手をの伸ばせば導いてくれる、光。
      眩しさが愛しすぎて、目を閉じた。



















       迷い道
























      暗い部屋が好き。
      

      独りになった部屋の電気を消す。
      パタンと音を立てて俺を孤立させる寝室。
      

      ひんやりしたベッドに倒れこむ。
      光もない、音も無い部屋に独り。
      この瞬間がこれ以上にないくらい至福のとき。


      「あぁー・・・疲れた・・・」
      

      独りは安心する。
      仕事柄毎日誰かと一緒におる。
      それが初めて会う人ってことも少なないし。


      誰とおっても少なからず緊張する。
      人と喋るんは難しいと思う。
      相手の顔見て機嫌伺って、怒らせんように。
      美麗句並べて思ってもないこともゆうて。
      だんだん人と話すんが億劫になる。


      ソファに沈んで寝たフリ。
      そーすれば誰も話かけてこぉへんやん。
      自分でも巧いかわし方やと思う。
      そんなんばっか身に付いてく。


      でもこの瞬間さえも、許してもらえへん。


      もうすぐ来る。
      鍵を開ける音、静かに開く扉。
      靴を脱ぐ音さえも鮮明に聞こえる。
      

      お願いやから入ってこんで。
      これ以上近くにおりたないねん。
      俺んことなんか放っといてくれればえぇんに。
      それでも拒否出来ひんのも事実。


      「まぁーた電気消して。目ぇ悪くなんで?」


      急に点いた電気に目が痛くなる。
      明るい、どっちかとゆーとおどけたような声。
      ドアによっかって腕を組んだまんま俺を見る目。
      

      「・・・寝ようと思っとったねん・・・」


      「寝るつもりなんかあらへんくせに」


      「・・・夜更かしは肌に悪いねん」


      「まだ夜更けてへんけど?」


      「そんなんへ理屈やん」


      「嘘吐きよりはマシや」


      ここんとこ毎晩。
      

      勝手に合鍵持ってって夜中に入ってくる。
      電気を消したのも見計らったみたいなタイミングで。
      

      突っ伏しとったベッドから起き上がって堕威くんを見上げる。
      相変わらず綺麗な赤髪やなぁって。
      いつもと同じ笑顔を作った堕威くんの真意。
      どんだけ見つめてもそんなものは見えへんけど。


      「今日な、えぇもん持ってきてん!」


      な?って差し出してくる白いビニール袋。
      見慣れたコンビニの袋は多分俺の家の近くのもの。
      

      「・・・酒やったら飲めへんで」


      「わぁーとるって」


      「・・・ほんまかいな」


      無理矢理部屋に入ってきて。
      不遠慮にベッドに座って買ってきたお酒とお菓子をばら撒き出す。


      堕威くんは葡萄のチューハイ、俺にはグレープフルーツのチューハイ。
      いらんゆーとんのに強引に渡された。
      小さな音を立てて開かれたそれからは甘い匂いがして。
      横を向いたら笑顔全開の堕威くんがおって。
      何となく胸が苦しくなる。


      「はい、かんぱぁーい」


      歯ぁ磨いたんに。
      つか酒飲めへんの知っとるやろ。
      

      「なぁなぁ、知っとった?」


      「知らん」


      「まだなんもゆーてへんやん!」


      「・・・なに」


      「チョコボールってチョコが増えたらしで!」


      「・・・」


      「あ、今食べたいと思ったやろ?」


      「思ってへんわ」


      「そーだと思って買ってきたで!ピーナッツと苺とキャラメル」


      「人の話聞かんかい」


      堕威くんは買ってきたチョコボールを一箱ずつ開けだした。
      食いもせんのにこんな買ってくんなって話や。
      とか文句ゆうたろ思ったら、堕威くんがいきなりチョコの箱逆さまにして。
      バラバラとベッドの上に零れる丸いチョコ。
      

      何を思ったんか、買ってきたチョコ全部。
      俺が呆然としとる間にベッドいっぱいに撒き散らした。
      点々と咲く黒い種。
      

      「何しとんねん!」


      「なぁなぁ、どれが苺か当ててみてや」


      「チョコ臭くなるやん!」


      「あー・・・これキャラメルやーん・・・」


      「なんでシカトやねん!」


      手の上でコロコロ転がされるチョコ。
      いつの間にかベッドの上全部に広がったそれ。
      何がしたいんかさっぱり解らへん。


      明日も仕事やのに。
      昼過ぎには家出らなあかんのに。
      明日の為に考えたいこともあるし、考えなあかんこともある。
      明日の為に自分の中コントロールせなあかんし。
      せやから夜中に押しかけられて困っとるはずなんに。


