つまんねぇ夜のB級ホラー。
      君はどこまで笑い飛ばしてくれる?






















      レトロホラー























      薄い雲が闇を覆って、闇より暗い夜がくる。
      流れる雲に朧月は形を変え、零れそうな光は黒に滲む。
      鋭利な叫び声は、闇に翼を馴染ませて空を旋回する鴉の声。
      締め上げられることも知らず、それが利口なことだと考えてる。
      鴉の声が、鼓膜に残る。



      市松模様の床に身体を横たえる。
      絡みつく湿気から逃げるように床に頭を擦りつけた。
      

      
      「何かさ、怪談日和ってかんじじゃねぇ?」


      俺は床に寝転がったまま、目の前にあるの足に舌を這わせた。
      立ったままのは俺の舌から逃げることもしない。
      

      末端冷え性みたいに冷たい指先。
      綺麗にネイルの塗られた親指をそっと口に含む。
      爪と指の間に舌を這わせて軽く歯を立てる。


      指の付け根まで咥えては出す。
      指と指の間も綺麗に舐めて。
      横になった俺の頬を零れた唾液が伝っていく。


      「俺さ、オモシロイ怪談話、知ってんだよね」


      「・・・」


      「ねぇ、聞きたい?」


      は答えることなく静かに俺を見てた。
      俺はチュッと音を立てて足の甲にキスを落とした。


      「ある所にね、心優しい青年がいました」


      その青年はね、あるとき女の子に恋をするんだ。
      その子は真っ黒の髪を長く伸ばして、恥かしそうに青年を見た。
      きっと恋に落ちちゃったんだね。
      一目惚れって言うのかな?
      人間って意外に単純に出来てるよね。


      青年はほとんど強引に女の子を部屋に連れて帰った。
      でもね、それはセックスがしたいとかそんなんじゃないんだ。
      ただ、此処で別れたらもう会えなくなっちゃうって思ったんだろうね。
      純粋に傍にいたかったんだよ。
      単純って純粋ってことと同じなのかもしれないね。


      「?ちゃんと聞いてる?」


      「・・・」


      「恐いんでしょ?」


      「・・・」


      「・・・ごめんって。恐い顔すんなよ」



      あぁ、続きね、はいはい。
      結局ね、青年と女の子は一緒に暮らし始めるんだ。
      監禁とかじゃねぇよ?
      一緒にいたかっただけ、ただそれだけのこと。
      

      でもさ、何で好きだと思ったんだろうな。
      だってさ、恋に落ちたっつっても一瞬の話だろ?
      あぁ、もしかしてこれが運命ってやつ?
      ほら、よくあるじゃん?赤い糸っての。
      あぁ、ごめんごめん、話ずれた。


      昼間は仕事行って、夜になったら帰ってきて。
      帰って来ると必ず女の子がご飯用意して待ってんだ。
      ずっと一人暮らししてたから嬉しいんだろうね。
      帰ってきたとき「ただいま」が言える相手がいるのがさ。

 
      青年は女の子が大好きだった。
      女の子も青年が大好きだった。
      それだけで良かったはずなのにね。
      一緒にいたらさ、もっともっとって求めるようになっちゃうんだろうね。     
      理想の姿?完璧な姿って言うのかな?
      ねぇ、青年は女の子の何が好きだったんだろうね。



      「変わらない愛ってさ、は信じる?」


      「・・・」
      

      「永遠とは違うよ?永遠じゃないけど、変わらない愛」


    
      細い足首に舌を絡ませる。
      俺は身体を起こして、そのまま真っ白な足をゆっくり舐め上げる。
      柔らかい太腿に軽く歯を立てて、唾液を絡めた舌で撫で回した。
      大量の唾液がの脚を伝って床へと下る。


      は少しも声を上げない。
      少しも甘い声で強請るように誘ってこない。
      それも作戦?
      本当はキモチイイんでしょ?
      


