恋をしました。
      その姿はまるで・・・まるで・・・






















      名前も解らない
























      誰かに愛されたい。


      別に自分が誰からも愛されてへん人間やとは思ってへん。
      やけど時々、無性に愛されたいと思う。
      それは俺を好いてくれとぉ人間には失礼なんかもしらん。
      礼儀知らずか恩知らずか。
      

      時々、自分が酷く薄い人間のように思える。
      裏表印刷も出来ひん紙みたいにヒラヒラでペラペラ。
      滲み出てくる内部さえ無い俺は、汚れる術さえ持ってへん。
     

      それでも確実に綺麗とはゆえへん俺。
      誰かに見せてそうで見せてへん汚れ。
      自分でも認めきれへん裂傷。
      打ち明ける心が何処にあるのかさえ解らへん。
      受け止めてくれる誰かが愛してくれる誰かとは限らへんのに。

  
      愛されたい、愛されたい。





      なんとなく外に出た。
      冬の日光は柔らかいオレンジ色。
      それでも大した心地良さも感じられへん。

  
      上を向いて歩いた。
      サングラス越しに目に届く光。
      雲は不安定な形を成して心許なく浮遊する。
      

      「アナタが求めてないからよ」


      「・・・何を」


      「愛されるべき自分、を」


      「・・・どんなんやねん、それ・・・」


      「ほら、またそうやって上向く」


      「・・・アンタに関係あらへんやろ」


      「だったらどうして見つけたの?」


      「・・・何を・・・」


      「私をよ」


      偽物に色付く空。
      フィルター越しに自分を護りながら歩く癖。
      誰にも見られへんように。
      誰も見ぃひんように。


      「京はいっつも逃げてばっかりね」


      「・・・逃げてへんわ」


      「逃げた先は現実じゃないって言ったの、自分のくせに」


      「逃げてへんゆうてるやろ」


      「逃げてるうえに嘘まで吐くんだ?」


      真っ直ぐすぎる言葉。
      見透かされるどころかそのまま貫かれそうになる。
      

      つまらん自分に拍車がかかる。
      下を向いても上を向いても真実なんて見えへん。
      そこに唯在るだけの真実ですら、俺には見えてへん。
      

      真実が見えへん現実。
      現実に浮遊しとるのもまた真実。
      

      「お前に何がわかんねん」


      「京が気付いてないこと」


      「俺にすら解らへんのになしてお前にわかんねん」


      「私は京じゃないからじゃない?」


      「・・・頭湧いたんか?」


      「ズルイ逃げ方ね」


      作り上げた世界で自分を護る。
      俺の汚い部分、誰にも見せへんように。
      他人の汚い部分、俺が見んでもえぇように。


      綺麗なままでおりたい。
      でも汚れてへん人間なんかおるわけない。
      汚いものが綺麗なもんに憧れるんは当然の衝動。
      当に自虐的。


      自分を護る術も傷つける術もちゃんと知っとる。
      例えば誰かを傷つけるとする。
      あかんことやったと思った瞬間自分を傷つける。
      それは物理的にやったり精神的にやったり。
      

      でもな、ソレは反省しとるからとちゃうねん。
      俺かて傷ついとったら、誰も責めへんやんか。
      可哀相やと思って誰も責めたりしぃひんやんか。
      

      汚くない・・・わけない。
      こんなんやって人騙して自分護って、何で綺麗やってゆえんねん。
      でもそーせな生きていかれへんねん。
      人に傷つけられんのが恐い。
      人につけられた傷が俺ん中に残ってくんが恐い。
      自分の傷には阿呆みたいに敏感に反応する。
      人に傷は見て見ぬふりしか出来ひんくせにな。


      「・・・逃げて何が悪いねん」


      「・・・」


      「逃げて何が悪いんかっ?!」


      こんな自分、好きになれるわけがない。
      自分の中の汚さを直視することさえ出来ひんのに。
      誰にも見せれん。
      こんなん誰にも見せれん。


      こんな俺、誰が認めてくれる?
      こんな俺を誰が受け止めてくれる?
      離れていかん確証なんて何処にある?
      俺を嫌いにならん確証なんて何処にもあらへんやん。
      

      こんな俺、愛される資格すらあらへん。


      「傷つくんが嫌なんは人間みんなそうやろ?!」


      「・・・そうだね」


      「傷つきたないねん・・・痛いんはもう嫌や・・っ!」


      「・・・そうだね」


      「血ぃばっか出てきてな、いつまで経っても治らへんねん・・・っ」


      「泣かないで?京・・・」


      「泣いてへんわ・・っ」


      「・・・そうだね」


      独りになりたない。
      独りは嫌やけど、誰かと一緒におるのはもっと嫌で。
      いつか傷つけるかもしらん、いつか傷つけられるかもしらん。
      一線を引いても安心出来ひんくて壁まで作った。
      嫌われるのが恐いから。


