もうちょいこの部屋に閉じ込めとって。
      もうちょい二人だけでおらせて。





















         Love Is Here





















      「んぁー・・・」


      うだるような暑さ。
      照りつける太陽は重く澱んだ雲の上。
      世界に蓋をした灰色。
      もうすぐ雨が降る。


      「ぁーちーぃ」


      「せやからどっか行こゆーとるやん」


      「なんで休みの日まで外出らなあかんねん」


      「あんたが暑い暑いゆーとるからやろ」


      「壊れたクーラーが悪いねん」


      「明日しか直れへんねやからしゃーないやろ?」


      「なにがクールビズじゃ!ふざけやがって!」


      「関係あらへんがな」


      俺の我が儘姫はご機嫌斜め。
      暑さには滅法弱い身体らしい。
      床に転げて涼しい場所を探しよる。


      コロコロと金糸が揺れる。
      部屋の中に太陽があったらこんな感じやろか。
      こんな気怠そうな太陽、想像したないけど。
      それが京くんなら許せる。


      痛んだ髪に指を絡めて。 
      仔猫にするように指先で首を撫でた。
      

      暑苦しいとゆわんばかりに歪めた顔。
      そしてその後に見せる少し安心したような顔。
      しゃあないから触らせたるって感じの顔。
      この人は意外に表情が豊かなんだと思う。


      「・・・なん?」


      「・・・は?」


      「じーっと見んなや」


      「そんくらいえぇやん」


      「気持ち悪いねんて」


      「けったいなこと言いなさんな」


      眉を顰めて俺を見る。
      この行為が照れ隠しなんやて気付いたのはごく最近。
      そう思えばなんでもかんでも可愛く思える。
      口が裂けても本人にはゆえんけどな。


      嫌な顔した京くんの額にキスを落とす。
      嫌だったんか照れたんか、唇を離した瞬間手でゴシゴシ。
      そないに拭かれたら傷つくんやけど。


      ちょいムカついたから額を擦る手にもキスをする。 
      少しだけ舌を出して舐めるように。


      「ちょ、やめ・・・」


      「えぇやん、チューくらい」


      「オヤジかっ!」


      「京くんはこんなオヤジが好きなんやろ?」


      「好かん!!」


      強く、射るような眼差し。
      いつからこんな顔も出来るようになったんやろ。
      俺の知らん間に一人だけ大人になりやがって。
      なんとなく悔しい。


      床に転がる京くんの上に跨る。
      両手を押さえて組み敷いた。
      抵抗するわけでもなく、でも依然強い視線。
      

      強引に口付ける。
      油断したように開きっぱなしの口。
      閉じようとした瞬間に自分の舌を滑り込ませて。
      奥に奥にと逃げる京くんのそれを追いかけた。
      

      キスのときに目を開けるのはマナー違反。
      それでも俺の舌に酔った京くんを見るのは好き。
      少し辛そうで、艶かしい気がする。


      「っ、は・・・ぁッ」


      「嘘はあかんで?」


      「う、そ・・・ちゃうわ」


      「嘘」


      「・・・なしてそんなん判るん?」


      「あんた、嫌いな奴とは付き合えへんやろ」


      「はぁ?俺かて・・・」


      「そんな器用な人間とちゃうやろ」


      そんな不器用な京くんやから好き。
      自分に素直で、それでいて意地っ張り。
      幼い容姿とは裏腹に確立された自己。
      

      時々、俺はこの人の何処におるんかと思う。
      人に依存するのを頑なに拒む京くん。
      そんな人ん中に、俺はおれるんやろか?


      いっつも不安に思っとぉわけやない。
      ただ、頭のどっかに引っ掛かりがある。
      つくづく自分が万能人間やったらなぁと思う。


      「なぁ、京くん?」


      「ぁー?」


      「・・・俺のどこが好き?」


      「・・・自分で聞いて恥ずくない?」


      「・・・ちょっと」


      明確な答えで安心したい。
      この小さな身体に自分の居場所を見つけたい。
      依存したいわけやない。
      唯、不安が不満に変わるのが恐い。


      弱いってゆわれればそれまでかもしらん。
      それを認めることが出来る幾分かの強さ。
      そして言い訳じみた感情との共存。
    

      「なぁ・・・どこ?」


      「・・・さぁ?」


      「いけずせんと教えぇや」


      「・・・アホか」


      俺に両腕を押さえられたまま顔を背ける。
      こーゆーとこが頑固すぎると思う。


      無防備な唇にキスをする。
      もう何度この唇にキスしたんやろ。
      数え切れん愛の証明。


      愛しい。
      そんな感情が溢れ出す。
      形も感触も覚えてしまった京くんの身体。
      それだけ愛を積み重ねてきた証。


      「っ・・・ぅ、んッ・・・」


      この身体ん中の一番隅っこでえぇ。
      どっかに引っ掛かる程度でえぇ。
      俺の形を残して欲しい。


      見返りを求めて付き合ったつもりやなかった。
      自分の好きって気持ちさえあればそれでえぇと思っとった。
      

      せやけどそれじゃ寂しなってきて。
      愛されとる自信がないわけやない。
      むしろ好かれとると思う。
     

      でも俺も思った以上に我が儘で。
      自分と同じ大きさの愛がほしくなる。
      でもそれ以上に愛したいと思ってしまう。
      同じ『好き』を求めてしまう。


