俺の全てがであるのなら、恋の中にいるのは
      恋に恋してるのはきっと俺の方。
























      して







   













      桃色の花を優雅に散らせて真っ赤な実を付ける。
      何ら変哲もない循環。
      でも俺にはそれがたまらなく不思議に思えた。


      例えばどーして花が咲くのか。
      折角咲いたのにどーして散るのか。
      そのあとどーして実が成るのか。


      植物学的な理由はいらない。
      そんな答えで納得できる答えじゃなくて。


      もっと何か。


      「寝んの?」


      「んー・・・眠くないよー・・・」


      「目ぇ半分閉じてるって」


      少し蒸し暑い日。
      初夏に向けて上がりはじめた温度にかかる湿気。
      それは分厚い雲に蓋をされて地上に沈殿する。


      床に寝転がった
      黒の低反発クッションを抱いて目を瞑ってる。
      流れる音楽は妙に静かで、の息をする音まで聞こえそう。


      「あ、さくらんぼ・・・」


      「え?」


      「洗ったまんまだった」


      目を瞑ったまんまのの声で台所を思い出す。
      今日友達から貰ったばっかのさくらんぼ。
      後で食べようって洗ったまんま忘れてた。


      ギッとソファーの革のしきむ音を立てて台所に向かう。
      リビングから続くドアを開けるとむっとする湿度。
      それが流れ込んでくる前に素早くさくらんぼを取ってドアを閉めた。


      「食べる?」


      「んー・・・」


      歯切れの悪い返事。
      かなり眠いんだと思う。


      「・・・口、開けて?」

   
      「ぅ、ん・・・」


      口の中で転がしたさくらんぼを口移しでの口の中に入れる。
      離れるとき唇を舐めたらさくらんぼみたいな味がした。


      食べることは生きること。
      まるで俺がを生かしてるみたい。
      ある種の人工呼吸に似てる。
      生命を吹き込む、瞬間。


      「おいしー?」


      「甘い」


      「種は飲み込んじゃ駄目だよ?」


      「お腹の中で芽が出るかなぁ?」


      「その薄っぺらな腹じゃ無理だろ」


      「敏弥のお腹だったら育つ?」


      「んーどーだろ・・・無理かな」


      「どーして?」


      「・・・内緒」


      寝転がったの横に座り直す。
      思ったより床は冷たい。


      ボールに入ったさくらんぼ。
      真っ赤に熟れて破裂寸前。
      腐る前の最高の瞬間。


      赤い実を一つ、口に含む。
      柔らかいそれに尖った歯を刺して。
      もどかしく刺激を繰り返して中の種を取り出す。
      

      まるで甘すぎるセックスみたい。
      の身体に歯を立てるとこを想像する。


      「とし・・・っ」


      顎を掴んで上を向かせて。
      少し開いた口から命を吹き込む。


      柔らかく噛んださくらんぼ。
      俺の唇からの咥内に命が流れ込む。
      気持ち悪いくらいに甘く、血みたいな色してる。
      の体内に入ったそれは、ゆっくり身体を侵食していく。


      ゆっくりと…だけど確実に。


      「ねぇ、赤い身はじけたって話知ってる?」


      「中学の国語で習うやつ?」


      「そうそう。やっぱ全国共通なんだねぇ」


      「恋の話教科書で見るの初めてだったしさ、妙に記憶にねぇ?」


      頼りない記憶を手繰り寄せる。
      中学の初めくらいは真面目に勉強してたはずだし。


      確か女の子が魚屋の男の子に恋する話だった。
      女の子の心理を描いたよーな話で。
      今思えば情操教育みたいなもん?
      いや、なんか違うかな。


      「ねぇ、なんで赤い実なんだと思う?」


      「なんでって・・・」


      「赤い実ってさ、そもそも何だろーね?」


      「・・・?」


      「恋に落ちたら弾ける実でしょ?」


      「・・・多分」


      「どんなものだと思う?」


      恋に落ちたら弾ける実。
      想像できる領域を越えてる。


      「弾けちゃうんだよね・・・」


      「なんでそこに拘んの?」


      「だって・・・」


      「だって?」


      「・・・何の為に実がなったのか解んないじゃん」


      実が成る前、必ず花が咲く。
      恐いくらいに綺麗な花を咲かせる。
      その花が枯れた後に生まれる実に、一体なんの意味があるのかな。


      嘘。
      何となく、俺は答えを知ってる気がする。


      「多分・・・ちゃんと意味、あると思う」


      「どんな?」


      植物の生態系理論なんかじゃなくて。
      誰も解ってくれないかもしれないけど。
      理解を越えた感覚の中にある答え。
      でも、その中にあるのは他ならぬ理解の答え。