      何か、妙に胸が痛い。
      嫌やったら追い帰せばえぇのに。
      独りになりたいはずなんに。
      

      「京くんはな、逃げられへんねんで」


      チョコを口に含んだ堕威くんが、ふいに言葉を零した。
      明る過ぎる部屋は何となく居辛い。
      手を動かしたら、転がったチョコボールが潰れた。
      俺の手の中で少しずつ溶けていく。


      「京くんはな、俺等の世界には必要不可欠やねん」


      「・・・何ゆーとんねん」


      「ほんまやで?アンタがおらんと何も始まらへん」


      「・・・仕事の話しやったら今せんでもえぇやろ」


      「俺ゆーたやん。京くんは逃げられへん、って」


      「・・・解っとぉわ」


      そっか、って。
      ニコっと笑った顔があまりにも眩しすぎた。
      胸が痛くなる。


      俺ん手の中でチョコが溶けてく。
      生温い中途半端な温度で。
      

      「京くんは・・・どんだけ苦しくても逃げられへんねん」


      「・・・」


      「でもな、たまには休んでもえぇやん?」


      「・・・は?」


      「こーやって苺のチョコ探してみたりしてもえぇやん」


      「・・・」


      「なぁーんも考えんと、ボーっとしたってえぇやん」


      「・・・甘やかすなや」


      俺ん中は真っ暗や。
      窓もドアも無い密室。
      どうやって入ったか解らへんから、出方も解らへん。
      気付いたら其処に入り込んどった。


      其処はえらい狭い密室で。
      何もすることがあらへんから目を閉じて考えた。
      何を考えたかよー解らんけど、ひたすら考えた。
      それは此処へ来た方法かもしらんし、抜け出す方法かもしらん。
      膝を抱えて蹲って、何かを想った。


      空気が薄い。
      空気の入る隙間もない密室に二酸化炭素だけが充満していく。
      もしかしたら息も出来へんようになるかもしらん。
      それでも俺は動けずにいた。


      「それでえぇねんて。独りでグチャグチャになる必要なんかあらへんねん」


      堕威くんが嫌いやった。
      一緒におる時間は胸が苦しくて仕方なかった。


      多分、俺には眩しすぎた。
      真っ暗なまんまでよかったんに。
      誰も助けてとかゆーてへんのに。
      堕威くんが笑うと手を伸ばしてしまう自分がおって。


      「・・・堕威、くん・・・」


      堕威くんの光は俺の闇まで飲み込んで。
      どうしようもないくらい眩しくて、眩しくて。
      目を瞑りたい衝動に駆られても目が離せへんかった。


      堕威くんは俺の光やった。
      

      窓もドアも無いはずの密室。
      そこに溢れる金色の光。


      俺はそれが欲しくて、欲しくて。
      いつの間にか手を伸ばして泣き出しとった。
      ほんまは助けてほしかった。
      独りでおりたくなんかなかった。
      助けてほしかった。


      「泣きたいときにちゃんと泣きぃな」


      「・・っく・・だ、ぃ・・・くん・・」


      「でも明日は笑わなあかんねんで?」


      「・・・っ、・・・ぅん」


      「京くんは逃げられへんのやからな」


      俺を抱きしめてくれる優しい腕。
      俺の為に作ってくれる逃げ道。
      逃げたらあかんってゆーとんの自分のくせに。
      

      堕威くんの腕にしがみついて声を上げた。
      何に対しての涙なんか、自分でもよー解らん。
      それでも何故か涙が溢れ出してくる。


      それは悲しいとか辛いとか苦しいとか。
      多分そんな感情とちゃうねん。


      安心感。


      俺を独りにさせてくれへん人がおる。
      俺を抱きしめてくれるひとがおる。
      ほらまた、胸が苦しくなる、涙が溢れる。

      
      「そない独り急いで強ならんでぇな」


      痛んだ髪を優しく梳く指。
      俺の髪が弦なら、どんな音がするんやろか。
      きっと堕威くんの指なら、至極の音を奏でてくれる。


      「もーちょい、俺だけの京くんでおってな」


      「・・・ん」


      ベッドに散らばったチョコが甘い香りを漂わせる。
      寒い冬の夜、暖房器具の無い部屋の温度。
      チョコが溶けるんは堕威くんの所為。
      独りの温度を知とる俺にとっては恥かしい二人の温度。
      ベッドが甘く香る。


      暗くない暗闇。
      手をの伸ばせば導いてくれる、光。
      眩しさが愛しすぎて、目を閉じた。
      そこは堕威くんの腕の中。
























      Lies Or Trueth・・・?


      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

      実は、敏心ネタでした、これ。
      でも堕威京の方が似合うわ!と思いソッコー書き直した作品(笑)

      少しでもお気に召しましたら、感想下さると嬉しいです☆



      20050128  未邑拝

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