アナタだけが知ってる最上級の夢。
      許されるならもう一度。












      





      最上級の


















      「行きなよ・・・敏弥」


      「・・・?」


      「ね、敏弥・・・?」


      溢れる涙を笑顔で拭った。
      それはまだ雪が降る2月のことだった。


      幸せが永遠に続くなんて思ってない。
      いつかは終わりがくるかもしれないって。
      それでもその時までは幸せでいたかった。
      先が見えなくて、それが幸せだった。
      終わりなんて見えなかった。


      上京。


      最初はその言葉の意味が解らなかった。
      正確には解りたくなかったのかもしれない。
      

      敏弥がベース好きなのは知ってた。
      でも心のどっかで本気じゃないって思ってた。
      いつものお遊びだって思ってた。
      

      本気でバンドやるから、って。
      音楽が好きだから、って。
      そう苦しそうに吐き出した。


      何て言ってあげるのが正しい答えなのか解らなかった。
      頭のなかグルグルしてて考えが纏まんなかった。
      

      離れたくないよ。


      















      「今日は・・・一緒にいれるの?」


      「・・・うん」


      一緒にいれる最後の日。
 

      何をするわけでもなく一緒に寄り添って。
      いつも一緒に見てたテレビ。
      敏弥の好きだった音楽。
      それさえも私たちには邪魔なものに思えた。

      
      市松模様の床。
      もう見ることさえ出来なくなる敏弥の部屋。
      一週間前まではそんなこと考えもしなかった。
      

      もしかしたら実感が無いのかもしれない。    
      あまりにも突然の別れに。


      「ねぇ、敏弥?今日何の日か知ってる?」


      「・・・京くんの誕生日イヴイヴ?」


      「・・・馬鹿?」


      「ひでぇー!」


      お決まりの笑い合い。
      この時間、凄く好きだったよ。


      「2月14日っていったらお決まりでしょ?」


      「バレンタイン?」


      今日の為にね、頑張ってチョコ作ったんだよ。
      料理あんまり得意じゃないけど、本見て頑張ったんだ。
      ラッピングも敏弥の好きな青色のリボンで。
      

      「・・・ごめん」


      「敏弥?なんで謝るの?」


      「それ・・・貰えねぇよ」


      「どーして?チョコ嫌いだっけ?」


      「や、そーじゃねぇけど・・・」


      「今日バレンタインだよ?」


      「・・・お返し、出来ねぇもん」


      別に何かを望んでるわけじゃない。
      見返りを期待してるわけでもない。
      ただ、バレンタインだから。
      

      彼氏と彼女で。
      バレンタインだからドキドキしながらもチョコあげて。
      喜ぶ顔が見たくて、また顔が綻んで。
      誰もがやってることだよね?
      私達にはそれさえも許されないの?


      「・・・お返しなんていらないよ?」


      「でも・・・」


      「でも?」


      「・・・俺が、辛い」


      敏弥のそういうとこ、好きだよ。
      優しすぎて、私まで痛くなる。
      

      「じゃーさ、今一緒に食べちゃお!」


      「・・・ん」


      敏弥の前で青いリボンを解いていく。
      ほんとはね、敏弥にやってもらいたかったんだけどな。


      白い箱から出てきたチョコ。
      数時間前に自分で作ったはずなのに別物に見える。
      きっと敏弥も見てるからかもしれないね。


      「雑誌見ながら一生懸命作ったんだよ?」


      「すげぇー・・・店に売ってありそーじゃん!」


      「こんなの売ってる店あったら即つぶれちゃうって」


      「そんなことねぇって!」


      「・・・ありがと」


      「・・・照れてる?」


      「・・・少し」


      覗き込まれた顔が少し赤くなる。
      だって、嬉しいんだもん。


      「中なんか入ってんの?」


      「リキュール入れたよ。大人の味?」


      「あー言われてみればそーかも」


      「おいしい?」


      「もち」


      
      口の中で溶けてくチョコ。
      甘くて苦い、切なさの味。
      もっと固く作れば良かった。
      溶けるまでの間は、笑っていられるから。


      時間はいつもと同じ速さで流れてく。
      少しだけ、ゆっくり流れてくれても良いのに。
      別れを惜しむ時間さえ無いんだね。


      ふいに敏弥と目があった。
      長い前髪から覗く鋭い、それでいて縋るような目。
      何となく目が離せなくなる。


      頬に添えられた手。
      長く綺麗な指は少し固くて。
      これ、敏弥がベース好きな証拠なんだよね?
      あれだけ一緒にいたのに、全然気付かなかったよ。


