クロカンブッシュってね?
     小さなシューをひとつづつ、積み上げて完成させるお菓子なの。
     幸せが天にまで届きますようにって、願いを込めながらね。



















     クロカンブッシュ



















     「ー。」

     「あ、京君。」



     勝手知ったる何とやらで。
     ズカズカと部屋に入ってきた京君は、キッチンに居る私を見てちょっと嫌そうな顔をした。
     嫌そうって言うよりは、呆れてる?(笑)



     「……また、お菓子作っとんの?」

     「うん。」

     「ホンマに好きやなー?お菓子、作んの。」

     「好きだよー?」



     やっぱり呆れてる京君の言葉にニッコリ笑顔で答えて、
     私は動かしていた手を止めて彼を振り返る。



     だって、お菓子作り楽しいんだもん。
     色々と細かいけど、でも作り上げた時の達成感っていうの?
     何か、やり遂げたって感じがまた好きなんだよねー
     ソレに……作っている間は、京君が居ない寂しさも紛らわせるしね。
     何て、ソレは秘密なんだけど(笑)


     とにかくお菓子作りは、私の趣味なんですっ!



     「今日は、何作っとんの?」

     「今日はねー?クロカンブッシュだよ★」

     「クロカン…?なんや、ソレ。」

     「ちっさいシューをね?こうお山みたいに積んで、
      上からシロップを掛けて固めたお菓子なんだけど……見たコトない?」

     「ない。」

     「そっか(笑)よく結婚式とかに使われるんだよ?」

     「ふーん。」



     私の説明に、余り興味無さげな京君。
     ま、男の人だから無理ないか(苦笑)
     それよりもお菓子、作んないとね★
     折角混ぜた生地が乾いちゃうよっ!



     ボゥッと辺りを見ている京君をほっといて、
     私は先程混ぜた生地を絞り袋の中に詰め始めと、
     そのまま用意していた鉄板の上に一つづつ、搾り出す。
     なるべく形が均等になるように、神経を集中させながら。



     コレが難しいんだよねー(汗)
     だって一つでも形の大きさが違うと、積み上げる時大変なんだもん。
     シュー作る時って、ホント神経使っちゃう(汗)



     「………」



     一応の目安として、三十個ぐらい作んなきゃ駄目だから、
     そうすると鉄板一枚じゃ足りないよなー?
     んー、二回焼かないと駄目だな?
     面倒臭いけど、折角だもんねー
     どうせなら、可愛く仕上げたいもんねっvv



     「………」



     あ、カスタードクリーム作んないとっ!
     でもソレだけじゃクリームつまんないから、
     他の味のクリームも作ろうかな?
     チョコレートもあるし、抹茶もあるしっvv
     今日は三種類のクリームで作っちゃお★





     「わっ!」

     「きゃあっ…!」





     ウキウキとシューの中に入れるクリームのコトを考えながら、
     鉄板の上に一つづつ丁寧に生地を落としていたら、不意に横から大声と共にトンッと軽く押される。
     その衝撃で鉄板に落ちようとしていた生地は、見事なまでに横に流れてしまって。
     私は慌ててその流れた生地が、他の生地につかないように取り除きながら
     横でニヤニヤ笑ってる京君をキッと睨みつける。



     「何すんのよっ!」

     「別にー」

     「もぉっ!邪魔しないでっ!」

     「してへんもーん。」

     「………っ…」



     私の怒鳴り声に、のほほんと答えた京君。
     その悪びれた感じが全くしないその態度に、私はムッと顔を顰める。



     「もぉーっ、一番神経使ってるんだから、邪魔しないでよねっ!」



     そう言って、私はまだニヤニヤ笑ってる京君に背を向けると
     また鉄板の上に生地を一つづつ落としてゆく。
     ゆっくり、丁寧に。
     乱れた神経を再び集中させながら。


     けれど。





     ――トンッ。

     「……っ…」

     ――トンッ。

     「……っ…」





     私が再び生地を落とし始めると、決まって私の腕を押す京君の手。
     もぉぉ――っ、一体何だって言うのよぉぉ――っ(泣)
     何で、今日に限って邪魔すんのよぉ――っ(怒)



     「京君っ!!」

     「なんや?」



     我慢も限界とばかりに、思わず京君の名前を叫ぶと
     相変わらず悪びれしない、のほほんとした返事。
     ソレにカッとして、私は絞り袋片手にキッと振り返ると
     ニヤニヤと笑ってる京君の顔を睨みつける。



     ホントにっ、今日は何だって邪魔すんのよっ!!
     何時もなら私がお菓子作ってると、決まってリビングに行くじゃないっ!!
     つまらん言って、サッサとソファにゴロンって横になって、寝てるくせにっ!!
     何で今日に限って、集中したいのに邪魔してくんのよっ!!