      「どっちも同じじゃんって思った?」


      「・・・」


      「馬鹿だねぇ、は・・・」



      そんな恐い顔しないでよ。
      顔の筋肉固まっちゃって、可愛い顔が台無しだよ?
      あぁ、話の続きね、はいはい。
      えっと、どこまで話したっけ?
      解った、思い出した思い出した。


      青年はね、女の子に一つだけ不満があったんだ。
      女の子はね、寝るとき、左に背を向けちゃう癖があった。
      青年の部屋にはベッドが一つしかなくて、それに二人で寝てたんだ。
      青年は女の子がベッドから落ちないように、女の子を壁側に寝かせててさ。
      女の子が左に背を向けて寝るってことは、青年に背を向けちゃうってことなんだ。


      それがどうした、って思った?
      だけど青年にとってはそれが耐え難かった。
      自分に背を向けて寝る女の子が許せなかったんだ。
      そんな怒りはくだらない、理不尽だ、非常識だって思った?
      だけど、誰がどうしてくだらないって言える?
      誰がどうして理不尽だって、非常識だって言える?

  
      勝手に作り上げられて膨らんでいった枠の中に収まりきれない感情。
      枠の大きさを測るには一人じゃ出来なくて。
      少しずつ、解らなくなっていく。


      
      「永遠はね、変わってくから永遠って言うんだ」


      「・・・」


      「上手に受け入れて、流されて、変わってくんだ」


      
      変われなかったのは青年なのかな。
      それとも女の子なのかな。


      


      青年は、女の子を殺しました。





      真っ白なロープを女の子の首に食い込ませて。
      向けられた背に愛情とか殺意とかいっぱい込めて。
      ベッドの上で、殺したんだ。


      天井からブラ下げた女の子を見つめる青年は狂ってると思う?
      舌を長く垂れ流した女の子。
      大きくて綺麗な瞳は神経を残したまま飛び出して。
      真っ白だった肌を彩るのは毛穴から噴出す赤黒い血。
      上も下も汚物塗れで、女の子だと認識する要素はほぼ皆無。


      青年は女の子の身体に舌を這わせた。
      紫色に変色していく髪の生え際も。
      赤黒く染まった肌も、口や下半身から流れる汚物にも。
      まるで愛しいものを愛でるように、隅から隅まで全部。
      

      心臓が止まってもなお流れ続ける血と汚物。
      拭っても拭っても垂れてくる液体。
      ピチャっと音を立てて落ちた先。
















      それは、市松模様の冷たい床。



















      


      俺はの頬に手を伸ばした。
      人差し指で何度も何度も頬を撫でる。
      生暖かい、濡れた温度。



      「ねぇ、?ちゃんと俺の話聞いてる?」


      「・・・」


      「もう眠い?寝る?」


 
      
      青年はね、女の子を殺すことで永遠の愛を手に入れたのかもしれないね。
      理想通り、青年の変化と平行に変化を遂げる女の子。
      青年の中の女の子は、もう青年に背を向けて寝ることなんてなくて。
      目を閉じれば女の子の寝顔が見れるんだ。
      変わっても変わらない、青年の理想の女の子。


      
      「ね、今日は俺に背中向けて寝ないでね?」



      俺は天井からぶら下がったにそっと口付けた。
      長く伸びた舌を絡めるように喉の奥まで飲み込んで。
      飛び出した眼球の所為で閉じることのない瞼。
      ムードないなぁと思いながら目を閉じた。



      つまんねぇ夜のB級ホラー。
      君はどこまで笑い飛ばしてくれる?
      だってさ、枕の位置を反対に変えれば、女の子は青年の方を向いて寝れたんじゃん。
      ベッドの上下を逆にすれば、青年は女の子の前に来れたんじゃん。
      そんなんで殺された女の子って、一体青年の何だったんだろうね。
      




      あ、駄目だ・・・













      俺の家

















      枕の位置逆さまにしたら
























      北枕になっちゃうもん。

























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      レトロなホラーなんで、レトロなお話にしてみました(意味不明)
      主人公が一言も喋らない夢小説・・・ある意味ホラーな気がします・・・。
      

      少しでもお気に召しましたら、感想下さると嬉しいです★





      20040910   未邑拝




     
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