眺めるだけの人形ならいらへんけど。
      でもそれは抱きたいとかそういう意味やなくて。



















       お人形






















      一目惚れって言うたらそれまでかもしらん。
      でも他に何かがあるんかも。
      なんて思うんはロマンチストの証拠やな。


      明日がライブやから今日はフリー。
      珍しく5人で飯でも食いに行こうかっちゅーとこ。
      あんま乗り気やなかってんけど敏弥がうるさぁて敵わんから。
      だってな、好き嫌いあんねんから5人もあったら合わへんやんか。


      薫くんは寿司食いたいらしいけど堕威くんがナマモノあかんし。
      敏弥はエビチリ食いたいらしいけど薫くんがエビあかんし。
      心夜に至っては腹減ってへんとか言い出すし。
      こんまんまやったらファミレスになってまうんとちゃうか?
      あー・・・来るんやなかったわ。


  
      「もー寿司ある居酒屋行けばえぇやんか」


      「そんなの何処にあんの?」


      「知らん。もー薫くんが寿司諦めぇや」


      「えぇー・・・」


      「えぇ年こいてなに駄々こねとんねん、オッサン」


 
      ウンザリして歩き出そうとした瞬間。
      一瞬、薫くんに殴られたんかと思った。
      後頭部に鈍い痛み。
      ガツンと清々しいほど豪快な音。
     

      人がぶつかって来たんやって気付いたんは、それから7秒後のこと。



      「ッってぇ・・・」


      
      後頭部がズキズキしてきた。
      俺は頭を押さえて思わずよろけた。
      頭突きって意外に痛いもんやなー・・・
      つーかどこの大馬鹿が突っ込んできよってん?!

 
      文句ゆうたろ思って睨みつけるように後ろを振り返った。
      俺はな、今最高潮に機嫌が悪いねん。
      それに拍車かけるようなことしやがってからに。
      男やったらドツキ回したろ。



      「ご、ごめんなさいッ!!殺さないで下さいッ!!」


      「・・・は?」



      人形が・・・喋ったんかと思った。
      よう恐い話とかで出て来る人形あるやんか。
      髪伸びる日本人形やなくて、古い洋館とかにおるやつ。


      金色に近い色の長い髪をクルクルっと巻いて。
      茶色くて大きな瞳。
      肌の色は真っ白で、身体はちっこくて手足は細い。
      黒基調に白のレースが施されたワンピース。
      どこの王族のドレスやねん。
      肌が真っ白なもんやから、服が黒いとトランプみたいや。


      あぁ、解った。
      アンティーク人形や、アンティーク人形。
      こいつ、ソレにそっくりや。
      

      デコを押さえて座り込んとるってことは、ぶつかった犯人はこいつ。
      しかもデコが俺の後頭部に当たったってことは俺よりチビ。
      ん?俺よりとか言うたら俺もチビって言いよるみたいやんか。
      ちゃうねんて、こいつは俺より背が低いって意味。
      

      デコを押さえる指に嵌められたいくつかの指輪。
      こんな細っこい指輪も売ってあんねんなぁ。
      白くて細くて綺麗な指。
      こいつ、ほんまに人間やろか。



      「あの、わ、ワザとじゃないんです!」


      「え・・・ぃや、おぃ・・・」


      「お願いだから殺さないでッ!!」


      
      おいおいおいおい!!
      こんな道端で何ゆーとんねん。
      でかい声出すなや。皆見とるやないかい。
      大体、ぶつかっただけで殺すっちゃ何事や。


      「お願いしますーッ!」


      「ちょっ・・・黙れや!」


      「ひゃっ・・・お、怒らないでぇ・・・」


      「怒ってへんわ!」


      「ゃ、怒ってるじゃないですかぁ・・・」


      「怒ってへんから、ちょっと向こう行こうや、な?」


      「・・・」






















      人通りの少ない通りに連れて来て、この人形の第一声に驚いた。
      多分それは俺だけじゃなくてメンバー全員。
      散々騒いどいてそれが演技やったんならしばいたろうかと思った。
      でもどうやらそうじゃあらへんみたいで。
      


