今。
      世界で一番、君が憎い。






















      

      Intensive Care Unit























      黴菌だらけの完全無菌室。
      淫売婦の君は異常なまでの潔癖症。
      




 
      1ヶ月も前の話。
      

      護ってあげたかった。
      綺麗すぎるその髪も肌も全部護ってあげたかった。
      
   
      ごめんね。
      俺がもっと早く君に出逢ってれば良かったのに。
      俺がいない間、君はずっと独りだったんだね。
      寂しさを紛らわす為に自分の身体を売り渡すなんて馬鹿げてる。
      ねぇ、そんな悪夢も今日までだから。


      『んー・・・ピンクが良いかなぁ・・・でも白も可愛いし・・・』


      俺は一昨日買ったばっかの淡いオレンジが良いと思うな。
      レースが付いてて可愛かったし。
      こないだサイズ測りなおして買ったんじゃん?
      だったらオレンジにするべきだって。
      

      ま、どんな下着でも、俺は全然構わないよ。


      『んーやっぱオレンジにしよっと』


      うん、やっぱそれが一番似合ってる。
      別に他のが似合ってないわけじゃねーよ?
      君のことは俺が一番よく知ってる。


      いっつも見てたから。
      いつも、いつも、いつも、いつも、いつも、いつも見てた。
      君のことなら何だって知ってるよ。


      朝はいつも7時半に起きる。
      でもホントは7時に起きなきゃなんだよね。
      目覚ましはかけてるのになかなか起きれないのは悪いとこだよね。
      

      朝食は時間が無くて食べないことが多い。 
      あ、でも冬になったらよくコーヒー飲んで出て行くよね。
      こないだは熱すぎて舌火傷してたね。
      気をつけなきゃ駄目だよ?


      でもそんな日ももう終わり。
      これからは俺が護ってあげるから。





















      
      「もう恐くないよ」


      艶やかな髪が吐息に揺れる。
      誰の?
      俺の。


      しなやかな四肢は投げ出されて横たわる。
      白は苦手だから、ちょっとだけ灰色に染めてみる。
      綺麗すぎて吐き気がする。


      「・・・ぁ・・・」


      「やっと会えたね」


      「ぃや・・・誰・・・」


      「俺のこと知らない?俺は知ってるのに」


      「やっ・・・こ、来ないで・・・」


      「敏弥だよ、敏弥。俺の名前」


      「は、離して・・・っ!」


      「ほら、言ってみて・・・俺の名前」


      「ぃや・・・やぁっ・・・!」


      「嫌じゃないでしょ?ほら・・・言って?」


      「やっ・・・し、知らない・・・あなた・・知らな・・・」


      「知らないなんて言わせねぇよ」


      「・・・ど・・して・・・?」


      「会いたかったよ・・・・・・」


      何度も想像した。
      に触れた自分の腕を、指を、身体を。
      

      非現実系の現実。 
      夢と幻想の区別がつかない俺は限りなく理想系。
      ほら、身体が疼く。


      寂しかったって。
      逢いたかったって。
      俺の身体がそう叫んでる。
      

      「ゃ・・・ぃやあぁっ!!」


      初めてを見たのは確か一昨年の冬。
      今日みたいに寒い日だった。
      寒いのが苦手なはマフラーに顔を埋めながら歩いてた。
      カツカツ音を立てるブーツを、俺は今でも覚えてるよ。


      もし一目惚れってもんが存在するなら、多分それ。
      わけがわかんない、でも胸が高鳴る。
      この感情が恋だとゆうなら、俺も世の中の一般論の中に埋もれてる。
      一瞬だけ目が合ったのは、絶対に俺の勘違いなんかじゃない。
      きっとだって俺に気付いてくれてた。


      「嬉しかったんだ、俺」


      毎日見てた。
      部屋から出て部屋に帰って来るまで、毎日毎晩、何処ででも。
      の足音ならどんな雑踏の中でもわかる。
      良いことがあった日は足取りは軽快。
      爪先だけで跳ねるように歩くんだよね。
      逆に嫌なことがあった日は引きずるような足音。
      足を上げずに歩くから何もないとこでよく躓く。
      転びそうになって、また悲しくなっちゃうんでしょ?
      
 
      「ぁ・・・はなしっ・・・やぁ・・・!」


      そんなときね、いつだって俺が護ってあげれればって思ってた。
      嬉しいときは一緒に喜んで、悲しいときは励まして。
      ありきたりなことだけど、そーゆーの好きでしょ?


      君のことなら何でも知ってる。
      君が知らないことだって、俺が全部知ってる。


      「だって、愛してるから」


      君が誰を愛しても。
      別にそんなの関係ねぇよ。
      だって最後は俺んトコに戻ってきてくれるんでしょ?




