      の柔らかい髪に指を通す。
      目を合わせてはついばむようなキスを繰り返す。
      柔らかい唇とあったかい舌。
      息を交えられる、俺だけに許された距離。


      「花は恋・・・実は愛?」


      「・・・どーゆー意味?」


      の肩が小さく揺れる。
      興味があるのかないのか虚ろな目。
      よっぽど眠いんだろーな。


      揺るぎない感情を持てるほど、強い人間じゃない。
      でも周りがゆうほど弱くもないと思う。
      海月みたいに不安定な感情。
      浮き沈みを繰り返しながら紺碧を求める。


      流されてるんじゃない。
      漂うことが出来る強さ。
      俺の全ては確実に、に向いてる。
      

      例えば海月が海を漂うように。
      例えばあらゆる木々が、花を咲かすように。


      「恋は愛になるための途中経過だとするじゃん?」


      「え?」


      「愛と恋は同じじゃなくてさ」


      「うん」


      「恋を経て愛になる・・・通過点みたいなもんじゃねぇ?」


      「・・・で?」


      「で、それは花が枯れて実に成るのと似てる」


      「・・・どこが?」


      「無駄じゃないとこ」


      「・・・」


      「未来に繋がってる」


      花は無駄に枯れてくわけじゃない。
      確かに綺麗で枯れるには勿体無いもの。
      ずっと見てたくなっちゃう。


      だけどきっとそれだけじゃ物足りなくなる。
      綺麗なままのありふれた感情は、いらない。
      それだけじゃ満足できないんだ。


      実を成らす為に枯れてく花。
      それは決して無駄なことじゃない。
      小さな実をつけ、それは甘く膨らんでいく。


      花じゃ味わえない蜜の味。
      甘く濃厚な、を想う俺の感情。
      無駄なことなんか一つもない。


      「敏弥の実も、成ってるの?」


      寝転がったまま、白い指が俺の心臓を指す。
      トクントクンと鼓動が重なる。
      また、愛しさが溢れだす。


      「成ってないかな」


      「まだ・・・恋してるの?」


      「・・・違う」


      「・・・実は・・・成らなかったの?」


      「実なんて・・・とっくの昔に弾けたっつーの」


      「弾けた・・・?」


      そう、とっくの昔に。
      弾けた実は甘く腐敗して身体の奥底に根付いてる。
      例えばそう、さくらんぼの種さえ芽がでないくらいに。
      身体の隅々にまで甘い腐敗は広がってる。


      「愛してるってこと」


      愛は感情の終着点じゃないと思う。
      だって俺の気持ちはそんなもんに収まんない。
      弾けた実は身体の中で、心の中で未だ成長を続けてる。
      また新しい花を咲かせるために。


      「私・・・」


      「ん?」


      「花も実も一緒になっちゃったかも」


      「なんで?」


      「ずっとね、『好き』よりも『愛してる』って思ってたもん」


      「・・・早熟すぎ」


      「・・・ニヤけすぎ」


      実が赤いのは、きっと恋をしたから。
      淡い桃色の心が熟したからなんだと思う。
      漠然とした、でも何故か確信めいた答え。


      沢山の種を身体中に蒔いて。
      俺達はいつだって恋することを望んでる。
      痛くて、苦しくて、辛いことかもしれない。
      でもそれが恋によってのことなら我慢できる。
      ある意味魔法の実だ。


      桃色の花を優雅に散らせて真っ赤な実を付ける。
      何ら変哲もない循環。
      その循環の中に、間違いなく俺達は存在してる。
     

      「さくらんぼ、早く食べないと腐っちゃうかなぁ?」


      「腐っても良いじゃん」


      「腐ったら食べれないよ?」


      「土に埋めちゃえば良いじゃん」


      「来年、また花が咲く?」


      「きっと実が成るよ」


      ループの原点にある花、恋。
      いつしか焦がれる対象なり、望みの偶像となる。
      
  
      もし本当にそうだとすれば、恋は全ての中心なのかもしれない。
      俺の全てがであるのなら、恋の中にいるのは
      恋に恋してるのはきっと俺の方。


      また、赤い花の芽が芽吹く頃。
























      BE HAPPY・・・?


      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

      激しく支離滅裂な話になってしまった気がします・・・(;´Д⊂)
      さくらんぼを貰ったのでこんなお話を書いてみたくなりました。
      タイトルがミスマッチで無理矢理感があるのは、見てみないふりをして下さい<白目
      
      大好きなハニーに捧げます。
      元気になってね★


      20050529    未邑拝






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