの京にキスされた。
      頭を掻き毟るように強く引き寄せる京の手が熱い。
      噛み付くようなキスの嵐。
      息をつく暇もないくらいに塞がれる唇。
      

      こうやって京に触れてるだけで、もう何も考えられなくなる。
      身体の中をグルグル回る消化不良のこの気持ち。
      それは決してこの感情を否定するものじゃなくて。
      好きで好きで仕方がないの、ねぇ、京。
      どうしたら良いのか解らないくらい、大好きなんだよ。


  
      「・・・ッはぁ・・・苦しッ・・・!」


      「やっと静かになった」


      「自分だって五月蝿くしてたのに・・・」


      「何か言うたか?」


      「・・・言ってません・・・」



      この勝ち誇ったような笑顔。
      私はいっつもこの笑顔に負けてるような気がする。
      私はそのまま京の胸に顔を埋めた。
      いつもと同じいいにおいがする。



      「?お前どないしてん?」


      「別にー」


      「何か変やで?」


      「どーせいつも変な女ですよー」


      「誰もそんな事言うとらんやろ」


      
      どうしてこんな可愛げのない事言っちゃうんだろ。
      あのね、気付いてほしいの。
      私が言いたい事、私が言って欲しい事。
      それだって言葉にしなきゃ伝わらないんだけど、でも勇気が出ない。
      京の気持ちが疑わしいんじゃない。
      唯の自己満足すぎて恥かしいだけ。



      「ねぇ、京はサ、私のこと・・・好き?」


      「嫌いやったら一緒におらん」


      「どのくらい好き?」


      「何を基準に言うたらえぇ?」


      「・・・解んない」


      
      伏見がちにそう言うと、京はくしゃくしゃと私の頭を撫でてくれた。
      少しだけ、こんな質問した事を後悔した。
      だって、京の手が、身体が、すごく優しいから。
      だから、京の気持ちを疑うような言い方をした事を後悔した。
      


      「は・・・俺が好きやないん?」


      「・・・」


      「俺はが好きやで?」


      「・・・」


      「?」


      「私は・・・好き、じゃない・・・」


      「俺が、嫌いになったん?」


      「違うよッ!違うけど・・・・」



      京は子供を宥めるように私の髪を掻きあげる。
      さっきとは全然違う優しい声。
      今の京にはどこを探したって優しさしか見つかんない。
      きっと京は最初から、私の心に気付いてたんだ。
      


      「嫌いなんかじゃないの・・・」


      「じゃあ何やねん」


      「好きなの!大好きなの!でも、大好きじゃないの!」


      「お前・・・もういっぺん小学校行くか?」


      「なッ・・・うるさいなぁ!」

  
      「あぁ、アホは小学校行っても治らんかもな」


      
      アホはお前だ!
      大好きだけど大好きじゃない、大好きって言葉じゃ収まんない。
      大好きのもっともっともーっと上、好きの最上級。
      きっと昔はもっと素直に言えてた。
      きっと子供の頃は、言葉の意味なんて理解出来てなかったんだ。
      でももう知っちゃったから。
      大好きじゃ足りない気持ち、京にあげたいから。
      



      「大好きどころじゃないんだもん・・・」


      「?」


      「あ・・・愛してる・・・」


      「・・・ッ!」


      「愛してるよ、京」



      私は驚いた顔の京にそっと口付けた。
      ずっと言えなかった、ずっと言いたかった言葉。
      言葉で愛が量れるとは思わないけど、それでも伝えたいから。
      好きなんかじゃ収まってやんない。
      好きの最上級の気持ち、言葉。
      愛してるよ、京。


    
      「・・・そんな言葉知っとったんやな」


      「は?!私の事バカにしすぎじゃない?!」


      「いや・・ホンマ・・・の口から聞けるて思てなかったから」


      「京は?京は私のこと、好き?」



      身体を重ねる事よりずっと神聖に思える行為。
      いつからか軽々しく言えなくなった言葉。
      京に逢って、この言葉の重みを知ったから。
      だけど心の中じゃ何度も言ってたんだよ。
      でも口に出すのは・・・恥かしいんだもん。



      「ヤラシイ聞き方すんなや」


      「は?!どこがどうイヤラシイのよ!」


      「心の問題や、心の」


      「何それ!精神的にイヤラシイって事?!」


      「どういうヤラシさやねん、それ!」


      「何かこう・・・内から滲み出てくるような・・・ねぇ?」


      「いや、俺に振るなって・・・」


      「イヤラシイって言ったの京じゃん!」


      「そういう意味とちゃうねんって」



      じゃあどういう意味よ!って言葉が京の唇で喉の奥に押し返される。
      激しいような、それでいてどこか優しいキス。
      右頬に添えられた手に涙が出そうになる。
      いつも意地悪ばっかりなのに時々凄く優しいから困る。
      意地悪も意地悪に思えなくなっちゃうんだもん。
      


      「俺だって“好き”やない」


      
      俯いた私の私の顔を覗き込んでくる意志の強い目が好き。
      私の前髪を掻き上げてくれる暖かい手が好き。
      おでこにキスしてくれる意地悪ばっかり言う唇が好き。
      零れそうになった涙を舐めてくれる舌が好き。
      私を抱き寄せてくれる腕が好き。
      私を抱きしめてくれる身体が好き。
      京の全てが好き、外側も中身も、全部大好き。
      京の全てを、愛してる。



      「愛してんで」



      京の心臓がドキドキしてるのが伝わってくる。
      もしかして京も照れてるのかな?
      私、いつからこんなロマンチストになっちゃったのかな。
      だって今、私が世界で一番幸せな人間なんじゃないかって思ってる。
      


      「本当?」


      「嘘吐いてどないすんねん」


      「ぅ〜ん・・・詐欺とか?」


      「本気でシバくで?」


      「・・・ごめんなさい・・・」


      「いつもこんくらい素直やったらえぇのにな」


      「素直じゃない私も愛してるんでしょ?」


      「調子に乗んな」


      「私は意地悪な京も愛してるよ?」


      「当たり前やろ」


      「何それ!自惚れ?!」


      「が俺を嫌いになるわけあらへんもん」


      「何で?」


      「俺がを愛しとるから」



      なかなか言えない言葉がある。
      口に出したくて堪らないのに、どうしても言えない。
      とっても特別な言葉。
      口に出したら嘘っぽいんじゃないかって思ってた。
      こんなありふれた言葉、信じてもらえるのかって思ってた。
      ねぇ、愛してるよ、京。
      口にした瞬間から大きくなってどうしようもない気持ち。
      愛してるよ、京。
      とっても、とっても特別な言葉。




























      BE HAPPY・・・?


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      プチアンケートの結果、甘い夢が1番に100人突破しましたー★
      協力してくれた皆様、ご意見板にメッセージくれたお二方、ありがとう御座いましたv
      というわけで、甘い夢を書いてみましたが・・・どうでしょう?
      書いてて一人ですっごく照れました(/∀\〃)
      根が腐ってるのでもぅこれが限界かも・・・(笑)
 
      少しでもお気に召しましたら感想くださると嬉しいです★



      20040429  未邑拝
      



      









      
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