     「別にー?俺はただ、の腕押しとるだけやん。」

     「ソレが邪魔してるのっ!」

     「邪魔やないって。俺はただ、押しとるだけや。」

     「………」



     ここまで立派な屁理屈が言えるのは、きっと京君だけだね(爆)
     何で、怒ってる私を前にして笑ってるかなー?この人(怒)
     フフンッて鼻で笑ってるでしょ?
     ホントに、ムカつくなーっ(怒)


     でもふと、そこまで考えて。
     何気に私の頭は、ありえない事を思いつく。


     もしかして京君、コレやりたいのかなー?



     何時も私がお菓子作りをしていると
     決まって、ソファで横になり寝ている京君。
     それなのに今日に限って、私の傍で私を見ながら、私の邪魔をするっていう事は、
     つまり、このお菓子に興味あるってコトじゃないの?



     て、ココまで考えた私は、
     ありえないでしょと心の中で自分に突っ込みを入れながらも
     もしかしてなんて、甘い考えを持ちながら、それとなく京君に声を掛ける。



     「ね、京君。」

     「なんや?」

     「コレ、やってみる?」

     「は?」

     「コレ、やってみない?」

     「何で、俺がっ…」



     絞り袋をそっと京君の前に差し出しながら、私がそう言うと
     一瞬だけ瞳を輝かせた京君。
     けれどすぐに怪訝な表情になって、嫌そうに私を見つめる。


     何だ、やっぱり興味あったんじゃん。
     今更、そんな嫌そうな顔をしても遅いよ(笑)
     今、一瞬だけ私の手の絞り袋を見る瞳が輝いたの、私は見逃さなかったんだから。
     そっか、京君コレに興味があったんだね(笑)
     素直に『したい』って言えばいいのにー
     ホント、天邪鬼なんだから★
     ソコが可愛いんだけど(禁句)



     「だって京君、私がしてると邪魔してくるんだもん。だったら京君がコレ、やってよ?」

     「せやからっ、何で俺がっ…」

     「良いじゃん。コレ、楽しいよ?ね?お願いっvv」



     そんな思いで思わず口許を綻ばせながらも
     ワザとらしく上目遣いで彼を見つめて、私はもう一度お願いしてみる。
     ふふっ…京君、瞳が輝きだしてるし(笑)
     やっぱりやりたかったんだね?



     「………まぁ…どうしてもっちゅーなら、やってやらんコトもないけど…」

     「ホントっ?!」

     「でも、どうなっても俺は責任持てへんでっ!!お前が勝手にやらすんやからなっ!」

     「うんっ!ありがとーっvv」



     ぶっきらぼうに言ってても、ちゃっかり手には絞り袋。
     私から強引にソレを奪い取った京君は、ホントは嬉しいくせにソレを隠そうと必死で顔を作ってる。
     嫌々やるんやからな、と言わんばかりの顔。
     私はその顔と態度に苦笑を隠しきれなくて、思わず小さく笑う。


     ホントに天邪鬼なんだから(笑)
     でも嬉しそうなの、隠しきれてないよ?京君。
     だって瞳、キラキラしちゃってるし(笑)
     第一、ホントに興味なかったら、私が幾らお願いしても聞いてくれないしね?
     私を放って、とっとと寝ちゃうもんね(爆)



     何て、ちょっと思い出した日常に黄昏ながらも
     私は目の前で鉄板に生地を落とし始めた京君を見つめる。
     何時になく真剣な表情で、息を潜めながら丁寧に生地を搾り出してゆく彼。
     その余りに真面目な表情に、私は何だかおかしくなって思わず笑ってしまう。


     こんな真面目な顔した京君って、初めてだよぉー(笑)
     息止めてるしっ!何か手、プルプルしてるしっ!!
     すっごい真剣な顔して、シュー生地落としているよ――っ!!
     いやーっ、何かすっごい可愛い――っvvv