      「あの・・・京、さん・・・ですよね?」


      
      俺は掴んどった右手を思わず離した。
      後ろを向くと顔を傾けた綺麗な人形の顔。
      赤く色付いた唇が確信めいて言葉を形成する。


      「お前・・・知っとったんか?」


      「知ってたけど、気付かなかったんです」


      「いつから?」


      「それは知ってたのが?それとも気付いてたのが?」


      「・・・気付いたのが」


      「5分くらい前・・・京さんの後ろ姿見たときです」


      「なして?」
 
  
      「ステージの裏に帰ってくときに見える後姿、いつも見てたから」



      そう言ってにっこりと微笑んだソレは人形やなかった。
      こんな綺麗に笑える人形なんて、俺は知らんから。
      


      「あんた・・・名前は?」


      「、です」


      
      黒いスカートの裾が風に遊ぶ。
      硝子玉みたいな瞳に俺が映る。
      人形になんか、興味なかったはずなんに。



      「ねーねーチャンって地元の子?」


      「え?あ、そうですけど・・・?」


      「やったー!お寿司もある居酒屋って知らない?!」


      「お寿司・・・あ、知ってる・・・かも?」


      「何で疑問系?」


      「だってあんまり行かないんだもん、居酒屋」


      「あーそっかそっか。ま、いいや!案内してー」


      「ちょ、敏弥!初対面の子に何言うとんねん!」


      「寿司食いたいって言ったの薫くんじゃんか」


      「せやけど・・・」


      「あ、良いですよ!私でよければ案内します!」


      「だってサ」



      薫くんは飽きれたように溜息を吐いた。
      あんま一人で悩むと禿んでー。
      ただでさえ禿疑惑浮上しとんのやから大切にしたれや。


      とか思っとったら薫くんがいきなりナンパし始めた。
      おいおいオッサン・・・
      

      
      「・・・やったよな?すまんなぁ」


      「いいえ。5人でお食事ですか?」


      「あーあのデカイのが駄々こねてな」


      「仲良しの証拠じゃないですか」


      「良かったら一緒食いに行かへん?」


      「・・・えぇ?!いえいえいえ!そんなお気になさらずに!」


      「なんか予定あるん?なんや急いどったみたいやし」


      「い、いえ・・・」


      「じゃー決まりな」



      結局俺等5人+1人はに案内されて居酒屋に行くことになった。
      傍からみたら絶対オカシイ集団やろ。
      黒々しい男共の中にこれまた黒いアンティーク人形。
      敏弥のあのグラサンは間違いなく変質者系やな。
      堕威くんが前髪くらいまで黒髪伸びて赤と黒の河童みたいやし。
      心夜は金パやし、薫くんに至っては・・・何も言えへんわ。
      それに取り囲まれとんのは動くアンティーク人形。
      

      正直、の一挙一動から目が離せんかった。
      冷たいコンクリートの上を動く小さな足。
      オーバーニーとスカートの間から覗くそれを動かしている細くて白い脚。
      見るからに小さくて細っこい体を包むレースの服。
      そこから伸びる腕は居酒屋の方向を指し示す。
      敏弥に笑いかけて堕威くんと話ながら薫くんと笑う。
      心夜の顔を覗いて、食べたいものありますかって尋ねる声。
      おいて行きますよって俺の手を取った、


      柔らかくてフワフワしたもんが好きやった。
      抱きしめたら心地良くて酷く温かそうやったから。
      例えばそれは太陽の匂いで、例えばそれは月の匂いで。
      多分、俺を安心させてくれるもんやって知っとったから。


      やっぱ俺等は異色の組み合わせやったみたいで。
      が案内した居酒屋の主人、めっちゃビビッた顔しとった。
      その居酒屋は結構小さくて全部座敷になっとった。
      テーブルの下に足入れれるやつあるやんか。
      なんやっけ・・・掘りごたつ?何かそーゆうの。
      アットホームな雰囲気ってこうゆーのゆうんやろうか。
      棚に飾られたいっぱいの焼酎に早くも眩暈がした。


      居酒屋に入るやいなや堕威くんが生6つって叫んだ。
      阿呆か、この河童。
      


      「あ、チャン酒飲める?」


      「どーぜ訊くんなら頼む前に訊きなよ」


      「細かいトコでうっさい奴っちゃなぁ」



      は苦笑いしながら運ばれたビールに口をつけた。
      あ、飲めるんや・・・未成年やと思っとったわ。
      未成年やったらこんな場所来ぃへんか、そーやんな。
      でも未成年でも来るもんなんかなぁ、今時は。
      今のオヤジ発言やな。


      馬鹿みたいに運ばれてくる料理。
      この店何でも揃ってんねんなぁ・・・
      寿司もあればエビチリもあるわ。
      心夜、腹減ってへんとか言うたくせに白子突付いとんやんか。
      まぁ、そーでもえぇけど。


      あ、堕威くん焼酎頼みよった。
      明日ライブなんにどんだけ飲むねん。
      自分の年考えぇや、ほんまに。


      俺は堕威くんの傍を離れた。
      だってこのまんまやったら飲まされる可能性が高い。
      俺はちゃっかりの横に座っとった敏弥を追いやって腰を下ろした。
      


