終わりと始まりが同じ場所に在るのなら。
      崩れ落ちる瞬間、君に逢えるのかもしれないね。























      数年のの終焉























      太陽の光が強くなる。
      眠った木々が目を覚まし、一斉に芽吹き始める。
      逃げ込む夜が少しだけ短くなっていく。
      君がいなくなってから何度目かの春。
      

      無になりきれない中途半端な俺。
      いっそのこと何も考えないロボットになりたい。
      結局は他力本願。


      カーテンを閉めた部屋の中。
      薄暗い室内のソファーに座って煙草をふかす。
      片足を抱え込んで顔を埋めて。
      いつまでこんな生活が続くのか。


      ゴミ溜めのような俺の中でゴミのような俺がいる。
      掃除の仕方を忘れたフリしてゴミまみれの毎日。
      いつか俺もゴミになんのかな。


      「・・・別にいいけど・・・」


      メンバーは極力の名前を出さないようにしてる。
      もしかしたらホントに忘れちゃったのかも。
      それさえも俺にとってはどーでもいい。


      ベッドに潜るのは嫌。
      いつの間にかの匂いなんかしなくなったから。
      

      いつまでもの匂いばっか探してる自分が嫌になる。
      ベッドも部屋ん中もいつの間にかの匂いを忘れてる。
      俺だけ、一歩も前に進めずに此処にいる。











      「ねぇ、敏弥・・・何してるの?」











      声に、目を開ける。
      いや、もしかしたら閉じたのかもしれない。
      なぁ、俺の目は今、何を見てる?


      なに?これはなに?
      俺、何見てんの?

   
      手が、声が、身体が、心が、震える。
      見覚えのある形、聞き覚えのある音、忘れるはずない匂い。
      俺が間違えるはずない、間違えるわけがない。


      「・・・・・・?」


      何で?どうして?
      違う、言いたいのはそんなことじゃねぇよ。
      

      受け入れられない現実。
      そんなんじゃない、全然そんなんじゃない。
      どうしてとか何でとかどうだっていい。
      何も考えらんない、考え方が解んない。


      「・・会い、たかった・・・」


      どれだけ夢見たことだろう。
      あの日から、何回夢みてきたことなんだろ。
      

      狭くて暗いこの部屋から連れ出してくれる光。
      もう一度、に会える日を何度夢見てきた?
      どれだけ泣いて諦めてきた?
      

      手を伸ばす。
      情けねぇくらい指が震える。
      たった数十センチの距離が永遠みたいに思える。
      消えるな、と何度も何度も祈りながら。


      「触らないでッ!」


      「・・・・ど、して・・・?」


      震えた指先。
      あと数センチ、数センチ、数センチ。
      あと数センチであの日に還れるはずなのに。
      あと数センチであの日に還れるはずだから。


      「敏弥・・・解ってるでしょ?」


      「な、に?・・わかんねぇよ・・」


      「別れるとき、また辛くなっちゃうでしょ?」


      手を伸ばして、指先でそっと。
      流れる髪に触れた瞬間。
      そこから溢れ出す、激情。


      会いたかった。
      触れたかった。
      愛しかった。
      

      あの日から変わらず、ずっと。
      ずっと、ずっと、ずっと。


      抱き寄せたのか、抱き寄ったのか。
      の髪を鷲掴みにして、薄い肩を、細い身体をきつく抱きしめた。
      壊れるんじゃないかと思うくらい、きつく、きつく。


      「目の前にいんのに・・・抱きしめらんねぇ方が辛ぇよ・・・」


      を思い出す日なんて、1日もなかった。
      を忘れた日なんて、1日もなかったから。


      柔らかな皮膚に顔を埋める。
      どうしてが此処にいるかなんて、そんなのどうでもいい。
      が俺の腕の中にいる。
      それだけでどうしようもなく満たされる。