     何て、本人が聞いたらきっと怒り心頭のコトを心の中で叫びながら
     私は込み上げる笑いを必死になって堪え、京君を見つめる。
     もぉぉ――っ、マジで可愛いっちゅーのっvv



     「おい。」

     「え?」

     「何、見てんねんっ!」

     「えっ…あっ…」

     「そないに見られたら、気が散るねんっ!!コッチ見んなやっ!」

     「………ごめん(汗)」



     キッと鋭い眼差しで私を睨みつけながら、京君が叫ぶ。
     でも手には絞り袋(笑)
     その余りに滑稽な姿に私はまた笑いが込み上げてくる。
     けれどココでまた私が笑うと、天邪鬼な彼は絶対怒り出すから
     私は必死になって噴き出すのを堪えると、また真剣な顔してやり始めた京君から視線を反らす。


     折角手伝ってくれてるのに、止められたら元もこうも無いもんねー★
     んじゃ、京君にソレやって貰ってる間、私はカスタードクリームでも作ろうかな?



     でも気になって、もう一度チラッと京君を見た私。
     相変わらずホントに真剣な表情で、一生懸命生地を搾り出していて。
     何だかそのコトが妙に嬉しくて、私はクスッと口許を綻ばすと
     再び京君が怒り出す前に、カスタードクリームを作り始めた。




        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




     「なぁ?コレ、終わったんやけど、あとどうすればええのん?」

     「あ、終わったー?」



     鉄板の上に綺麗に並んだ生地。
     想像よりも綺麗な出来栄えに、意外にも几帳面だった新たな彼の一面を知って
     私は思わず凄いなんて思いながらも、次の指示を待ってる京君から鉄板を受け取る。


     でもホント、すっごい綺麗に並んでるよっ!
     京君って、手先器用なんだねっ!!



     「当たり前や。」



     私の褒め言葉に、フフンッと鼻で笑った京君。
     その当然だと言わんばかりの笑顔は、子供が威張ってるようにも見えて。
     やっぱり可愛いなと思わずにはいられない。



     「んじゃ、コレはオーブンに入れて……」

     「焼くん?」

     「そう(笑)焼かないとシューにならないから。」

     「ふーん。」



     ピッピッと時間をセットして、もう一度オーブンの中を確認するように覗いて、
     私はよしっ!と大きく頷くと、その場から離れる。
     すると私が離れたその場所に、フラリと立つ京君。
     興味津々とばかりに、段々赤くなってゆくオーブンの中を覗き込んでいる。
     そんなに珍しいのかなー?
     あ、自分が搾ったヤツだから、気になるのかなー?



     覗き込むその横顔は、ホントに子供のように楽しげで
     まるで『どうなるんだろう』っていう期待感が、コッチにまで伝わってくる。


     何にしても、ホント子供みたいっvv
     メチャクチャ可愛い――っvv
     もぉぉ――っ、今日はホント駄目だ私(笑)
     京君が可愛くてしょうがないっvv



     何て馬鹿なコトを心の中で叫びながら、
     自分の余りの馬鹿さ加減に思わず苦笑を零す、私。
     それでもそんな横顔一つで、愛しさを溢れさせる自分がココに居て。
     改めて、やっぱり彼が大好きなんだと思い知らされる。


     天邪鬼で手先が器用で、でも子供みたいな人。
     私の、大好きな人。


     何、惚気てるんでしょうねー私ったら(笑)



     自分で心の中の惚気に突っ込みを入れながら、
     私は止めていた手を再び動かしながら、相変わらずオーブンの中を覗いている京君を見つめる。
     やがて漂ってきた、シューの焼ける香ばしい匂い。
     ソレは自分が今作っている、カスタードクリームの匂いと綺麗な程に交じり合って。
     甘い甘い匂いと雰囲気を、私に味合わせてくれた。





         ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





     一回の焼きでは数が足りないので、もう一度同じ作業を京君にして貰って
     本日二度目の焼きをしていた頃。
     ふと京君が、私の傍にフラッと近づいてきて、私の手元を覗き込む。



     「何しとんの?」

     「ん?シューの中に詰めるクリーム作ってんの。」

     「ふーん。」


     先程作り上げたカスタードを、手早く三つのボールに分けて
     私はその一つに溶かしたチョコレートを、少しづつ流し込んでゆく。
     やっぱり悩んだ末に、今日のシューはチョコとカスタードと抹茶でいく事にして。
     先ずはチョコを混ぜて、チョコクリームを作り終えた私は、
     次に抹茶クリームを作るため、用意しておいた抹茶の缶を手に取る。


     あんまり入れると苦いから、コレぐらいかなー?



