目を閉じれば外は雨。
      それでも俺は酷く穏かな気持ちやった。
      この腕の中に、愛しい人を抱きしめられたんやから。





















      AINY IRROR



















      その日はあいにくの雨。
      なんとなくベランダに出ると湿気を含んだ空気が一気に身体に張り付いた。
      雨の日特有の気だるさ。
      これから梅雨になんて毎日こんなんやと思うと早くも憂鬱になる。
      

      「いつまで降んねん・・・この雨」



      口寂しくなって取り出した煙草には火が付かへん。
      帰ってくるとき雨にでも濡れたんやろか。
      あーポケットに入れとくんやなかった、勿体ないわ。
      こんな雨ん中買いに行きたないしなー。
      いや、エントランスに自販機あったよな。
      そこやったら濡れへんやん、買いに行こかなー。
      あーやっぱ面倒やから今日はええや。
      俺は苛々しながら煙草を柵越しに投げ捨てた。
      その瞬間の事。



      一瞬目が合った。
      意思の強そうな、射るような目。
      せやのにどこか弱々しくて、今にも泣き出しそうな目。





      気付くと俺は急いでエレベーターに乗っとった。














  
      外に出るとやっぱり酷い雨。
      あー何か雨の日って身体の節々が痛む気ぃするわ。
      ぅわ・・・なんかオヤジくさ・・・前言撤回ってことで。
      俺は無造作に掴んできた傘を差して上から見たモノを確認しに行った。
      


      俺の部屋の斜め下、青白く光る公衆電話ブース。
      全然使わへんから気付かんかったわ。
      まだ公衆電話とかあったんやな。
      気味悪・・・不良の溜まり場になる前に壊してほしいわ。
      俺はどーでもえぇ事ばっか考えながらソレに近付いた。



      「そこの電話、金入れんとかけれへんで」


      「お金・・・持ってない・・・」



      明らかに電話をかけようとはしてへんのやけど。
      ブースのドアに背をつけてぺたりと座り込んだままのソレ。
      阿呆みたいに雨に濡れて、表情さえはっきりせぇへん。
      とりあえず声聞いて解った事。
      コレはおそらく人間で、おそらく女であると言うこと。
      



      「俺も持ってへんわ」


      「・・・」


      「ウチ、来いや」


      「・・・どうして?」


      「電話、貸したるから」



      夏でもないんにノースリーブの黒いワンピース。
      強い雨が女の身体に容赦なく降りかかる。
      俺の言葉に反応したのか、ふと上げられた視線。
      あの時と同じ、強くて弱い、揺れる様な目。
      俺を拒絶するような、それでいて助けを求めるような目。
      気付けば俺は女の細い腕を引いて、傘の中へと招き入れた。
      意外に高い身長、細い身体、どこぞのモデルかと思わすような体型。
      俺は細っこい手首を掴んで、マンションへと足を戻した。



  
      








   





      「とりあえずコレで拭いといてや」


      「・・・いい、いらない・・・」


      「いらんやないやろ。風邪引いてまうわ」


      「いい、いらない・・・風邪、引かないから」


      「・・・そのまんまやったら床が濡れんのやけど」


      「ぁ・・・ごめん、なさい・・・」


      「謝らんでえぇから頭拭ぃや?」



      外よりも幾分か湿気の少ない部屋。
      開けっ放しの窓から聞える雨の音。
      さっきまで独りでおったはずの部屋に、今は二人。



      俺はタオルを投げるとそのまま浴室に直行した。
      シャワーじゃなんやし、とりあえず風呂に湯を張る。
      あーなんか凄いもん拾ってきた気ぃするわ。
      何で連れて来てもうたんやろ。
      落ちとるもんは拾いたくなる貧乏性か?
      これ以上世話するもん自分で増やしてどーすんねん、俺。
      徐々に溜まっていくパスタブを見つめながらなんとなく後悔。



      湯気が脱衣所までけぇへんようにドアを閉めてリビングに戻った。
      あーあ・・・床びしょ濡れやん。
      あいつ裸足やったっけ?・・・あそこまで濡れとったら靴履いとっても意味無いわな。
      つーかまだ名前も聞いてへんかった。


     
      リビングのドアを開けるとあいつは部屋の隅っこに蹲っとった。
      頭から俺の投げたタオル被って。
      はみ出た髪からポタポタ水か滴っとるのが見えた。
      床にはあいつが移動した軌跡と思われる水の跡。
      あとで纏めて拭いとこ・・・。