      「酒、飲めるんや?」


      「飲めないことは無い、って感じです」


      「最初、俺の後姿見て気付いたって言うたやんか?」


      「はい?」


      「なして?なして俺の後姿なん?」


      「ライブのとき・・・凄く印象的だったから・・・」


      「なして?」


      「あんな歓声に背中を向けるの、恐くないのかなぁって」



      真っ白な肌がアルコールの所為かほんのり赤く染まってみえる。
      数時間前、敏弥が冗談で誰の虜かって訊いた。
      そのときは少し照れたように俯いて、Dir en grey の虜ですって言うた。
      何となく、そのことが頭を過った。


      「大切なものとか絶対必要なものって、目の届くところにないと不安になりませんか?」


      「・・・?」


      「だって振り向いたとき、必ずしも同じ物があるとは限らないじゃないですか」


      
      そう呟いてはグラスに口をつけた。
      無くなっていくものとか俺の手を離れていくものに興味はなかった。
      手に入れたいと思うものは手に入るはずのものが多かった。
      離れることはないと確信したものしかいらなかった。
      だから捨てるものが多すぎた。



      「狂気みたいな感情が全部自分の為にあるってどんな気分ですか?」

     
       
      いつだって俺を見とるもんしか見てへんかった。
      『俺』っていう俺の総合体を見とるもんしか。
      それは俺がよそ見しても背中向けても必ずそこにあるもんやった。
      もしおらんようなっとっても別に気にもしない程度のもんやった。
      


      「それに背を向けるってどんな気分ですか?」



      初めて見た。
      一方的にぶつけられる感情の中で唯一つ俺を受け入れてくれるもの。
      俺ですら気付かんかったもんを教えてくれる。
      急に泣きたいような、そんな気持ちになる。


      
      「・・・明日のライブ来るん・・・?」


      「え・・・あ、はい!ずっと楽しみにしてたんですから!」


      「来んな・・・明日のライブ、来んなや」


      「きょ・・・京さん・・・?」


      「頼むから・・・」



      なぁ、俺が何の為に歌っとるか、知っとる?
      俺が誰の為に歌っとるか、は知っとる?
      俺は・・・



      「お前には、見られたないねん」


      「どうして・・・ですか?」


      
      巧く言葉が出て来ぃひん。
      どうやったらこの感情を説明できるんやろうか。
      一目惚れだからなんて阿呆みたいな理由で、は納得してくれるやろか。



      「俺、アンタが好きみたいやから」



      俺が歌うのは俺だけの為。
      どんな客が何人いようが関係ない。
      俺が歌うのは俺だけの為やから。


      俺がにあげるもんは全ての為であるもんであってほしい。
      こいつが俺の中身を理解してくれとるのと同じように。
      自分自身の為だとしても、それがの為やないなら意味が無い。
      本当に俺があげたいものじゃあらへんから。



      「いつか、の為だけに歌ったるから」


      全部が伝わったとは思わへん。
      やけど優しく微笑んだはアンティーク人形以上に綺麗やった。
      つられて俺も微笑んだ。
      綺麗に笑えたかどうかは解らへんけど、酷く穏かな気持ちやった。
      


      「あー!京くんが抜け駆けしてるー!」


      「うっさい、黙れ、酔っ払い」


      「酔ってねぇーもーんだッ!」


      「二日酔いで死ね」


      「キャベツー飲むから二日酔いにはなりませーん」


      「そんなもんに頼らなんのはオヤジの証拠やで」


      「お酒も飲めない人に言われたくねぇーよ」


      「死ね」



      
      眺めるだけの人形ならいらへんけど。
      でもそれは抱きたいとかそういう意味やなくて。
      こうやって一緒に馬鹿やって、笑って、見つめ合って。
      誰も見てへん隙を狙って口付けたり。
      やからほしいと思った。
      

      アンティーク人形に宿った魂。
      それは当然のように外見に劣らず綺麗なもんやった。
      運命とかそんな胡散臭いもん信じてへんかったけど。
      最初っから無いて決め付けるもの可哀相かな、と思った。






















      BE HAPPY・・・?

     
      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

      5万打御礼リクで羅叉弥様に捧げます。遅くなって本当にごめんなさい!
      【灰銀のLIVEにいく途中で、灰銀のみんなに会って知り合いになっていって・・・】
      というリクだったのですが・・・選択夢にする気力がなかったので当初のリクの京夢に。
      書き直しいつでも受け付けます!
      羅叉弥様のみ、お持ち帰りOKです。
      リクありがとう御座いました★
      


      20040923  未邑拝



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