この感情は化学反応みたい。
      の感情と混ざり合って、混ざり合って。
















      化学反応
















      目が覚めたらもう昼過ぎやった。
      

      カーテンの隙間から溢れる光が白黄色。
      ベッドサイドの携帯を見ると14時。
      14時って何時やったっけ?
      4時?・・・ちゃうな・・・2時か。


      窓を開けると温かい空気。
      昨日までえらい寒かったのに。
      2月ってこんなあったかかったっけ?
      まぁえぇや。


      寝室の窓を少しだけ開けて、みゆゆを入れる。
      乱れたベッドの上でじゃれあう2匹。
      それを背に後ろ手にドアを閉めた。


      「ぁー・・・」


      顔を洗って歯を磨いて。
      いつもとは少し違う服を、クローゼットから取り出した。
      黒いストレッチ風のパンツに胸元が大きく開いた薄手のセーター。
      レザーのジャケットは暑そうやから、春物のトレンチコート。
      それを羽織って靴を履くと、しっかり玄関の鍵をかけた。


      こーゆーんを小春日和ってゆーんやろか。
      所々にある木々の間に出来た陽だまり。
      なんか・・・春やなぁって。


      向かうんはの家。
      車で行こかと思ったけどやっぱり歩きにする。
      歩いて行けへん距離やないし、あったかいし。
      

      なんとなく空を見上げる。
      雲一つ無い、多分こーゆーのを晴天ってゆーんやろな。
      こんな空見たら、雨とか存在するのが嘘みたいに思える。
      雨がないと生きていかれへんのやろーけど。


      歩くこと数十分。
      意外に遠かったかも。
      の部屋のインターホンを押す。


      ・・・


      ・・・・・・


      出てこん。
      出て来い。
      勝手に入ります。


      「おじゃまします・・・」


      合鍵で不法侵入。
      とりあえずトボトボとリビングに入ってみる。
      ワンルームにしては広い部屋。
      物が少ない所為かもしらん。


      リビングのドアを開けると、目に入ったのはレースのカーテン。
      南側にあるベランダに出るガラス戸に引かれたそれ。
      そしてそれに凭れて寝息を立てとる


      「・・・首痛くなんで・・・」


      メタリックな黒いボディのギター。
      がギターを弾く姿は数える程しか見たことあらへん。
      前に薫くんが、巧いのになしてバンドせぇへんの?ってゆーとった。
      興味ないって言い放ったの顔が浮かんでは消えた。


      はギターを抱えたまんま熟睡しとるみたいで。
      僕に気付く様子は全く無くて。
      

      立ったまんまもアレやし、の横に座った。
      後ろから射す太陽の光が心地えぇ。
      部屋ん中が聖堂みたいに見える。


      今にもずり落ちそうなの身体。
      柔らかい髪が肩でいたずらに遊ぶ。
      それを人差し指に絡めてみる。
      ふわふわとすぐに解けてった。


      の周りに散らばった譜面。
      バラバラで何の曲かよー解れへんかった。
      

      「今ね・・・夢見てたの」


      「・・・起きとったん?」


      「ぅーうん、夢見てた」


      「・・・」


      寝ぼけとんのやろか?
      うん、多分寝ぼけとると思う。
      あんま呂律回ってへんもん。


      がギターを抱えたまんま膝の上に滑り落ちてくる。
      ギターのヘッドが当たってちょっと痛かった。
      でもなんとなく気持ちえぇから文句もゆわんことにする。


      「どんな夢見たん?」


      「・・・灰色の夢だった気がする」


      「・・・灰色って何やねん」


      「覚えてないけど、灰色っぽい夢だった」


      「白黒の夢見たん?」


      「・・・んーん、灰色」


      「・・・わけわからんわ」


      微妙に間延びした喋り方。
      ちょっと可愛ぇと思うあたり、僕も敏弥のことゆわれへん変態なんかも。
      

      の髪があんまりふわふわするから。
      みゆゆにするように顎の下を撫でてやる。
      気持ち良さそうに目を細める仕草に妙な安心感。
      

      「あのね・・・」


      「なん?」


      「・・・」


      「・・・?」


      「何?」


      「いゃ、何?とちゃくて・・・」


      「え?」


      「・・・寝ぼけとんの?」


      「・・・うん、ちゃんと起きてるよ」


      「・・・寝ぼけとーやん」


      4月上旬を思わせる太陽光。
      窓を叩く風がいつもより少しだけ強い気がする。
      春一番ってゆーんやろか。


      「あのね・・・人間の感情は化学反応なんだって」


      「・・・は?」


      「人間の感情ってね、神経細胞の中で起こるたんぱく質の化学反応なんだって」


      「・・・よー解れへん」


      突拍子もない話。
      まだ寝ぼけとんのやろか?
      寝ぼけた人間ってこんな難しい話するんかな?