      「・・・ん」


      重ねあった唇。
      目を閉じれば敏弥の長い睫が瞼に当たる。
      くすぐったくて泣きたくなる。


      「甘い・・・」


      「だってチョコいっぱい使ったもん」


      「リキュールの味もする」


      「酔った?」


      「そんな弱くねぇーって」


      そう言ってもう一度キスをした。
      それ以上は求め合うこともなく。
      何かを残そうとするわけでもなく。
      唯、当たり前の行為のように。


      「・・・・・・」


      「・・・ん?」


      「キス・・・してもいい?」


      「・・・もうしてるじゃん」


      「うん・・・そーなんだけどさ・・・」


      「敏弥・・・?」


      「キス、いい?」


      「・・・うん」


      上を向かされて開いた唇から入り込んでくる舌。
      乱暴に舌を絡めて、吸われる。
      唾液が流れるのも気にせず口付けあって。
      頭がクラクラするのは息が出来ない所為?


      「んっ・・・は、ぁ・・」


      「・・・・・・ッ」


      長野と東京。
      他人は近いって言うかもしれない。
      それでも私達には遠すぎる距離。


      国境線を越えても日付け変更線を越えても。
      国や時間を超えても愛し合える二人はいるのに。
      年齢や国籍だって関係ない二人だっているのに。


      ねぇ、私達はどうしてこんなに下手くそなんだろうね?


      傍にいることに意味があった。
      抱きしめあえることに意味があった。
      離れちゃったらね、全部壊れちゃうんだね。


      本当に愛し合ってたら離れたって平気だって。
      本当に愛があるなら距離くらいで壊れるわけないって。
      敏弥を信用してない証拠だって。
      敏弥に信用されてない証拠だって。
      

      そうじゃないんだよ。


      「ねぇ・・・出発、明日の何時?」


      「・・・昼の2時」


      「・・・そっか」


      上京って聞いたときから、この日がくるのは解ってた。
      だって二人とも言わなかったよね。
      離れても会いに行くから、って。


      「・・・見送り・・・」


      「・・・来なくていいから」


      「・・・行かないよって言おうと思ったの」


      「ひでぇー」


      好きで、好きで、大好きで。
      繋がってるのに触れられないなんて、耐えられない。
      いつだってぬくもりを感じていないと安心出来ない。
      愛しすぎて、愛しすぎて。


      離れても愛し合える二人はいるのに。
      どうしてそんな簡単なことさえ、私達は出来ないんだろう。
      愛してることに変わりはないのに。
      この手を離したくないことには変わりないのに。


      市松模様の床。
      少し固い、敏弥の匂いがするベッド。
      これで最後だなんて、嘘だよね?


      「俺、頑張るから」


      「・・・うん」


      そんな風に抱きしめないで。
      敏弥の形を残していかないで。
      

      「ベース・・・すげぇ好きだから・・・」


      「・・・うん」


      「好きな音楽、やっていきてぇから・・・」


      「・・・だったら、笑って?」


      行かないで。
      行かないでよ。


      「・・・うん」


      「その八重歯・・・好きだったなぁ」


      「過去形?」


      「過去形にしなきゃ」


      「・・・そっか」


      行かないで。  
      離れないで。
      離さないで。
      

      「が人間じゃなかったら良かったのに」


      「何それ?」


      「俺のモンなら荷物に詰めて東京まで持ってけるのに」


      馬鹿なこと言わないでよ。 
      離れたくなくなっちゃうよ。
      行かないでって言いそうになる。


      「人間で良かった」


      「俺と東京行くの嫌?」


      「モノだったら・・・キス、出来ないじゃん」


      好きだよ。
      大好きだよ。
      愛してるよ。


      「・・・そっか」


      「・・・うん」


      敏弥には敏弥の夢がある。
      いくら愛してても邪魔しちゃだめだって解ってる。
      だから敏弥も私の邪魔はしないで?
      涙出そうなの、我慢してるんだから。


      「俺、頑張るよ」


      「うん」


      「どーなるか解んねぇけど、頑張るから」


      「うん」


      「俺のことさ、忘れちゃっても良いから」


      「・・・うん」


      「でも出来れば・・・」


      「出来れば?」


      「・・・嫌いにならないで、ほしい」


      「・・・」


      「自分勝手だし何もしてやれなかったけど・・・嫌いにならないでほしい」


      「・・・うん」


      嫌いに、なれれば楽なのかな。
      いっぱいいっぱい時間が過ぎて。
      敏弥のこと忘れる日が多くなってって。
      それでも嫌いになれる日なんてくるのかな?