      「・・・・・・」


      「とし・・や・・・」


      の声。
      この声で俺の名前を呼ばれる日がくるなんて。
      

      「敏弥は・・・変わっちゃったね」


      「・・・俺が・・・?」


      「あの日の敏弥じゃないね・・・」


      は俺の胸に顔を埋めたまま、そう言った。
      空っぽだった胸が、外側の温度と混ざり合う。
      独りだった心が、動き始める。


      「敏弥は・・・もっと強かった」


      「・・・え?」


      「こんなに弱い人じゃなかった」


      「・・・・・・?」


      「今の敏弥は出逢ったばっかの頃の敏弥と同じみたい」


      「・・・ど、ゆーこと・・・?」


      「今の敏弥は、弱いね」


      の瞳が揺れる。
      いや、それは俺の方なのかもしれない。
      言葉が出てこない。


      「出逢ったとろの敏弥はさ、いっつも不安定だった」


      忘れたいと願った思い出。
      の口から紡がれればこんなにも綺麗に思える。
      忘れてしまいたいと思ったことが間違いに思える。


      「どっか儚くて・・・綺麗だと思った」


      どうしてこんなこと話すんだろう?
      でも制止する言葉も見つからない。
      きっとの声、もっと聞いてたいから。


      「一緒にいる間、昔が嘘みたいに強くなっちゃてさ」


      「・・・、俺・・・」


      「しっかり自分も未来も見据えてて、昔より綺麗だと思った」


      「・・・そんな話、別に・・・」


      「そうやって逃げてちゃどうしようもないじゃない」


      弱い?
      俺は弱い?


      突然のことで何が何だか解らない。
      の目の奥の言葉。
      何も解らないフリをする。


      「ねぇ、敏弥?私達が過ごした時間って何だったんだろうね?」


      「・・・え?」


      「私は敏弥に何も残せなかったのかなぁ・・・?」


      の細い指が俺の胸を指す。
      例えるなら、心のある場所。


      何も残せなかったわけねぇじゃん。
      俺の中にはが残ってる。
      これ以上ないくらいに、深く。


      だって解ってんだろ?
      何でそんなこと言うの?


      「私、こんなつもりじゃなかったのに・・・」


      「・・・?」


      「こんなんじゃ・・・出逢えたこと、後悔しかできないよ・・・」


      の目から涙が溢れる。
      白い頬を伝って幾筋も、幾粒も。
      

      泣かないで。
      お願いだから泣かないで。
      俺、のそんな顔見たかったわけじゃねぇよ。


      なぁ、も出逢ったこと、後悔した?
      後悔するくらい、辛い思いをした?
      後悔するくらい、幸せな思い出だった?
      俺と同じ想いだった?


      俺ね、がいなくなってから何度も思った。
      出逢わなかったら、こんな別れもなかったのにって。
      との記憶だけなくなってしまえば良いのにって。
      

      「私ね、敏弥と出逢ったこと・・・後悔したくないよ・・・」


      「・・・俺・・・」


      「敏弥にも後悔、してほしくないよ・・・」


      「・・・


      頬に触れようとした指先が途惑う。
      俺の為に流れる涙、俺が流させた涙。
      俺が拭ってやれるもんなのかな?


      俺さ、きっとどっかで気付いてた。
      俺が駄目になってけばなってくほど、を傷つけるって。
      このまんまじゃ出逢えたことが不幸の始まりみたいに思えるって。


      じゃなきゃ、きっと生きてこれなかった。
      どっかでは俺のストッパーになってて。
      それが生きることを諦めさせてはくれなかったんだと思う。


      俺の弱さはの傷になる。
      俺の弱さはとの思い出に傷を付ける。
      逃げ切るには、全てを捨てる覚悟が足りなかったんだ。
      俺には、がいたから。


      「俺さ・・・がいねぇと生きてる意味がねぇって思ってた」


      「・・・」


      「めちゃくちゃ楽しくて幸せで・・・戻れないなら死んだほうがマシだって」


      「とし・・・ッ」


      「黙って?最後まで俺の話、聞いて?」


      「・・・」


      「がいねぇなら明日なんか来なくていいって思った」


      「・・・」


      「どうせ俺なんか独りなんだから、って」


      全てが憎かったんじゃない。
      全てが寂しくて、悲しくて、死んじゃいそうだった。


      どうして俺だけ生きてるんだろうって。
      どうして俺だけ此処にいるんだろうって。
      どうして俺だけ独りなんだろうって。


      他の誰と会っても話しても、心なんか動かなかった。
      慰めの言葉にだけ耳を傾けてた。
      俺は可哀相なんだって思わないと、生きていけなかった。
      頑張れなんて言葉、ほしくなかったんだ。