      「本当にそうだったらどーする?」


      「・・・何が」


      「脳内でニューロペプチドがレセプターにくっ付くじゃない?」


      「・・・はぁ?」


      「そしたらそれがニューロンに電気的な変化を起こすんだって」


      「・・・それで?」


      「そうだとしたら、私達の感情はペプチドの働きってことになっちゃうね」


      相変わらず呂律の回ってへん喋り方。
      ぼんやりと天井を見上げる潤んだ瞳。
      は寝返りを打って僕の顔を覗き込んだ。


      「ときどきね、どうして心夜が好きなんだろうって思うの」


      「・・・」


      「考えても考えてもね、よく解んなくって」


      「・・・考えなあかんことなん?」


      「だって気にならない?好きって感情がどこから生まれてくるのか」


      ときどきの思考回路が読めへんことがある。
      ときどきってゆーより・・・よくある。


      この小さい頭でどんだけのことを考えとんのやろ。
      僕よりも細っこい身体の中にどんだけの考えを持っとんのやろ。
      僕からしてみればそっちの方が不思議。


      「で、答えがソレなん?」


      「ぅーうん、あくまで仮説ね」


      「・・・仮説?」


      「だって、そう思いたくないんだもん」


      の指が僕の髪を絡め取る。
      金色が日に透けて白く見える。


      「例えば感情が本当にペプチドの働きによるものだとするじゃない?」


      「・・・?」


      「そしたら、この感情は誰でも持てるってことでしょ?」


      「・・・で?」


      「違うの、そうじゃないの」


      「・・・?」


      「そんな簡単なものじゃないもん」


      「・・・」


      「愛しくて愛しくて、ときどきこのまんま死んじゃうんじゃないかって思う」


      撫でる指が爪を立てる。
      僕に、僕の中に。


      「・・・何かよー解れへんけど・・・それでえぇんやない・・・?」


      「それでって?」


      「化学反応とか難しいこと考えんでもえぇやん」


      「でも・・・っ」


      「心が勝手に動くんやからしゃーない・・・と思う」


      愛しいって感情がただの化学反応じゃあらへんこと。
      そんなん僕とが一番よー解っとる。

    
      愛しいって感情は人をも殺せる。
      でもそれはある特定の人にしか発生しぃひん。
      僕がを好きで好きで、ときどき殺してしまいたくなる。
      例えばそんな感情。


      愛しすぎて、切なすぎて、泣きたくなる。
      この感情が他の誰かと同じやなんて、思えるわけがあらへんやん。
      

      「僕、化学者やあらへんからよー解れへんけど・・・」


      「・・・うん」


      「人間の感情って、そんなに単純構造やないと思う・・・」


      「・・・うん」


      の細い指が僕の後頭部を優しく引き寄せる。
      拒否することもなく、そのまま目を閉じて口付けた。
      触れるだけの、何か意味がありそうで何も意味が無いようなキス。
      

      窓から射す光があったかい。
      身体全部が太陽の光に包まれとるみたい。
      部屋の中が白く光る。


      「心夜ぁ?」


      「なん?」


      「私のこと、好き?」


      「・・・嫌いってゆーたら?」


      「信じない」


      「せやったら聞くだけ無駄やん」


      「・・・嫌いなの?」


      「・・・嫌いやったらオフにわざわざ家まで来ぉへん」


      「じゃあ好きなんだ?」


      「・・・」


      「好きなんだ?」


      「・・・嫌いやない」


      「じゃー好きでもないってこと?」


      「・・・」


      「嫌い?」


      「・・・好き」


      満足そうに笑ったには敵わへんと思った。
      柔らかい唇の感触。
      僕はそれに目を閉じた。


      もしいつか化学が発達して、人間の感情の全てが解明されても。
      別に僕達にとってはどーでもえぇことやと思った。
      簡単に真似出来るほど、単純構造やあらへんから。
      それにな、僕にも解明出来ひん感情、他の誰かが先に解明するとは思われへんもん。


      何となくの細い首にてをかけてみる。
      僕の手の上にの手が重なった。


      キス。
      キス、キス、キス。
      愛しいと思った。


      「心夜、誕生日おめでとう」


      この感情は化学反応みたい。
      の感情と混ざり合って、混ざり合って。
      たった一つの、愛しい感情。





















      BE HAPPY・・・?

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      初めて学校の授業が役に立ったお話(笑)
      愛しいね、恋しいね、あの人だけが。
      今も、昔も、これからも、ずっと、ずっと。

      ★☆HAPPY BIRTHDAT TO Shinya☆★

     
      20050224   未邑拝




 
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