     カスタードの上に適当に抹茶を振り掛けて、手早く優しく混ぜる私。
     段々と薄緑色に色づいてゆくクリームから漂う、ほろ苦さ。
     その抹茶独特の匂いに交じるカスタードの甘さが、私の鼻腔を擽る。



     指先でクリームを掬って、ペロッと一口味見して
     調度良い感じの甘さに仕上がったコトを確認した私は、満足気にニッコリと笑う。
     うん、良い感じ★



     すると、私のその動作をジィーッと見つめている、京。
     もしかして味見したいのかな?



     「味見、してみる?」

     「ん。」

     「じゃあ、ハイ。」



     お行儀悪いけど、自分の指先でクリームを掬って
     京の前に差し出す、私。
     よくよく考えてみたら、メッチャ恥ずかしいコトしてる事に気づいたのは
     私の差し出したクリーム付きの指を見て、驚いたように瞳を見開いた京君の顔を見た時。


     うわっ…私ったら、何てコトをっ……(///)


     でも今更差し出した指を引っ込めるコトは出来なくて。
     仕方なくちょっと視線を反らしながら、黙ってコトの成り行きを見守る。
     すると、フワッと空気が動いたなと感じた瞬間。
     私の指は、温かな粘膜に包まれて。
     その感触にビクンッと身体を揺らしながら、私は慌てて視線を目の前に向ける。


     私の視線の先には、私の指を唇に含んだ京君が居た。



     見えなくても、指先に伝わる感触で
     京君の舌先が私の指に付いたクリームを嘗めとっているのが分かる。
     その殊更ゆっくりな動きは、何時かの秘め事を思い出させて。
     途端にドキドキと心臓を昂ぶらせる。


     てかっ、京君絶対ワザとやってるでしょっ!!(///)
     普通はこんな風にいやらしく嘗めないしっ!!
     もぉ――っ、信じらんない――っ(///)



     昂ぶる心臓に合わせて、どんどん熱くなってゆく頬をそのままに
     私は外せない視線で京君をジッと見つめながら、嘗められる自分の指を引き抜こうともがく。
     けれども私の手首を掴む、京君の指先は思いのほか強くて。
     引き抜こうともがいた瞬間、掴む指に力を入れられて。
     手首に伝わった小さな痛みと力の強さに、私はますます頬を真っ赤に染め上げる。



     ほんの数秒が、まるで永遠にも思える程に長くて
     漂う香ばしさと甘さが、私の思考をゆっくりと蕩けさせてゆく。



     「……んっ…ちょお、甘ない?」

     「えっ…?!そっ…そぉっ…?!」



     やがてチュッと小さな音を立てて、京君の唇から出された私の指。
     執拗に嘗められた後がアリアリと分かる程に、濡れて光る自分の指先が恥ずかしくて
     ソコから視線を反らすように私は顔を俯かせる。



     ちょっとだけ、空気に触れて冷たさを感じた人差し指の先。
     けれどもそれ以上に、ジンジンと熱く染まってゆく指先。



     「抹茶、足りへんのやない?」

     「そっ…そんなコトないよっ…」

     「いや、甘すぎやってっ!もっと抹茶、入れときっ!」

     「でもこれ以上入れたら、苦くなっちゃうよ?」

     「ええねんっ!抹茶はもっと苦ないとアカンっ!」

     「あっ!ちょっ…京君っっ!!」



     さっきまでのちょっと妖しい雰囲気も束の間。
     私の指に付いたクリームを嘗め終えた京君はそう言うと、
     傍にあった抹茶の缶を手に取って、そのまま勢いよく粉をクリームの中に入れる。



     スプーンで分けもせずに、そのまま入れたモンだから、
     クリームの中には、小さな緑の粉の山が出来てしまって。
     余りの事に唖然として固まってしまった、私。
     けれどそんな私を気にするコトなく、メッチャ楽しそうに京君はクリームを混ぜ始めて。


     てかっ、そんなに抹茶入れたら苦いじゃんっ!!
     もぉ――っ、何考えてんのよぉ――っ(汗)
     あーあ、何て素敵な緑のクリーム。
     さっきまで漂っていた甘さが、全然感じられないよぉ――っ(泣)