 
      「頭拭けって言うたやろ?」


      「・・・」


      「女の子が身体冷やしちゃマズイやん」


      「・・・」
      
  


      あー・・・この沈黙が苦手なんやって。
      何でもええから喋ったってや。会話のキャッチボールしてくれ。
      つーか上から下までびしょびしょやん。
      これで風邪引かん方がおかしいやろ。



      「とにかく風呂入りぃ」


      「・・・」


      「多分入れるくらいはたまっとるはずやから」


      「・・・」


      「・・・ったく・・・」



      顔も上げようとせぇへん、返事もしようとせぇへん。
      俺のこと警戒しとるんか?
      でもせやったら最初っから付いてこんよな。
      駄々っ子は京くんと心夜だけで十分やっちゅーの。


      

      俺は端に蹲ったこいつを抱きかかえた。
      身長は165cmくらいあんのに何でこんなに軽いねん。
      中身入っとんのか?
      もしかして心夜より細いんとちゃう?
      ちゃんと食って・・・って俺はこいつの保護者か。
      何でもえぇからはよ風呂入れてまお・・・。



      俺はこいつを抱きかかえたまま風呂場のドアを開けた。
      狭い浴室は湯気が充満しとって。
      俺はそのまま腕の中のこいつを浴槽に投げ入れた。



      「ひゃぁっ!!」


      「あったかいやろ?」


      「・・・ッ」


      「あったかいやろ?」


      「・・・ぅん・・・」


      「・・・やっと喋ってくれたな」


      「ご、ごめんなさッ・・・」


      「なして謝るん?」



      濡れた髪を手で梳いて、前髪をかき上げてやる。
      冷たい髪の間から出てくる綺麗な瞳。
      俺を警戒しとるんやろか、それとも怯えとんのやろか。
      まぁ、いきなり見ず知らずの男の家に連れて来られたら焦るわな。
      どっちつかずの潤んだ瞳。



      「もっと喋って?俺、あんたの声聞きたい」


      
      なんで自分でもこんなこと言うたんか解らん。
      ただ、このままこいつを離したないって思った。
      初めて会ったのにおかしな話やな。
      やけど、この感情に理由なんて付けれへんかった。



      「俺、もっとあんたのこと知りたいわ」


      
      外は酷い雨。
      降っても降っても満足せぇへんように降りしきる。
      多分、こんな雨の日は何も見えんようになる。
      それは多分、真実とかいう類のもの。



















      
      「・・・あの・・・お風呂・・・」


      「お、おぉ、上がったんか。一人で大丈夫やった?」



      それから数十分後、ドアから覗き込むようにあいつが帰ってきた。
      いゃ、さすがに一緒に風呂入るわけにもいかんやん?
      一通り説明はしたんやけど、なんせ伝わっとんのか解らんし。 
      濡れた服は洗濯機に入れるように言うたんやけど・・・
      絶対入れてへんわ、何となくそんな気ぃすんねん。
      


      「ほら、そんなトコ突っ立っとらんと、こっち来ぃや」


      
      手招きすると、さっきより幾分か素直に動くようになった。
      俺のダボダボの服着とんのが妙に可愛い。
      あーこのアディダス堕威とお揃いで嫌やと思っとったけど、結構えぇ感じやん。
      ちゃんと洗濯しといて良かったわ。


      
      「あーあ・・・なんでちゃんと髪拭いて来んねん」


      「・・・だって・・・」


      「だってやあらへんやろ。ほら、拭いたるから座りぃや」


      
      普通身体拭く前に頭拭くやろ!
      だってそうせんと何回拭いても頭の水で濡れてまうやん。
      なんでそーゆー小学生でも出来ることが出来ひんねん。     
      ・・・また保護者丸出しや・・・


      腕を引っ張って俺の前に後ろ向きで座らせる。
      滴る水を肩に掛けとったタオルでふき取ってやる。
      肩にかかるくらいの長くもなく短くも無い綺麗な髪。
      後ろからみてもやっぱり薄っぺらな肩。
      俺は少し乱暴に頭をワシャワシャと拭いてやった。



      「ぅー・・・」


      「あい、完了」


      「・・・あの・・・あり・・」


      「ん?」


      「・・・ありがと・・・」


      
      少し俯き気味にそう呟いた声。
      なんか妙に嬉しくなる。
      


      「どーいたしまして」



      真っ直ぐ俺に向けられた目。
      さっきと同じように強い目なんやけど、それには敵意はみられない。
      少しは安心してくれたっちゅーことやろか?
      