      「ふっ・・・んんッ・・・ぁ、やぁ・・・」


      金色の髪が床の上で踊る。
      もし神様がいるならこんな色しとるのかもしらん。
      日に透けるような神々しい色。
      いつも目の前で揺れるそれに、俺は目を奪われる。


      「・・・京くん」


      手を伸ばしても届きそうにない。
      誰に向かって手を伸ばしとるんかも判らんよーになる。
      金色の後姿は誰の為のものなんやろか。


      京くんと同じ目線に立ってみたい。
      京くんの中に入ってって、同じもんを同じ目線で見る。
      何を考えて、何を感じとるのかを知る。
      そうすれば不満も不安もなくなるんとちゃうやろか。


      でもそれは無理なことやから。
      全部を重ね合わせることは絶対に無理やから。
      せやからこの小さな身体が欲しくて堪らんのかもしらん。
      えらく子供じみた考え。


      なぁ、京くん?
      こんな俺のどこ好いてくれとんの?
      

      「だあぁー!アホかアホかアホかぁ!」


      「そないアホアホゆわんでもえぇやん・・・」


      「アホにアホゆーて何が悪いんじゃ!」


      「・・・いけず」


      「何処が好きかやて?バカにしとんのか?!」


      「・・・」


      「全部や、全部!」


      「・・・全部?」


      「ぜーんーぶ!それ以外に答えがあるかい」


      全部が好き?
      プリプリ怒った京くんがそう叫んだ。


      「あんなぁ、なん考えとぉか知らんけど、嫌いな奴とは付き合えへんで?」


      「せやけど・・・」


      「好きやから付き合うとるんやんか」


      「それは解っとぉけど・・・・」


      「あんなぁー・・・此処が好きあっこが好きとか訳解らんやろ」


      「なして?」


      「俺は『堕威くん』が好きやねん」


      「・・・俺?」


      「堕威くんの一部が好きなわけやない」


      「・・・」


      「えぇとこもあかんとこも引っ括めて堕威くんやろ?」


      「・・・ん」


      「せやから俺はあんたっちゅー人間が好きやねん」


      「・・・」

   
      「わぁーった?」


      「・・・」


      「・・・何顔赤こしとんねん」


      「やって嬉し・・・っ」


      「ア、アホかっ!」


      京くんは力一杯腕を突っぱねて俺の身体を押し退ける。
      俺の下を抜け出して小走りでトイレに向かう。
      真っ赤な顔を顰めながら。


      まさかこんな答えが返ってくるとは思わんかった。
      まさかこんな気持ちが返ってくるなんて。


      京くんの気持ちと俺の気持ち。
      重なり合うことなんかないと思っとった。
      傾いた天秤。
      重いのは俺の方やと思っとった。


      なぁ、俺の思い上がりやないよな?
      ほんまに俺の全部、好いてくれとんねんな?


      全部好きとか、本の中でしか聞けへん言葉やと思っとった。
      やってな、全部好きとか有り得んやんか。
      

      いくら好きな奴でも嫌いなとこだってあるやんか。
      好きな部分と嫌いな部分って別もんやと思っとった。
      どうやったら好かれた部分を京くんの中に残せるんか。
      ずっとそれが不安やったんや。


      でもそうやないんかな?
      京くんの中に俺の形、ちゃんと残せとんのかな?


      「俺もな、京くんの全部が好きやで」


      京くんが俺ん中におるみたいに。
      嫌いな部分も好きやって言えるくらいに。
      俺が京くんを愛しとるように。


      なぁ、京くん?
      俺もあんたの全部が好きや。
      えぇとこもあかんとこも全部ぜんぶ好きや。

  
      人を好きになるってこーゆーことなんかもしらん。
      一人の人間を愛するって凄いこと。
      巧いことゆえんけど、えらい綺麗なことのように思える。


      「やっぱあんたの方が一枚上手やわ・・・」


      トイレのドアが開く小さな音がする。
      その間で揺れる太陽の色した髪の毛。


      はよ帰っといで?
      んで抱きしめさしてや。
      

      クーラーが点かんあっつい部屋。
      窓を開けると湿気だけが流れ込んでくる。
      灰色の雲が晴れることはまだなさそう。


      今はそれでもえぇ。
      もうちょいこの部屋に閉じ込めとって。
      もうちょい二人だけでおらせて。
      

      せめて、素直になれへん我が儘な姫さんが俺んとこに帰ってくるまでは。
























       Lies Or Truth・・・?


      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

      [ embryo ] の結さんに捧げます!
      私の我が儘を聞いて姫受けを書いて下さった御礼です★
      こんなんで御礼といえるのかどうかは謎なんですが・・・貰ってやって下さい(>_<)
      これからもよろしくお願いします(*´∀`*)


      20050705   未邑拝






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