      忘れたとしても。
      一緒に過ごした日々が消えるわけじゃない。
      敏弥は敏弥が思ってる以上に、私の中にいるよ。
      

      目が覚めても敏弥はいなくて。
      きっとそれだけで私は泣いちゃうと思う。
      「としや」って言葉を聞くだけで思い出しちゃうと思う。
      

      だって好きだから。
      だって大好きだから。
      こんな別れを望んでるわけじゃない。
      でも、私達は終わりなんだね。


      愛してるって。
      いつか他の人からいわれたとしても。
      きっと私は敏弥を思い出しちゃうよ。
      敏弥もそうであれば良いのに。
      私の最後の我が儘。


      「なぁ・・・」


      「ん?」

     
      「キス、しても良い?」


      「・・・ん」


      私達はどうしてこんなに不器用なんだろう。
      離れたって繋がってる恋人はいるのに。
      私達にはそれが出来ない。
      

      愛してるから。
      好きで好きで仕方ないから。
      離れる辛さを知る前に、バイバイなんだね。


      好きだったよ。
      愛してたよ。
      もうその言葉を敏弥から聞くことは出来ないけど。
      私の口から言うことも出来ないけど。


      愛してたよ。


      「・・・バイバイ・・・」






























  






      あれから数年の月日が経って。
      私は私で、相変わらずの生活を送ってる。


      敏弥が何をしてるのかは知ってるような知らないような。
      立ち寄った本屋さんで見かけたのは、私の知らない敏弥。
      

      忘れても良いって言ったくせに。
      これっぽっちも忘れさせてくれなかったね。
      今でも、今でも。


      「・・・何これ・・・?」


      家の郵便受けに無造作に突っ込んである封筒。
      表も裏も真っ白で何も書かれてない。


      「やだ・・・イタズラ・・・?」


      私は鋏で封を切ってみた。
      イタズラだったらどうしようって。
      住所知られてるなんて恐いなって。
      そう思ってたのに。




      敏弥より




      体温を感じるその封筒。
      涙が溢れそうになる。
      忘れられるわけなかった敏弥の温度。


      あの頃とは違う二人。
      もしかしたら恋人だっているのかもしれない。
      それでも・・・


      雪がちらつく2月のこと。
      急いで窓の外を覗いて見ると、そこには誰もない。
      それでも私は・・・


      封筒に入れられた一枚のチケット。
      私はそれに敏弥の夢を見た。
      

      ねぇ、敏弥はどんな夢を見てたのかな?
      あの頃はそれを訊くことさえも恐かった。
      遠くに感じることが恐かった。
      

      アナタが見てる夢はいつだって最上級のもので。
      遠いのにその輝きだけはいつも色褪せることがなかった。
      

      ねぇ、敏弥。
      私はもう一度、同じ夢、見れるのかな?
      

      「


      涙を拭って顔を上げて。
      窓の外に目をやってみるとそこには。


      「・・・おかえり」


      アナタだけが知ってる最上級の夢。
      許されるならもう一度。


      待ってるなんて言えなかったけど。
      それでもちゃんと待ってたんだよ。
      迎えにくるなんて言ってくれなかったけど。
      それでもちゃんと迎えにきてくれたように。


      最上級の夢の続き。
      アナタの傍でもう一度、見ることが出来るのかな?























      BE HAPPY・・・?

      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

      間に合ってよかったぁー・゚・(ノД`)・゚・。
      本当は暗いまんま終わらせようかなぁと思ってたんです。
      でも私が嫌でした。たまには幸せになろーぜ、という気持ちで(笑)
      
      ★☆ハッピー バレンタイン☆★

      少しでもお気に召しましたら感想下さると嬉しいですv




      20050214     未邑拝







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