      「あ、そや。コーヒー飲めるか?」


      「・・・うん」


      「ちょぉ待ちぃな。ミルクと砂糖とかないで?」


      「ぅん・・・平気」


      「あ、牛乳はあるわ。賞味期限切れて・・・ない。セーフ」


      「・・ふふっ・・・変なの」



      冷蔵庫の中の牛乳の表示を見て一喜一憂する俺に初めて見せてくれた笑顔。
      それがあんまりにも突然やったから。
      嬉しすぎて本当に嬉しいんかも、よう解らん。
      初めて見るその笑顔が、あんまりにも綺麗やから。
      少し照れるような、苦笑いともとれる笑み。
      なぁ、この感情に名前を付けるなら、どんなんがえぇんやろ。



      「・・・ちゃんと笑えるやん」


      「ぁ・・・ごめっ・・・」


      「せやから何で謝るん?」


      「・・・怒らない、の・・・?」



      ほら、またあの怯えたような目や。
      もしかして今まで怖い目にあってきたんやろか?
      喋ったり笑ったりすることを虐げられてきたんやろか?


      「さっきも言うたやん。あんたの声、もっと聞きたい、って」


      頷いて微笑む姿があまりにも可愛くて。
      おもわず俺は目を逸らしてしまう。
      顔が熱い。
      何に対して照れとんねん、俺。


      俺はそのまま背を向けてコーヒーを淹れた。
      ポットのお湯が微妙にぬるいねんけど・・・まぁえぇか。
      


      「ほら、零すなよ。えーっと・・・」


      「・・・


      「ん?」


      「、だよ。私の名前・・・」



      嬉しい。
      こいつが自分から喋ったことが嬉しい。
      うわー自分の子供が初めて喋ったときってこんな気持ちやろか。



      「えぇ名前やな」


      「あなたは?」


      「薫、や。薫風の薫な」


      「・・・かお、る・・・かおる・・・」


      「どした?」

    
      「・・・素敵な・・・綺麗な名前ね」


      「ありがとう」   



      何度も俺の名前を呟く姿がヤバイくらい可愛い。
      何やって聞くと呼んだだけって微笑む。
      あぁ、こんな顔で笑うんやな。
      さっきよりずっとえぇわ。
      さっきよりずっと綺麗や。






















 
      しばらくするとは辺りを見渡して、壁に立てかけたギターを見つけた。
      前に座って少し遠慮がちにギターに触れる。
      弦を弾いては止めて弾いては止めて。
      甲高い音が不規則に響く。



      「ギターに興味あるん?」


      「薫、これ弾くの?」


      「まぁな。これが俺の仕事やし」


      「歌を歌う人なの?」


      「んーそれは他の奴の仕事。俺は歌を作んねん」


      「歌を、作るの?」


      「そや。ちょっとそれ取ってみぃ?」


     
      からギターを受け取ってコードをアンプに繋ぐ。
      に聞えるようにヘッドホンのコードは外す。
      んー夜中やし、あんまデカい音出したらあかんよな。
      何弾こっかなー・・・ま、何でもえぇか。


      俺は頭に浮かんできたコードを押さえては弾いた。
      少し重くて静かなフレーズばかりを選んでは弾いた。
      無言が流れる中でギターの音だけが響く。
      は目を閉じてそれに聞き入っとるみたいやった。


    
      「薫の音は雨みたい」



      繰りかえし何度も弾いたフレーズ。
      はふとそう言った。
      

      
      「雨って?」


      「雨はね、鏡なの」


      「鏡?」


      「雨はね、神様が地上を見るために降らせてるんだよ」


      「どーやって見るん?」


      「雨には映るんだよ、全部」



      ギリシャ神話かなんかか?
      俺、そっち系あんま詳しくないねんなぁ。   
      でもがあんまりにも切なそうに話すから。
      落とされた綺麗な瞳。
      それに映りたいっちゅー願望に駆られる。



      「だからね、雨は可哀相。嘘さえ吐けないんだもん」


      「・・・」


      「だから雨が降ると悲しくなるんだね」



      「悲しく?」


      「うん。ほら、雨って綺麗でしょ?」


      「うーん・・・」


      「こんなに綺麗なのにね、汚いものばっかり映さなきゃなんだよ?」


      「汚いものって?」


      「・・・綺麗なものの反対。綺麗じゃないもの・・・かな」




      あぁ・・・きっとは・・・。
      せやから今のを見よんのはこんなに痛々しいんや。
      唐突に流れ込んできたもの。
      理解したんやない。
      最初から当然であったことに気付いただけ。
      は・・・。



