もし神様がいるなら願いを叶えて。
      もうこれで、最後にするから。























       実現された手首
























      愛された記憶がないわけじゃない。
      むしろ虐げられた記憶の方が少ない。
      もしかしたら無いに等しいかもしんない。


      なのに、愛し方が解んない。
      どうやって大切にしてあげたら良いか解んない。
      どんな風に触れて、抱きしめたら良いのか解んない。


      「・・・ねぇ、・・・?」


      秋が近い残暑の夜は少し肌寒い。
      だから、後ろからを抱きしめた。
      脚を伸ばして俺に寄り掛かる体重が不思議。


      重なった部分があったかくなってく。
      俺よりずっと小さいこの身体も、ちゃんと生きてる。
      そんなあたり前のことに感動した。


      「・・・なに?」


      毎日は平坦で、真っ直ぐな道。
      傍から見ればつまらない毎日だったかもしんない。
      

      でも俺達にとってはそれで十分だった。
      普通の毎日を送っていくことが、どれだけ大変か知ってるから。
      何も特別なことなんかいらなかった。
      唯、二人でいれれば、それだけで良かったんだ。


      こんな毎日が、ずっと続いてくと思ってた。
      何の確証もないけど、なんとなくそう思ってた。
      願うこともなく、当たり前にあるもんだと思ってた。


      「・・・恐く、ない?」


      それが、恐かった。
      当たり前の毎日が続いていくことが、恐くなった。


      「・・・ん。」


      後ろから抱きすくめた肩が、小さく震えてる。
      笑えるはずなんかないのに、俺達は笑った。
      今までで一番、下手な笑い方なんだろうと思う。
 
      
      「・・・」


      「・・・敏弥?」


      「・・・なに話したら良いかわかんないや。」


      「・・・へんなの。」


      歩く速度が違う俺達が出逢って、足並をそろえた。
      俺達は今、どのくらいの速さで歩いてるんだろう。
      二人でたてたはずの未来の道筋が解んない。
     

      言葉がつまる。
      何を話したら良いか解んなくて。
      それでも、何かを話さなきゃと思う。
      じゃなきゃ、何かが切れちゃいそうな気がする。


      「ねぇ、敏弥?」


      「・・・ん?」


      「お願いがあるの。」


      「なに?」


      は前を向いたまま、俺に言葉を投げる。
      その他頼りない声に、出逢った頃を思い出した。
      人見知りをする子だったな、って。
      そんな、どーでもいいことを思い出した。


      俺は言葉を返しながら、の白い左手を取った。
      下から左手の指を絡めて、改めて小さな手だなと思った。
      細い手首だなと思った。


      「優しく・・・シないでほしいの。」


      「・・・どして?」


      俺は親指で、の左手首の血管をなぞった。
      白い手に浮き出るそれは青に近い紫色。
      血は赤いはずなのに、不思議だなと思う。


      「優しいと、すぐ忘れちゃいそうだから。」


      「・・・。」


      「絶望するくらい、痛く・・・苦しくしてほしい。」


      「でも・・・」


      「死んでも忘れられない傷がいい。」


      「・・・」


      「死んでも、忘れたくないの。」


      平坦な毎日が恐かった。
      余りにも真っ直ぐすぎて、どこにいるのか解んなったから。


      道は、果てなく続くように見えた。
      でも、いつか終わりが来ることは解ってた。
      不老不死の人間がいれば、こんな不安はなかったかもしんない。
      でも今は、そんなの唯のお伽話でしかない。


      「・・・わかった。」


      の細い身体をきつく抱きしめた。
      きっとこれが最後になる。
      

      「・・・大丈夫、だよね?」


      「独りにはしねぇから。」


      「一緒に、いれるよね?」


      「うん。」


      「ちょっとの辛抱だよね?」


      「一瞬。」


      「また、逢えるよね?」


      「俺が、見つけるから。」


      「私も探すから。」


      「大丈夫だから。」


      「うん。」


      この年でやっと、初恋をしてるのかもしれない。
      だけどこれが俺の最後の恋になる。
      過去世も、現世も、来世でも、俺は以外いらない。


      二人で買ったナイフを抜いた。
      刃渡りはそんなに大きくはないナイフ。
      それでも、血管を切るには十分すぎる大きさ。
      ナイフは、新品にも関わらず鈍く光る。
      