      「でも・・・も寂しかったんだね」


      「・・・と、しや・・・」


      「も独りで、辛かったんだね」


      「・・・」


      「気付くまで、こんな時間かかっちゃった」


      「・・・ぅん」


      「ごめんね?」


      の細い身体を抱きしめる。
      どう足掻いても埋められない距離に抵抗するように。
      

      このまんま一つに溶けちゃえば良いのに。
      ドロドロに溶けて混ざり合って、色も形も同じになっちゃいたい。
      これ以上の願い事、もう叶わないんだろうけど。


      「ずっと見ててくれて・・・ありがと」


      きっとの方が辛かった。
      駄目になってく俺を見てるだけしかなかったんだから。
      

      ねぇ、
      溶けて一つになることは出来なくてもさ。
      俺達は同じ色、同じ形で生きていけるのかもしれないね。
      混ざり合えなくても、重なって、生きていけるのかもしれないね。


      「ぁ・・・いつもの敏弥だ・・・」


      「強くなった?」


      「・・・ほんとはね、弱いまんまでも良いのかもしれない」


      「・・・なんで?」


      「弱い敏弥だって敏弥だもん・・・」


      「でも俺は・・・強い方がいい」


      「・・・ん」


      もし本当に俺が独りなら。
      弱くて駄目人間になっても構わない。
      でも独りじゃないみたいだから。
      が、見てるから。
      だから俺は強くありたい。


      「私ね・・・最期の瞬間に、敏弥を見たよ」


      「・・・俺?」


      「うん・・・あ、敏弥がいる、って」


      「何それ」


      「もう終わりなんだなぁって心のどっかで思ってたの」


      「・・・?」


      「でもホントは始まりだったのかもしれないね」


      「・・・どーゆー意味?」


      「終わりの場所に、敏弥がいるわけないもん」


      「・・・始まりの、場所?」


      「世界はループしてて、途切れてる場所なんかないのかもしれない」


      「・・・じゃぁ・・・また、逢える?」


      「・・・敏弥が、望んでくれるなら」


      「また・・・逢いたいな」


      「また、逢えるよ」


      「・・・うん」


      細い身体、の形。
      世界の形成、俺等の未来。


      前髪を上げて、キスをして。
      震えが止まった指での唇をなぞって。
      精一杯優しく、口付けた。


      夢だったのかもしれない。
      幻を見たのかもしれない。
      もしこの唇の熱が、嘘なんだとしたら。











      目を開ければ俺はソファーの上にいた。
      片足を抱えて膝に顔を埋めて。
      灰になった煙草が床に落ちた。
      涙は、出なかった。


      部屋にはの形も、匂いも残ってなかった。
      大掃除したからかもしれない。
      涙は、出なかった。


      ねぇ、
      魔法使いって本当にいんのかな?
      いい子にしてれば魔法使いが来てくれるってホントなのかな?


      そうだとしたら、俺の魔法使いはだよ。
      ・・・なんて言ったらクサイかな?
      きっとなら笑ってくれる気がする。


      「また・・・逢えるよな?」


      終わりと始まりが同じ場所に在るのなら。
      崩れ落ちる瞬間、君に逢えるのかもしれないね。


      せめてそれまでは、強くあれ。
      誰よりも、何よりも強く、強くあれ。


      俺が君を想って涙を流すことがないくらいに。
      君が俺の所為で涙を流すことがないくらいに。
      強く、強くあれ。




      数年の夢の終焉が今、此処に。


      数年の祈りの始まりが、今、此処に。
























      BE HAPPY・・・?

      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
      
      百題の『嘘に笑い嘘に泣く』から始まったこの話の終わり。
      私の『明日に変わる願い』、或季さんの『明日に変わる願い』と一緒に読んで下さい。
      魔法使いがいるなら、私を万能人間にしてください(笑)


      20050313   未邑拝




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