      「薫の音は雨そっくりなの」


      「・・・なして?」


      「歪みで痛々しさを隠してるみたいなんだもん」


      「別に痛ないで?」


      「嘘。でなきゃこんな音出せない」


      「こんな音?」


      「雨みたいに・・・痛々しくて綺麗な音」



      俺、そんな音出しとったんやろか?
      無意識やとしても・・・どうしてにはそれが解るんやろか?
      俺ですら気付かへんのにな。
      


      「凄く綺麗で、何でも見透かしちゃいそうな音だよ」


      「ありがとな」



      もしかしたらは気付いとんのやろか?
      俺が気付いとることに。
      別に何がしたいわけでもない。
      唯、その綺麗な瞳だけは曇らせたないって思った。
      どうしてかは解らへんねんけど。



      「綺麗なものを綺麗って言える人は、綺麗やと思うで」


      「・・・」


      「綺麗なものを知っとる人は、綺麗やと思うで」


      「全然・・・綺麗なんかじゃないよ・・・」


      「がそう思っとっても、俺には綺麗に見える」


      「・・・どーして?」


      「さぁ?俺もさっきから考えてんねんけど、解らへんねんなぁ」



      だってこの感情に名前なんて付けれへん。
      今まで感じたことない、まだ未発達な感情。
      せやけど・・・せやから、名前をつけて固定してしまうんが勿体無い。
      きっとそんな概念も邪魔なくらい、綺麗な感情。



      「もしかしたら・・・」



      手放したくない気持ちに駆られる。
      でもそれじゃあかんって思う自分もおる。
      こんな細っこい手を離してえぇわけないって。
      俺が護ったらなあかんって。
      せやけど、こんな頼りない手を離さなあかんことも解っとる。
      どっちが正解かなんて最初っから解っとる。
      せやけど、もう少しだけ、夢見てもえぇやろ?
      せめて、この雨が止むまでは・・・。



      「雨が降っとるからかもしらんな」



      俺は灰色のベッドの上で、を後ろからそっと抱きしめた。
      ビクッっとの身体が震える。
      俺はそれを宥めるかのように優しく頭を撫でた。
      こんな細い身体でもちゃんと温かいのに。
      ちゃんと熱を持って、今、この場所に存在しとんのに。
      この頼りない存在を、誰が嘘だと否定できる?
      夢と現実の区別がつくなら教えてや。
      目に見えるものだけが、真実じゃないっちゅーことくらい、解っとんのにな。



      「なぁ、水溜り見たことあるか?」


      「うん?」


      「じゃあ空は?何色?」


      「青」


      「せやんなぁ?せやけど水溜りは灰色やない?」


      「ぁ・・・うん」


      「せやけど空は間違いなく青いやん?」


      
      自分がとれだけ子供っぽい理屈を言いよんのか。
      解っとんねんけど、他に思いつかへんねん。
      の存在を肯定してやる方法が。
      


     
      「だからって水溜りに映るもんが空じゃないわけやないよな」


      「うん・・・」


      

      あ・・・この目や。
      俺が見惚れた綺麗な目。
      意志が強いような、だけどどこか儚く脆いような瞳。
      目が、逸らせへん。



      「目に映るもん全てが真実なんやない」


      「薫・・・」


      「俺が・・・が思うもん全てが真実なんや」


      「薫・・・苦しいよ・・・」


   
      離したない。
      この身体を、この瞳を、この腕の中に閉じ込めてしまいたい。
      叶わんとは解っとるけど、どうしても望んでしまう。
      あかんと解っとるのに、なしてやろか。
      名前も無い感情に歯止めが効かへん。



      「薫、苦しいってば・・・」


      「もう少し・・・」


      「・・・苦しいよ・・・」



      どんだけ強く抱きしめてもなんの意味もあらへん。
      こんな形でしか生を証明してやれん俺は阿呆やろか。



      「やっ・・・薫ッ・・・!」


      「・・・は・・・間違いなく此処におるから・・・」



      なぁ、誰か教えてくれんか?
      生きとるって何?
      心臓が動いとるとか息しよるとか、そんな単純なもんなん?
      涙流して小さい抵抗を繰り返すこいつは?
      世界の常識が通用しない世界。
      だっては・・・
      こんな形でしか生を証明してやれん俺は、阿呆ですか?




































