アナタを傷つけたいだなんて。
      愛する以上に意味のあることのように思える。






















      SCAR






















      何となく、何かが足りない気分に襲われる。
      具体的には何が足りないのかなんてよく解んないんだけど。
      解りそうで解らない、手が届かない、もどかしい。
      

      私にはとても大切な人がいて。
      その人は薫という名前で、男の人で、バンドとかやってて。
      愛されてる自信なら嫌というほどある。
      それだけで幸せなはずなのに、何かが違う。


      我が儘だって言われればそれまでなのかもしれない。
      だけど満たされない。
      貪欲だって詰られるかもしれない。
      それでこの物足りない身体が満たされるなら構わない。


      「なぁー?こっちきぃや」


      リビングのソファーに座って手招きする薫。
      その目はしっかり私を捕らえてる。
      ちょいちょいと振られる指の先まで私の為。


      「何ぼぉーっとしとんねん。もう眠なった?」


      いつまでたっても動かない私に首を傾げる。
      左脚に乗せられてた譜面をテーブルに置いて、両手を差し出してくれる。
      その腕の中は私の居場所なんだって、そう言ってるみたい。


      「?どした?」


      「ぅー・・・薫ぅー・・・」


      私はそのまま広げられた腕の中に身体を収めた。
      男の人にしては華奢な薫の身体。
      だけど私とは違う、ちゃんと男の人。


      くっつけた胸がトクントクンと動くのが解る。
      温かくて、薫の匂いがして、キモチイイ。


      「急に甘えたやなぁ」


      「だって・・・」


      「だって?」


      「・・・なんでもない」


      「なんでもなくないやろ。ちゃんとゆえや」


      「・・・ぅー・・・」


      「ぅーやあらへんがな。なんの為に口付いてとんねん」


      「・・・キスするため?」


      「そらもっともな意見やな」


      薫は私の前髪を右手で隙ながら、鼻の頭にキスを落とした。
      閉じた瞼に、寄せた眉間の皺に。
      薫のキスは温かくて、甘い。
      ゆるゆると溶かしたチョコレートの中にいるみたい。
      凄く、心地いい。


      薫はいっつも私にいっぱいの幸せをくれる。
      幼い頃は、こんなことが幸せじゃなかった。
      友達と遊んだり、パパやママと一緒にいることが幸せだった。


      でも薫に逢ってから、私の幸せの定義は変わった。
      薫がくれるもの全てが、私の幸せに繋がる。
      それは言葉だったり、態度だったり、身体だったり。
      

      だけど、ねぇ、何かが足りないの。
      何が足りないのかなぁ?


      「ねぇ、薫は・・・幸せ?楽しい?嬉しい?」


      「なんが?」


      「今が。私がいて、薫がいて、今、一緒にいることが」


      「は幸せとちゃうんか?楽しない?嬉しないん?」


      そんなわけない。
      私がそう言うのを、薫はちゃんと解ってる。
      

      「なぁ、ちゃんと答えぇや」


      なのにこうやって言葉をほしがる。
      こんなちょっと子供っぽいところが好き。
      不安そうにおでこをくっつけてくるところが好き。
      

      「幸せに決まってるじゃん」


      私に幸せをくれるのが薫であるように、薫に幸せをあげれるのは私だけ。
      私だけだっていうと語弊があるかもしれない。
      正確に言うと、一番の幸せをあげれるのが私だけだってこと。
      

      だけどね、私じゃ薫にあげれないもの、一個だけある。
      ねぇ、薫はあの感情を誰にもらったの?
      

      つまらないことかもしれない。
      でも私にとってはとっても重要なことなの。
      自分の嫉妬深さに寒気がする。
      だけど我慢出来ない。


      「薫はさ・・・嫌いな人、いる?」


      私に足りないものはこれだ。
      私の中で足りない薫の一部。
      

      「憎くて、嫌いな人っている?」


      「なんやねん、急に」


      「ムカツク!って人、いないの?」


      「そらおらんわけやないけど・・・なして?」


      「・・・誰?」


      「誰って・・・そんなんゆわれへんがな」


      「どーして?!」


      「どーしても。なんや、仕返ししてくれるん?」


      薫はそう冗談っぽく笑って私の頭を撫でた。
      そんなに大きくは無いけど、私を甘やかしてくれる手、指。
      薫の形を確かめるみたいに髪の毛の一本一本に神経を集中させる。