      「・・・好きだよ、敏弥。」


      ナイフをの左手首に宛がう。
      そしてそのまま、力を込めて右に引いた。
      ナイフが肌を裂く感触が、やけにリアルだった。


      ぱっくり開いた傷口。
      中に見える脂肪と皮膚細胞。
      奥の方からだんだんと湧き出してくる赤い血。


      血が溢れ出す瞬間がスローモーションみたいに見えた。
      泉みたいに溢れ出すそれは、すぐにの手首を赤く染めた。
      だから俺は、もう一度、手首にナイフをあてた。


      ナイフは一瞬では引かない。
      最初は軽く、血管に近付くに連れて力を込めていく。
      血管の上を通るときは、ナイフを小刻みに動かした。
      なかなか切れない肉を切るように、左右に。
      いつか、手首だけ落ちてしまうような気さえした。


      「・・・俺も、愛してるよ。」


      当たり前に過ぎてく毎日。
      当たり前の日々の中での当たり前の生活。
      

      それに飽きたわけじゃない。
      それが退屈に思えたわけじゃないんだ。
      唯、恐かったんだ。


      果てしなく続く平坦な道に慣れちゃったから。
      いつまでも続くって信じてたから。
      その道が途切れるのが恐かった。
      死ぬのが恐かったんだ。


      慣れた道を歩く俺達には、未来の距離が見えなかった。
      出した足の先に、突然道がなくなるのが恐かった。
     

      そうやって平坦な道を歩けば、平坦な終わりが待ってるのかな。
      だったら俺達が生きてる意味なんてない気がしたんだ。
      

      ちっぽけな答えすら見いだせない。
      生きてる意味も死んでく意味も、何も解んない。
      そうやって消えてくのが恐かった。


      「・・・愛してるよ・・・っ」


      だけど、どうやって生きてったら良いかわかんなくて。
      どうやったらこの不安を解消できるか検討もつかなかった。


      最初から、もっと上手に愛してあげればよかった。
      そしたら、こんな終わり方しなくてもすんだはずなのに。


      でも、上手な愛し方なんて知らなかったんだ。
      もっと上手な生き方なんて、俺は知らなかった。
      

      答えを探すためにこの現状を壊す勇気もなくて。
      結局俺は、前にも後ろにも進めなくて。
      もう、どうしようもなかったんだ。


      こんな現実、消去してしまいたかった。
      どうしようもなくて、苦しくて、苦しくて、苦しくて。
      もがいてももがいてる感じすらしなくて。
      もう、道の上にいるのかどうかさえ解んなくなって。
      

      全部消去して、最初からやり直すんだ。
      今度はもっと上手に愛してあげるから。
      もっともっと上手な好きをあげるから。
      ねぇ、もっかい一緒にやり直そう?


      「と・・・し、ゃ・・・」


      「愛してるよ・・・」


      俺は、自分の手首にナイフを突き立てた。
      ゴリッっと嫌な音がして、ナイフがそこで止まる。
      骨が、少しずつ砕ける音がした。


      何度も何度も突き立てるうちに、ナイフはどこかに飛んでってて。
      俺はナイフを突き立てるように、拳で手首を殴ってた。


      何故か涙が溢れて、と重なった部分だけがあったかかった。
      を抱きしめたいのに、もう、腕に力が入らなかった。
      視界が赤と白に点滅をした。


      ねぇ、
      もし、一つだけ願いが叶うとしたら、何を願う?
     

      俺はね、たくさんあるから決めらんない。
      でも一番叶えてほしいのはね・・・って、言わなくても解ってるよね。
      

      新しい世界でも、俺を愛してほしいんだ。
      何度だって、俺のこと、愛してほしい。
      来世でも、俺は以外いらない。


      「・・ぁ・・・して、る・・・」


      もう目を開けてらんない。
      眠くて眠くて、このまどろみから抜け出せない。
      だから、もう目を閉じてしまうことにする。
      はもう、寝ちゃったのかな。


      目が覚めたら、また逢えるよ。
      今度は俺達が思い描いた世界が広がってるはず。
      その世界の中の一番愛に溢れた場所で、待ち合わせしよう。
      理想が実現された世界の、一番綺麗な所で逢おうね。
      この傷を目印に。


      もし神様がいるなら願いを叶えて。
      もうこれで、最後にするから。


      最期にするから。
























      BE HAPPY・・・?

      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

      突発的に思いついて書いたら、意味が解らん話に・・・(;´Д⊂)
      最近、語り手(視点)の独壇場になってていかんなーと思う。
      文才がほしくてしかたがない今日この頃です・゚・(ノД`)・゚・。



      20050903  未邑拝


      
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