     「これぐらいの苦さでええねん。」

     「いや、苦すぎだよっ!」

     「ええのっ!他が甘いから、調度ええねんっ!」



     満足気にニヤッと笑って、クリームをゴムベラで混ぜる京君。
     私はもう、文句を言う前に呆れてしまって。
     疲れたように大きな溜息をハァッて吐き出しながら、ガックシと肩を落とす。


     何て、我侭な彼氏でしょうか(泣)



     でも、それでも。
     楽しそうに悪戯っぽく笑う彼が、可愛くて
     呆れてたのに、心を甘く擽られる。


     こんな表情はきっと、私の前でだけしか見せてくれないから。
     私だからきっと、こんな風に我侭を言うんだから。


     愛されてる自信を植え付けてくれるような、数々の態度と仕草に
     私は喜びを隠せないまま、口許を綻ばせる。
     嬉しさと幸せに満ち足りた、柔らかな笑みを零してしまう。


     ホントにもぉっ…この我侭彼氏めっ★



     「焼けたでー?」



     チン★という軽やかな音と共に、焼き上がった本日二度目のシュー。
     ソレを取り出して、粗熱を取るために網の上に並べながら
     傍に居た京君に、先に焼いて熱を取っていたシューを持ってきて貰う。
     焼き上がったばかりのシューが冷めるまでの間、
     最初のシューの中に、クリームを詰め始める私と京君。



     「どないするん?」

     「シューの下の方にね?この先っぽ刺して、クリームを入れるの。」

     「ココ?」

     「うん。あんまり沢山入れないでね?破裂しちゃうから。」

     「わぁーとるっ!」



     私の言葉にちょっとムキになって言い返しながら、絞り袋を手にした京君。
     そんなん言われんでも知っとるわと言わんばかりの口調だけど、その手はちょっと震えていて(笑)
     明らかに緊張しているのが、ヒシヒシと纏う空気とぎこちない動きで伝わってくる。


     ホントに天邪鬼なんだから(笑)
     ソコが可愛いんだけどっvv



     思わず綻ぶ口許を咄嗟に手で覆って隠して。
     私はチラリと京君を盗み見る。
     笑ってたりしてたら途端に機嫌が悪くなるからね、この人。
     細心の注意が必要です(笑)



     京君は、さっきシュー生地を搾り出していた時以上に真剣な顔をして、
     シューの中にクリームを詰めている。
     一つ一つ、丁寧に。
     まるで愛情を込めているように、本当に丁寧に優しく。
     少しだけ、その口許を綻ばせながら。



     その姿にキュンッと胸を高鳴らせて
     私も同じように小さなシューを一つ取って、クリームを入れながら
     何となしに今回作ったクロカンブッシュの由来を話し始める。



     ねぇ?
     このお菓子ってね、フランスのお菓子なんだけど
     よくソッチでは、結婚式とかお祝いの席とかに使われてるんだって。


     「ふーん。」


     でね?このシュー一つ一つ、これから積み上げていくんだけど
     ソレにも意味があるんだよ。


     「ふーん。」


     願いを込めてね、一つ一つ積み上げてゆくの。
     天にまで届くような幸せが、降り注ぎますようにって。
     そんな願いを込めて、このお菓子は作られるんだよ?


     「へー。」



     私の話を聞いているんだか聞いていないんだか。
     生返事を返す京君は、さっきからクリームを入れるのに夢中。
     もぉっ、人が折角説明してるのにっ!!
     て、京君にはあんまり関係ないか(笑)
     お菓子の由来なんて、どうでも良いしね(笑)
     美味しく食べれれば、それで良いもんね★



     でも
     ふと、思う。
     何時か今回作ったクロカンブッシュより、もっと大きなヤツで
     この隣で真剣になってクリームを入れてる人と結婚式が出来たらなって。
     もしかしたら、叶わない願いかもしれないけれど。
     やっぱり夢見てしまうのは、この人が大好きだから。
     何時か、本当に何時か、この夢が叶えばいいと思わずにはいられない。


     その時も、こんな風に二人で積み上げれたら良いな★



     自分で妄想して、思わず照れてしまった馬鹿な自分。
     私が乙女なコトを考えているなんて、ちっとも気づかない京君は
     ちまちまとシューにクリームを入れてる。
     酷く真面目な顔をして。
     その横顔にまた胸を小さく鳴らして、思わず零れた笑みに唇を綻ばすと
     私は止めていた手を再び動かしながら、浮かんだ妄想を暫し楽しんだ。





       ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





     「……よしっ!出来たでっ!」

     「じゃあ、後はこのチョコを掛けて完成★」



     焼いたシュー全部に、色んなクリームを入れて。
     出来上がったシュークリームを、一つづつ積み上げてくれた京君。
     綺麗に出来上がったシュークリームの塔の上から、
     ゆっくりと溶かしたチョコレートを垂らしてゆく私。
     折角京君が一生懸命、綺麗に積んでくれたんだもんね。
     崩さないように慎重に、慎重に(汗)



     ゆっくりゆっくりと流れてゆく、褐色の液体。
     小さなシューに纏わりつきながら、空気に触れて固まってゆく。



     「出来たーっvv」



     やがてチョコが冷えて固まって、本日のお菓子『クロカンブッシュ』の完成★
     ちょっと歪な形の塔になってしまったけど、なかなかの出来に嬉しさが込み上げてくる。
     凄いじゃんっ!私っ!
     てかっ、今回は京君にも手伝って貰ったんだけど(笑)



     「ねっ!ねっ!綺麗に出来たねっvv」

     「せやな。」

     「やーんっvvすっごい綺麗ーっvvあっ!そうだっ!!写真、撮っておこっ!!」

     「はぁ?そこまでするん?」

     「だって、こんなに綺麗に出来たんだよ?写真、撮っとかないとっ!!」



     そう言って、リビングに放りっぱなしの携帯を慌てて取りに行く私。
     そんな私を京君がちょっと呆れ顔で見ている。
     だってー、こんなに綺麗に美味しく出来たんだよ?
     それも京君と一緒に作ったんだよっ?!
     写真に撮って、みんなに自慢したいじゃない?



     「……別に、そんなん自慢せんでもええやん。」

     「いいのっ!!」

     「……アホか。」

     「アホじゃないもんっ!ホラ、京君っ!ソコ、邪魔っ!!」

     「邪魔って…(怒)」



     私の言葉にムッと顔を顰めた京君。
     けれども私の剣幕に押されたのか、拗ねたように唇を窄めながらも
     大人しくソコから退いてくれる。
     私は自分の携帯構えて、出来たばかりのクロカンブッシュをパチリ★
     うんっ!綺麗に撮れたっvv



     小さな画面の中に映った、天にまで届くようにと願いを込めて積み上げられた塔。
     私と京君で積み上げられた、幸せの象徴であるシューの塔が
     まるで二人の想いで輝いているように、綺麗に可愛く映っている。


     えへへっvvみんなに自慢しちゃおうっと★



     片っ端からメールにその写真を添付して、自分達の幸せを自慢しようとする私。
     んー馬鹿っぷるだなー。
     て、ソレは私だけか(笑)



     「なぁ?」

     「なぁに?」

     「もう、食べてええ?」

     「え…?」

     「コレ、食べてええ?」

     「あっ…うん。いいよっ!」



     いっけないっ!
     メールに夢中で、京君忘れてた(爆)



     何時もの間の抜けた京君の声に、慌てて我に返って
     私は食べても良いかと訊ねてきた京君に、焦りながら返事を返す。
     良かった、あんまり怒ってないみたい(汗)
     放っておいて拗ねると、後が怖いからなー



     「……どう?」

     「ん?」

     「美味しい?」



     塔の一番上にあるシューを摘んで、ポイッと唇の中に放り込んだ京君。
     モグモグと動く口許をジッと見つめながら、思わず心配気に聞いてしまう私。
     自分としては、美味く出来たつもりなんだけどなー?
     でも京君、意外と味にうるさいし(爆)
     コレで不味いなんて言われたら、凹んじゃうよ私(泣)



     「まぁまぁ、やない?」

     「ホント?」

     「ん。」

     「良かったーっ!」



     京君が不味いって言わないってコトは、上出来だってコト(笑)
     あんまり褒めたりする人じゃないから、こーゆう時は絶対に美味しいって思ってる筈。
     そのかわり、不味い時はボロクソに言う人だもんね(泣)
     その性格のせいで、何度泣かされたコトか(爆)



     「美味し?」

     「せやから、まぁまぁやって言ってるやろっ!」


     照れちゃって、もぉーっvv



     ニンマリと笑顔で聞いた私に、照れたのかフイッと顔を背けた京君。
     ワザとらしく声を荒げても、私には分かる。
     きっと今、京君は喜んでいるって。
     思いの外楽しかったお菓子作りと、食べるお菓子の甘さを
     絶対に気に入った筈だって。
     その背けた横顔の髪の毛に隠れた耳の紅さが、私に教えてくれる。



     ねぇ…?今、京君は幸せ?
     私はすっごい幸せだよ?