      「恐くて目を逸らしても、そこに在るのは現実じゃないんでしょ?」


      「・・・せやけどっ」


      「何処をみても・・・京が生きてる限り続くのが現実でしょ?」


      「・・・」


      「本当に、誰にも解ってもらえないと思う?」


      「・・・」


      「でも京はまだ見せてないじゃない」


      「・・・何を?」


      「ホントの自分を」


      「・・・そんなん・・・」


      「誰にも見せられないって?」


      「だってそうやんか!こんな俺・・・」


      「でも私には見せてくれたじゃない」


      「・・・っ」


      「誰も解ってくれない?ねぇ、本当にそうなの?」


      「だってアンタは・・・」


      「私だって京と同じよ?同じように生きてる」


      愛されたい。


      胸が、痛いほど熱くなる。
      しゃがみ込んで抱きしめたい衝動。
      でも壊してしまいそうで。
      そっと人差し指で輪郭をなぞった。


      愛されたい。


      違う、多分。
      愛されたい以上に、愛したい。


      誰かを愛したい。
      ずっと自分の中で燻っとった感情はこれや。
      愛す自信があらへんから愛される自信もあらへんかった。
      自分から壁作って人との関わりを最低限に遮断して。
      笑っとるふりして笑っとらん自分が可哀相なふりしとった。
      

      人の所為にするんは酷く簡単。
      信用出来へんからって自分から壁作った。
      でも信用出来へん以前に信用させるものがあらへんかったんや。
      最初から全部を否定して自分を護って、追い詰めた。
      

      ホントは最初から解っとった。
      愛するっちゅーことは全てを、弱い部分を曝け出されるっちゅーこと。
      愛されるっちゅーことは全てを曝け出すっちゅーこと。
      それを頭っから拒否しとった俺に、転機が訪れるはずがなかったんやな。


      「アンタは・・・俺が嫌にならへんの?」

     
      「嫌になる理由がないもん」


      「俺、汚いやん。自分ばっか護って・・・」


      「人間ってそんなものでしょ?京だけが特別なわけじゃない」


      「でも・・・」


      「人を傷つけることが必ずしも悪いこととは限らないじゃない」


      「・・・なして?」


      「傷つけないと、傷つかないと解らないことだってあるでしょ?」


      「・・・そーかも、しらん・・・」


      「だけど傷つくことを恐がるのは、悪いことじゃないと思う」


      「なして?」


      「・・・だって、人間らしいじゃない」


      「・・・人間、らしい?」


      「うん、私はそう思う。羨ましいって思う」


      いつも上ばっか見て歩いとった。
      下向いて歩くんは、後ろめたいことがある証拠みたいに思えたから。
      自分の間違いに気付きたくなかったから。
      上向いて歩くと、なんとなく胸張っとー気分になれた。
      

      だから出逢うはずのなかった人。
      出逢うはずのなかったもの。


      「京はまだ知らないのよ」


      「何を?」


      「愛されるべき自分を」


      「知っとーよ」


      「・・・え?」


      「さっきアンタが教えてくれたやん」


      あるはずのない出逢い。
      それは脳内で偶然的に仕組まれた必然。
      

      きっと答えはもっとずっと昔に解っとった。
      でも認められへんかった。
      アンタに逢わんかったらずっと否定しとったかもしらん。
      愛されるべき自分の姿を。


      弱くても恐がりでもそれが俺ならしゃーないねん。
      自分のことなんかよー話されへんけど、それでもそれが俺やから。
      でもな、やっぱ弱いからずっと強がってられへんねん。 
      ずっと張り詰めっぱなしやったら気が狂いそうになる。
      我が儘やし、素直にはなれへんし、えぇとこなんかないかもしらん。
      でもそれが俺やから。


      少しずつかもしらんけど、話すから。
      少しずつかもしらんけど、ちゃんと見せるから。
      せやから俺のこと嫌いにならんといて。
      俺から離れていかんといて。
      