      仕返ししたいんじゃないよ。
      薫を護ってあげたいとか、そんな綺麗な感情じゃないの。
      私が考えてるのはもっともっと汚いこと。
      貪欲だって、薫は私のこと嫌いになっちゃうかもしれないよ。


      「薫は、その人に傷つけられたの?」


      「傷?そらムカつきはするけど傷つけられたとはちゃうかな」


      「どう違うの?」


      「俺の場合、仕事の話。ダメ出しされたから傷ついたっちゅーのは何かちゃうやん?」


      「そうなの?」


      「ソウナノ。それにお互い様やもん、痛み分けってやつ」


      「薫も・・・その人を傷つけたの?」


      「解らん奴っちゃなー。でも似たよーなもん」


      ほら、まただ。
      わけ解んない感情が心の中をぐるぐるする。
      きっと足りないものはコレなんだ。
      

      薫を形成するものが全部私であってほしいだなんて。
      無理過ぎて笑いがでてくる。
      私があげれるものが幸せだけだなんて不公平すぎる。
      だって世の中に溢れてるのは幸せだけじゃないんだもん。


      幸せ以外のものを全部不幸だとする。
      幸せと不幸を天秤にかけたら、絶対に不幸の方が重い。
      幸せなことなんて、そんなに多くはないはずで。
      私が薫にあげれるものはほんの一部だと思うと悔しくて堪らない。
      

      「薫が傷つけた人って・・・誰?」


      「なしてそんな拘んねん」


      「ねぇ、誰?!私も知ってる人?!ねぇ!」


      「ちょ、ちょぉ落ち着けや」


      「だって・・・!」


      「だってやあらへんわ。俺にも解るように話したってや」


      自分以外の人が薫の中に何かを残すなんて嫌だ。
      それが私じゃ与えられないものだとするなら尚更。
      全部、薫の全部を私のものにしたいのに。
      そんなこと言ったら、薫は笑うでしょ?


      アナタを傷つけたいだなんて。
      愛する以上に意味のあることのように思える。


      「私も・・・薫を傷つけたい・・・」


      「・・・はぁ・・・?」


      「どうして他の人は良くて私はダメなの?!」


      「ダメとかゆー問題とちゃうやん」


      「だって・・・っ!」


      「ほんまにどないしたん?そんな興奮せんと」


      「薫には・・・解んないよ」


      「ゆうてくれんと解らんがな」


      「言っても薫にはわかんない!」


      「そんなんゆわんと解れへんやろ」


      薫の全てが欲しいなんて、きっと薫には解んない。
      薫を傷つけるものにすら嫉妬してるなんて、きっと理解出来ない。
      私だって、ここまで貪欲な自分が信じらんないのに。


      「怒れへんからゆうてみぃ?な?」


      薫は宥めるように私の背中をポンポンと叩いた。
      薫の胸に頬擦りするようにぎゅっと抱きついてみる。
      薫の身体があまりにも薫だから・・・なんだか泣きたくなる。
      私の好きな人なんだって、そう思う。