     溢れる愛しさと込み上げる幸せに、私の唇は綻ぶコトを止められなくて。
     黙々とシューを食べている京君の横顔を、黙って見つめ続ける。



     たまにはこんな風に、二人でお菓子を作るのもいいかもしんないね。



     「……っ…見とらんとっ、お前も食べやっ!」

     「ちょっ…京君っ…んぐっ!」



     あんまりにも私が見つめるから。
     照れた京君が怒ったように呟いて、私の唇に摘んだシューをギュッと押し付ける。


     唇に触れたのは、ちょっとパサついた感触で。


     まるで私の言葉を封じ込めるようにシューを押し付けた京君は、
     そのままジッと私の顔を見つめると、そっと口許を綻ばせながら瞳を細める。





     「……何時かな?」

     「……?」

     「何時か…もっとおっきいヤツ、用意したるからな?」

     「………?」

     「そしたらソレで結婚式、しよな?」

     「……っ?!」

     「約束やで?」

     「……っ…きょっ…!!」





     さり気ない、言葉。
     ホントにサラリと呟かれたその言葉は、
     ともすれば聞き漏らしてしまいそうな程に、小さな呟きで。
     私は余りに突然に呟かれたその言葉達に、思わず押し付けられていたシューを口に含みながら
     これ以上無いっていうくらい瞳を見開いて、京君を見つめる。



     今のっ…今のってっ……京君っ!!



     「……そう、遠くない未来やと思うで?」



     驚きに瞳を見開きながらも、でも口に入れたシューをモグモグ食べてる私(爆)
     今いちシリアスになりきれていない私に、それでも京君はニヤリと笑って
     そっと私の唇についた、クリームを指先で拭う。



     細くて綺麗で、でも男らしい京君の指先が、
     私の唇の端に付いた甘い褐色のクリームを拭って、そのまま自分の唇へと持ってゆく。



     その小さな仕草が、心臓をギュウって強く掴んで甘い痛みを起こす。



     「甘っ…」

     「……っ…京君っ!!」



     私の唇に付いたクリームの甘さに、ちょっとだけ顔を顰めた京君。
     ペロッと子供みたいに舌先を出した、そんな表情でさえも、
     今の私の甘い痛みを止める事は出来なくて。


     ただ、嬉しさに心を震わせて。
     我慢出来ないとばかりに勢いよく、京君に抱きつく私。


     飛び込んだ胸は、何時だって逞しくて温かくて。
     ソコでしかきっともう感じられない、幸せと安らぎに思わず涙を誘われながら
     私は彼の背中に回した両腕にギュッと力を込める。
     私を何時だって幸せへと導いてくれる、広くない背中に縋りつく。





     嘘みたいな出来事。
     夢見たいな出来事。
     クロカンブッシュに捧げた願いが、今
     さり気なく呟かれた言葉達で叶えられようとしている。





     嬉しくて。
     本当に嬉しくて。
     溢れてくる愛しさに負けない程に、溢れてくる涙を止められないまま
     私は子供みたいに声を上げながら、泣き続ける。



     ねぇ?夢じゃないよね?
     私、夢見てないよね?



     「……夢やないで?」

     「…っ…京君っ…」

     「夢やないやろ?」



     サラッと私の髪を梳きながら
     私の涙で濡れた瞳を覗き込んで、悪戯っぽく笑った京君が
     また一つシューを取って、私の唇に押し付ける。



     カサついた感触は、さっきと何も変わらなくて。
     私は躊躇いもなく唇を開いて、ソレを咥えると
     嬉しさを隠し切れないように瞳を細めながら、モグモグと口を動かして
     甘い甘いチョコクリームの入ったシューを飲み込む。
     仄かに広がる蕩けそうな程の甘さに酔いながら。



     「……美味しっ…」

     「せやろ?」

     「うんっ…最高っ★」



     私にシューを食べさせて。
     ニヤリと悪戯っぽく笑った京君。
     その子供みたいな笑顔の中に、確かに見えた男の顔に
     私はトクンッと胸を切なく鳴らしながら、ギュッとその背中に縋りつく。
     逞しくて温かい、その胸に頬を摺り寄せる。