      今度は長い黒髪、細身の男。
      優しそうな目が特徴的なそこら辺にいそうな男。
      たまに抱えてるのは多分、ベース。

   
      『ねぇ、こないだのライブ見てたの、知ってた?』

  
      あぁ、四日前のライブのことか。
      ちゃんと知ってるよ、俺は見てた。
      ファーのついた紫色のキャミソールに黒のスカートだったね。
      スリット入りすぎで寒いって言ってたっけ。


      『マジで?言ってくれれば裏から入れたのに』


      あの日は友達と二人で見に行ってたっけ。
      凄く嬉しそうな顔で見てたこと、俺は知ってるよ。
      いつもボーっとしてる人なのにって笑ってたっけ。
      

      『客席から見てみたかったんだもん』


      ねぇ、は気付いてた?     
      隣りで見てたのは俺だってことに。


      が口ずさんだあの曲のフレーズ。
      が涙を浮かべたあの曲のフレーズ。
      俺は、全部知ってる。


      『今度はちゃんと言ってよね?』


      今度、はもうないよ。
      

      『どーして?』


      今度なんかないって言ってんじゃん。


      『ちゃんと視界に入れときたいからサ』


      を見てるのはお前じゃない。
      俺。




















      
      「ねぇ、はごっこ遊びが好きだったよね」


      もしも、の話をするのが好きだった。
      全て夢物語だと知ってながらも目を閉じる。
      

      「今日はさ、お医者サンごっこしよーか」


      夢と現実の区別をつけるのは意外に難しい。
      世界が一つなら迷うこともねぇのに。
      目を閉じることがないなら、迷いようもねぇのに。


      いつからか感じる浮遊感。
      君に逢えたから。


      どうしようもない。
      好きでたまんねぇの。


      望遠鏡越しの姿に恋焦がれた。
      カーテンに映るその影にさえも。
      スピーカー越しの声に恋焦がれた。
      目を閉じればいつでも君に触れれた。


      ねぇ、愛してるよ。


      「はねー・・・看護婦さんじゃないよ」


      あ、なんだっけ、この感じ。
      前も体験したことある。
      ま、いいや。


      「俺は病原体」


      細い手首に指を食い込ませる。
      爪痕に滲むのは赤い血。
      流れない。
      溜まっていく、皮膚の下。
      何かに似てる。
      俺の想いに似てる。


      「は薬。抗生物質だよ」


      平常を保ってられない、あと数秒。
      歓喜と狂気の狭間で狂喜のような自分。
      見開いた目に君が映る。
      

      泣き顔も、素敵だね。


      「やぁ・・・誰かたすけっ・・・とし、や・・っ!」


      とし、や?
      敏弥?


      「やっと名前、呼んでくれたね」


      「やっ!ちがっ・・・あな、たじゃ・・なぃっ!」


      「・・・誰・・・?」


      右脳と左脳が、鳴く。
      手首を握り締めた手に力を込める。
      

      血が、溢れ出す。


      此処は、灰色に煤けた病院。
      医者は不在。
      患者は君で俺。


      ごっこ遊びが得意なのは君だった?
      泣いて、あやして、もしもの話をしたのは本当に君?
      誰に?
      

      俺に?


      手を繋いだ記憶。
      肌を寄せた記憶。
      誰の記憶?
 

      俺の?


      違う?
      何が?
      誰が?


      俺が?


      「だっ、て・・・私の、敏弥は・・・も、いない・・っ!」


      
      此処は灰色に煤けた病室。
      ベッドは透明、触ると泥の味。
      窓はなくて締め切ったドアは開きそうで開かない。
      風すら通らない無菌室。


      君と俺。
      俺は無菌室に繁殖する黴菌。
      潔癖症の君は俺を毛嫌いする。
      

      笑顔を振りまいて、手に持ったのは消毒液。
      泥だらけのベッドに横たわって脚を開いて。
      好きだって、囁いた。


      「と、しやは・・・敏弥、は私が・・・っ」


      望遠鏡のレンズは俺の眼球。
      スピーカーは俺の耳。
      

      俺は、誰だったっけ?


      「私が・・・殺した・・はずなのに・・・っ!」


      
      君を・・・を見てたのは誰だった?
      何処から、どうやってを見てた?
      俺は誰で、何処にいて、何をしてる?
      

      唯、が好きで。
      唯、傍で見つめてたくて。
      唯、それだけだったのに。


      ねぇ、俺は誰?


      「・・・俺だよ・・・敏弥・・・」


      「ぃやあぁ!誰か・・・だれかぁっ!」


      「こっち見ろよっ!・・っ!」


      「助け・・っ!も、許してぇ・・・っ!」


      此処は灰色に煤けた集中治療室。
      繁殖した俺は黴菌。
      

      何処に?
      何に?
     

      ・・・誰に?


      潔癖症の君は俺を嫌う。
      寄生したのは俺?それとも君?
      寄生されたのは・・・誰?


      唯、愛してるだけなのに。
      唯、見つめてただけなのに。
     

      気持ちが悪い。
      吐き気が眩暈が全てが渦巻く虚構の世界。
      人工呼吸器は埃詰まりで起動不可能。
      息が、出来ない。

    
      記憶が、渦が、光が、闇が。
      目を閉じれば現実が見える?
      現実って何処にあるもんだっけ?
      夢って目を開けて見るもんだっけ?
      

      俺は、どこに存在してる?


      泣き叫ぶ君、
      これは本物?
      溢れ出す血は、嘘なんですか?


      わけがわからない。
  

      だけど。


      だから。


      なのに。


      今。


      世界で一番、君が憎い。


      そして。


      目の前の。


      だから。


      世界で一番、君が愛しい。


      





















      BE HAPPY・・・?


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      5万打御礼リクで紅月幻夜様に捧げます。
      【に監禁やストーキング】ってリクだったんですが・・・すいませんすいませんすいm∞
      話の流れがわけ解んないですよね・・・自分でもさっぱりです(死)
      もうお好きなように想像して下さい、全てを。
      
      幻夜様のみお持ち帰りOK。
      リクありがとう御座いましたvV


  
      20041130   未邑拝



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