      「好きも嫌いも、私だけにしてほしいの」


      「嫌いも?」


      「薫に嫌われてる人はズルイ」


      「嫌われとんのに?」


      「薫の中の嫌いって感情を一人占めしてるんだもん。ズルイ」


      「・・・なに嫌われとる奴に嫉妬しとんねん」


      「・・・やっぱり言っても解んないんじゃん」


      「解った解った」


      「嘘!解ってないっ!」


      「嘘とちゃうわ。要するに、は俺が好きで堪らん、と」


      薫は少しだけ伸ばした襟足を指で絡め取る。
      指が、首元を掠める。
      私が首、弱いこと知っててこういうことをする。
      


      「で、は俺に嫌われたいんか?」


      「・・・違う。好かれたまま嫌いもほしいの」


      「・・・それ、無理や」


      「・・・」


      「だって俺、お前のこと好きやもん」


      そんなの知ってるよ。
      好きでもない奴をこんなに甘やかしてくれるほど、薫は大人じゃなもん。
      それは、私だけが知ってる真実。


      「例えばな、好きと嫌いを天秤にかけるやんか」


      あ、私もさっき同じこと考えたよ。
      私達、考え方が似てるのかな?
      なんてね。


      「多分、好きと嫌いって同じ重さやねん」


      「好きの方が重くないの?」


      「やって、好きも嫌いも同じやん」


      「・・・全然違うと思うよ?」


      「そいつのこと色々知って、嫌いやって思うんやろ?せやったら好きもおんなしやん」


      「・・・」


      「好きの予備軍みたいなもんちゃう?嫌いって」


      「好きの・・・予備軍・・・?」


      「せや。ほんまに恐いんは嫌われることとちゃくて、知らん顔されることやん」


      「知らない顔?」


      「興味ないってゆわれたら、俺、どーしようもあらへんやん」


      「・・・うん」


      「嫌いってゆわれたんなら、まだ好きになる可能性、あるやろ?」


      「だから予備軍?」


      「って、俺は思っとるけどな」


      薫は脚の間に座った私を抱えて、自分上に跨らせた。
      ちょっとだけ薫の顔より高い位置にある私の顔。
      薫はいたずらっ子みたいに笑って私の顎にチョンとキスをした。


      「俺がにやるんは、好きと嫌いの中の好きの部分」


      「・・・足りない」


      「我が儘な姫さんやなぁ」


      「だって・・・だって薫の全部がほしいんだもん・・・っ!」


      「にやんのは、好きの一番てっぺん」


      「てっぺん?」


      「せや。あんまり高すぎてな、以外届かへんねん」


      「・・・私が、特別ってこと?」


      「皆と同じもんやってもしゃーないやろ?」


      あ、今、すっごく満たされた。
      さっきまで何か足りなくてカラカラしてたのに。
      ねぇ、凄く不思議ね、満たされちゃったよ?
      

      「ねぇ・・・他の人にはあげないでね?」


      「当たり前やん」


      「薫?私のこと、ちゃんと好き?」


      「お前・・・此処までゆわせといてまだ・・・」


      「回りくどいんだもん!」


      「回りくどいってなんやねん!」


      「私馬鹿だから、ちゃんと言ってくれないと解んないもん」


      「おま・・・都合のえぇ脳味噌やなぁ?」


      「私のこと、嫌いになる・・・?」


      「・・・愛しとーよ」


      滅多にそんなこと言わない人だから。
      そんなこと軽々しく言えないくらいプライドの高い人だから。
      この一言はね、宝物だよ。


      私、何を悩んでたんだろう。
      こんなに簡単なことだったのに。
      答えなんていつだって目の前にあったのに。
      本当に馬鹿なのかもしれない。


      「私の方が、百倍愛してるよ」


      「・・・じゃー俺はその倍」


      「私はその倍の倍!」


      「アホか。ゆーとくけどな、俺の方がのこと好きやからな」


      「ねぇねぇ、好きと愛してるはどっちが重い?」


      「・・・さぁな」


      
      アナタを傷つけたいだなんて。
      愛する以上に意味のあることのように思える。
      だけどそれじゃ愛されることは出来ないんだと思う。

   
      私は薫が傷を見せてくれる、そんな相手になりたい。
      傷を癒すも抉るも私次第、そんな存在。
      私の全てをあげるから、薫の全てを見せて?
      

      好きと嫌いは紙一重な存在だと思ってた。
      でも違うんだって、少なくとも薫にとっては違うんだってわかった。
      そう思ったらもどかしい気持ちが消えちゃった。
      私って現金だよね。
      

      いつだって好きの一番上を頂戴。
      きっとそれが、私が欲しがってた答えだから。


      「薫?好きだよ」


      「・・・俺は愛しとーよ」


      「私もだよ」


      






























      BE HAPPY・・・?


      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

      5万打御礼リクでライカ様に捧げます。
      【シリアス→めちゃくちゃハッピー】ってリクだったのですが・・・如何でしょう?
      どーも浮上できずに終わった感が溢れてる気がしなくもないです。

      書き直しはいつでも受け付けますので!
      ライカ様のみお持ち帰りOKです。
      リクありがとう御座いました★

 
      20040928  未邑拝


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