      「っやぁ・・・ッはぁ・・・ッ!」


      「気持ちえぇん?」


      「そんな・・・ッわか・んな・・やぁッ・・!」


      「嫌やないやろ?俺が見とったるから・・・えぇ声で鳴いてみぃ?」


      「あぁッ!薫・・・っぅん・・・かお・るッ!」


      「・・・めっちゃ綺麗や・・・綺麗やで・・・」


      「ゃ・・・もぅムリぃ・・・ぅはぁ・・・ッ!」


      「・・・ッ・・・」




































       外は雨。
       開けっ放しの窓、むせ返る湿った空気。
       降り注ぐ雨の音を聴きながら、俺等は狂ったように身体を重ねた。
       抵抗するを組み敷いて、何度も何度も狂ったように。
       降り続ける雨に映るの姿。
       それを綺麗やと思わずにはいられんかった。
       たとえそれがどんな姿でも。
































      「ねぇ・・・薫が気付いてくれて、嬉しかったよ」


      「・・・あぁ」

      
      「ホントはね、ずっと寂しかったの」


      「・・・あぁ」


      「もう誰にも抱きしめてもらえないって思ってたから」


      「・・・あぁ」


      「こんな温かい気持ちになることなんてないと思ってた」


      「・・・あぁ」


      「ねぇ、薫?」


      「ん?」


      「もう一回・・・抱きしめて?」


      「・・・・・・」


      「もっと強く。一生分、強く抱きしめて?」


      「・・・えぇよ」


      「薫・・・好きだよ」


      「・・・ありがとな」


      





























      乱れたベッド上。
      目を覚ましてみれば、抱きしめたはずのはいなかった。
      濡れたベッドは昨夜の雨の香りがする。
      


      訂正。
      抱きしめたはちゃんと俺の腕の中におった。
      唯、それは昨日のとは姿が違うだけ。
      雨に映った本来の姿。
      それでも変わることのない綺麗な姿。
      



      俺の腕の中におった、一人の女性の白骨。




      
      「なんや・・・こんな細かったんやな」




      俺はそれを抱きしめたまま、唇であろう場所に口付けた。
      昨日とは違う唯のカルシウムの味。
      それでも俺にとっては昨日よりずっと意味のあることのように思えた。
      


      「あ・・・電話貸し忘れとった・・・」



      気持ち悪いわけない。
      ましてや怖いわけない。   
      見たくてしょうがなかったの姿。
      白くて細いその姿はやっぱり綺麗で。
      俺は壊れそうな頭部をきつく抱きしめて口付けた。
      昨日と同じように。



      「ごめんな、そう言えばウチ電話ないねん」



      携帯でもえぇかな?
      もう絶対に答えが返ってくることの無い問い。
      多分、いらんって言うやろな、なら。
      


      「ま、電話借りたくなったらまた来ぃや?」



      開けっ放しの窓から昨日と同じ音が聞こえる。
      サラサラと地面に落ちる雨。
      神さんが作った小さい鏡。
      それが地面に落ちては壊れ、灰色に広がっていく。


     
      「今日も大雨みたいやな?この調子じゃ外出れへんで?」



      いつか晴れる日がくるんやろか?
      きっとそれは神さんが満足した日。
      なぁ、そんな小さいもんで世界全部見ようなんて無謀ちゃう?
      見えるもん全てが真実とは限らんのやで?
      例えば水溜りが空の色を映さんように。
      例えば俺の目がの姿を映さんように。



      「とりあえず、もうちょい寝らへん?」



      俺は上半身だけを起こして枕もとの窓を閉めた。
      落ちてくる透明な鏡にを映さんように。


      目を閉じれば外は雨。
      それでも俺は酷く穏かな気持ちやった。
      この腕の中に、愛しい人を抱きしめられたんやから。





      もしかしてこの判別不能の気持ちは愛情やったんやろか?
      今となってはもう解らんけど。
      


      答えは雨だけが知っとる真実の中。























      BE HAPPY・・・?



      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

      またもや意味不明に長い話になっちゃってごめんなさい;
      そして微妙なエロシーンで不快に思った方、ごめんなさい;

      私、薫さんが嫌いなわけじゃないんです!むしろ好きです!
      だけど思いついた話に似合うのが薫さんしかいなかったんですよ!(必死)
      アンケで「薫さんを幸せにしてやって下さい!」ってのが凄く多いんですが・・・
      えー・・・もう少し待ってて下さい(笑)


      少しでもお気に召しましたら、感想下さると嬉しいですv




      20040522  未邑拝


      





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