     そんな私をしっかりと抱き締めながら、京君も又シューを一つ取って口の中に放り込む。



     「…んっ…にがっ…」

     「京君?」

     「……ちょお、苦ったみたいやわ。」

     「抹茶?」

     「ん。失敗やった。」

     「だから言ったのにー(笑)」



     どうやら抹茶のシューは失敗だったようで(笑)
     ウエッと舌を出して顔を顰めた京君に、私は思わず小さな笑い声を立てると
     そっと顔を上げて、しかめっ面している京君の唇に自分の唇を重ねる。
     私の口腔に残った甘さを、そっと分けてあげる。



     「……んっ…」

     「…ふぁ…っ…んっ……」



     重ねて、薄く開いて。
     伸ばした舌先で、絡めあって、嘗めあって。
     濃厚な甘さを分け合った、私と京君。


     京君の口の中が、十分に甘さで癒されても
     それでも重ねた唇は離れる事を嫌がって。
     互いに互いの身体を強く抱き締めあいながら
     甘く濃厚なキスを何時までも続ける。












     クロカンブッシュってね?
     小さなシューをひとつづつ、積み上げて完成させるお菓子なの。
     幸せが天にまで届きますようにって、願いを込めながらね。





     でもホントは、天にまで届く程の幸せが、
     何時までも二人の頭上に降り注ぐコトを、願うためのお菓子なのかもしれないね。
     互いに互いの手を強く握り合って
     一緒に歩いてゆく道程の中で降り注ぐコトを
     願うための、儀式のようなお菓子。
     きっと、そうだと思うよ?












     一つ、また一つと。
     互いに小さなシューを食べさせあいながら
     溢れる幸せと愛しさに包まれて、甘く甘く過ごす私達。



     瞳は、互いしか見えなくて。
     鼓膜は、互いの声しか聞こえなくて。
     指先は、互いしか触れたくなくて。










     そんな私達が、写真を見たメンバー達から送られたメールに気づくのは
     もっともっと先のコト。










     『京君だけズルイー(>◇<)』←敏弥

     『俺らにもおすそ分けしてやーっ!!』←堕威

     『メッチャ美味そうやなー?今度、持ってきてや?』←薫

     『………みゆゆが食べたいって、言うてた。』←心夜



     「誰がお前らなんぞに、食べさせるかいっ!」


     ………京君、大人げないよ(笑)




     でも今回のは、殆ど京君と私で食べちゃったから(爆)
     差し入れは又、今度ね★
     さて次は、どんなお菓子作ろっかなー?
















     ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

     久しぶりの京夢でした(笑)
     この話はね?私の大好きな大好きなダーリンに捧げる夢ですっvv
     この間、誕生日を迎えたそのお祝いと、元気を与えて貰ったお礼に。
     誕生日おめでとうっ!!ダーリンっvv
     何時もハニーを元気づけてくれてありがとうっ!!
     拙い話だけど、ダーリンが幸せになりますようにって、心を込めて書きましたから・・・
     どうか貰ってやって下さいっvv
     ・・・・・もち、返品も可ですけど(泣)

     てかっ、よくよく読んでみたら・・・名前変換殆ど無いしっ(爆)
     全然誕生日と関係無いしっ(死)
     写真も、クロカンブッシュが無かったから、只のシュークリームの写真だしっ(最悪)
     いやーんっ、ごめんねぇ――っ(泣)

     でもっ!
     誕生日、おめでとうっvv
     たくさんの幸せが貴女の頭上に降り注ぎますように。



     ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

     ぅわー!!素敵なお話ありがとう御座います!!
     こうやってイタズラしちゃう京くんがリアルに想像できちゃいました!
     しかもさ、しかもさ!最後はプロポーズまで・・・!!
     嬉しさのあまり何故か正座しちゃいましたよ!(笑)
     こうやって極上の甘さを残してくれるところが大好きです!
     
     そして、いつもメールに電話、ほんとにありがとうv
     元気付けてるってより、私が元気貰ってるんですよ?
     依存してるんじゃない、ちょうど良い関係かな?なんてね(笑)     
     誕生日祝ってくれてほんとうにありがとう御座いますv
     これからもよろしくお願いします!!

     20050612  未邑拝




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送