      ずっと言いたかった。
      ずっと誰かに見せたかった、俺の本音。


      「ちゃんと聴いてくれたの、アンタやった」


      「ちゃんと話せたのが私だっただけよ」


      「それでも、聴いてくれたやん」


      「・・・お礼、なの」


      「礼?俺なんかし・・・」


      「私に気付いてくれた。私を見つけてくれたじゃない」

  
      「・・・俺、アンタに逢えて良かった」


      「・・・どーして?」


      「俺な、アンタが・・・」


      「私が・・・?」


      「・・・ゃ、何でもあらへん」


      「隠すの?」


      「解らへんの?」


      「解んないから聞いてるんでしょ?」


      「・・・そのうち話すわ」


      「そのうちっていつ?」


      「もうちょい先。もう二度と逢えへんわけとちゃうんやし・・・」


      「もう二度と逢えないかもしれないよ?」


      「・・・え・・・?」


      消え入りそうな声。
      その声に重なって聞えた聞き覚えのある声。
      

      「京くーーんっ!」


      「あんまデカイ声出すなっちゅーの!」


      「イデッ!叩くことねーじゃん!堕威くんのバカ!」


      声の方を向くと見慣れた奴等。
      買い物袋を両手に持った敏弥と堕威くん。
      その後ろから煙草吸いながら歩いてくる薫くん。
      あからさまに煙を手で払い除けてしかめっ面しとる心夜。
      

      「あんな、今日クリスマスだし心夜の家で鍋しねぇー?!」


      「ってことになってみんなで買出し来てん」


      「何が悲しゅーてクリスマスまでヤローの顔見とんのやろ・・・」


      「僕、えぇってゆうてないし・・・」


      「京くんにもずっと電話してんのに出ねぇんだもん!」


      「あ、あぁ・・・すまん・・・」


      「なになに?どーしたの?元気なくない?」


      覗きこんでくる敏弥の顔に現実を見た気がした。
      二度と逢えへん・・・意味が解った。
      逃げた先は現実やないってゆうたの、俺やったな。


      現実より現実的な非現実。
      でもそこに在ったものは確かに現実で。
      夢に出来るほど軽い存在やなかった。


      「あ、ソレってクリスマスローズじゃない?」


      「クリスマスローズ?」


      「そそ。京くんの足元のやつ、たしかそんな名前」


      「よー知っとんなぁー」


      「薫くんが知らないだけっしょ」


      「うっさい。にしても、こんな場所でよー生きれるな」


      「だねー。やっぱ人間とはわけが違うよね」


      「特に甘ったれた敏弥とはな」


      「薫くん・・・怒るよ?」


      クリスマスローズ。
      こんな強くて綺麗なもの見たことない。
      

      上ばっか向いて歩いとったはずの俺。
      その俺が見つけた小さなもの。
      運命じゃなかったらなんてゆうんやろーな。
      

      軽くなった心。
      重くなったのは自分と他人の存在感。
      求めとったんは俺を認めた俺を認めてくれる存在。
      軽い心が酷く温かい。


      「鍋やるんやろ?はよ心夜んち行こうや」


      「お、京くんもやる気やな!」


      「僕、えぇってゆってへんのに・・・」


      「まぁえぇやん。折角のクリスマスやしな」


      皆の背中を見ながら、少しだけ立ち止まる。
      此処が俺の居場所なんやって、改めて実感する。
      

      「俺、もう行かなあかんわ」


      失いたくない、大事な場所やねん。
      それに気付かせてくれたのも、アンタなんやけどな。


      「名前・・・聞くの忘れとったな」


      サングラスを取った。
      目に飛び込んでくる白い、太陽の光。
      こんな色やったんやな、って。


      「アンタの名前、俺が付けてもえぇ?」


      突然色付いた世界。
      今まで見えとったもんは何やったんやろか。
      

      「・・・えぇ名前やろ?」


      ありがとうって。
      がそう笑った気がした。
      色の付いた本物の世界の中で。
      お礼、ゆわなあかんのは俺の方なんに。
      色の付いた本物の世界の中で。


      「京くーん?おいてくよー?!」


      「うっさい、叫ぶな!今行くわ!」


      俺は足元を見て微笑んだ。
      きっと今までにないくらい、正直な顔で。
      

      もう二度と逢えへんでも、きっと忘れることない記憶。
      忘れることの出来へん言葉。
      俺を形成して構築していく存在。
      胸が、熱くなる。


      「じゃあな・・・・・・」


      恋をしました。
      その姿はまるで・・・まるで・・・

   
      「また来年会えたらいいね・・・京・・・」


      その姿はまるで、世にも美しく。
      名前も解らない、花でした。

     
      美しすぎる、花でした。































      BE HAPPY・・・?


      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

      遂に人間外のものに手を出してしまいました(笑)
      ココロを傷つけてもカラダを傷つけても護るべき存在理由はありますか?
      人を愛するって、人から愛されるって難しいですよね。

      そんなこんなですが、メリークリスマス★
      全ての人に、ご加護がありますようにvV     


      20041224  未邑拝
      









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