逃れられる罠なら最初から張らへん。
      狂いたがっとったのはアンタの方。
























      破壊主義者
























      「あーあ・・・また壊れちゃったー・・・」


      淹れたてのコーヒーを飲みながらを見た。
      床にぺタリと座り込んで壊れたソレを覗き込む。
      長めの髪が床を這う。
      生臭さが部屋の中に充満した。


      が今度嵌まっとった遊びは鬼ごっこ。
      相手は一昨日マンションのエントランスに迷い込んできた仔猫。


      灰色と黒が混ざったような毛色でまだちっこい。
      どっかの飼い猫やったんか、妙に人懐っこい。
      エレベーターの前に立った俺等の足元に擦り寄ってきて。


      どうか、気に入られんように。
      思うだけ無駄やったって、今更自嘲の笑みが零れる。


      最初は色鉛筆やった。
      色が気に入らへんゆうて火ぃつけ出した。
      何ゆうても聞く耳持たへんかって。
      中学生のころから大事にしとった64色の色鉛筆は灰になった。


      その次は本やったかな。
      おもろんないゆうて一枚一枚ページ千切り出して。
      子供の頃におかんにねだったゆうとった絵本。
      跡形もなく破れたそれは俺の手によってゴミ箱へ。


      他にもぎょうさんある。
      好みじゃあらへんゆうて鋏で串刺しにされた低反発枕。
      目が痛いゆうて黒いペンキをぶちまけられた白い壁。
      さすがにあんときはペンキに酔って気分悪なったわ。


      まぁ、そんな感じ。


      その破壊対象が物から生き物に変わるまでに、そう時間は掛からんかった。
      俺は驚くことも、納得することもあらへんかった。
      自然の流れとでもゆえばえぇんやろか。


      「脆いねー・・・」


      は横から死んだ猫を覗き込んだ。
      や、死んだかどうかは解らへんけど、さっきまでとは明らかに違う。
      鳴き声もせぇへん。
      威嚇の声も、逃げようともがいて床に爪を立てる音も。


      「あーあ・・・つまんない・・・」


      「仔猫に何求めとんねん」


      「だって擦り寄ってきたの仔猫だよ?」


      「せやなぁ?」


      「遊んでほしかったんでしょ?この仔猫だって」


      のゆう鬼ごっこ。
      鬼はで逃げるのは仔猫。
      範囲はこの部屋だけ。


      は逃げる仔猫を追いかけて、追い詰めて。
      掴まえては罰ゲームやってゆうて、毛を毟る。
      

      幼い猫の皮膚は柔らかいんか、毛を毟るたび肉が抉れる。
      奇妙な形に凹んだ背中。
      歩くたびにボトボト零れ落ちる腹部からの血。
      不自然に曲って真っ直ぐ歩けへん脚。
      こんなんなってまでよー生きたって感心するわ。


      動かれへん脚で必死に逃げようとして。
      そない歩かれへんうちに掴まって、また肉抉られて。
      10数えるの目はキラキラしとって。
      仔猫にはどない見えたやろか。


      「生き物は脆いね」


      「生きてへんもんは脆いゆうて捨てたやんか」


      「あ、そうだっけ?」


      クスクスと笑う顔に罪悪感はない。
      まるで珍しいものを見つけたみたいに仔猫の死骸を突付く。
      やっぱ仔猫は死んどるみたいで、ピクリとも動かへんかった。


      「あーあ・・・何かオモシロイものないかなー・・・」


      「あんたが壊したんやろ」


      「違うもん。勝手に壊れたのっ」


      いつからこんなことになったんやろか。
      どうしてこないな子になったんやっけ。
      

      もっと慈しみがあって愛情深い子やった気がする。
      少なくとも、動物殺して喜んどるよーな子やなかった。
      何が原因やっけ・・・?


      「やっぱ小さかったからダメなのかなぁー?」


      「関係あらへんやろ」


      「でもね、ライオンだったら簡単に壊れないと思うの」


      「壊す前にが壊されるんとちゃうか?」


      「どーして?」


      「百獣の王やで、ライオン」


      「強いんでしょ?だから壊れないじゃん」


      「・・・はいはい」


      外は雪がちらついとる。
      外には出たない。
      部屋ん中だとんだけあったかいか知っとるから。


      命無いもんはにとってはつまらんもん。
      飽きっぽいには酷く不釣合い。
      転がされて起き上がることすら出来ひんそれは退屈で仕方ないらしい。


      命有るもんはにとって脆いもん。
      壊れても直れへんから。
      


      なぁ、アンタは何が欲しいん?


      「ライオンより豹が理想的だなぁ」


      「なして?」


      「だって強くて綺麗で気高い感じしない?」


      無邪気に笑うに吐き気がする。
      綺麗な顔のどこらへんかに隠された狂気。
      

      多分、嫉妬。


      俺とおるんに他のもんの話なんかせんで。
      俺とおるんに仔猫なんか見んといて。
      そんな死骸に構わんで。
      そんな遊び道具どーでもえぇやん。
      俺をみて。


      が望むもんなら何でも与えてやりたい。
      の喜ぶ顔が見たいから。   
      に嫌われたないから。


      「薫はさ、豹に似てると思うよ」


      「はぁ?俺あんな顔しとんの?」


      「顔じゃないし。雰囲気が似てる」


      突拍子もないこと。
      の視線が俺を捕らえる。
      どうしようもなく背筋がゾクゾクする。


      俺の頬にそっと触れる形の良い指先。
      輪郭をなぞる指先からは転がった仔猫と同じ匂いがした。
      血生臭い、赤い匂い。


      「ねぇ、かお・・・っん・・・」


      指先が唇に触れた瞬間。
      俺は腕を引き寄せて桃色に色付く唇に自分のそれを押し付けた。
      濡れた味。


      「か、おる・・・?」


      「強くて、綺麗で、気高くて?」


      「・・・薫・・・?」


      「ほんまは何が欲しいん?」


      唇に触れる。
      期待と歓喜に満ちて震えるそれ。


      玩具を買ってもらいたくてごねる子供を滑稽に思ったことがある。
      きっと子供は玩具で遊ぶ自分を想像しとるはずで。
      たったその一時的な欲求のために今を費やす。
      

      いつかは飽きてまうのに。
      いつかは邪魔になってまうのに。
      いつかはゴミになんのに。
      


      「薫が・・・ほしい」


      
      所詮は玩具。
      暇な時間を潰す為の道具。
      でも何でもえぇわけじゃあらへん。
      最高におもろいもんやないと意味がない。


      なぁ、そうやろ?・・・


      「ねぇ・・・薫がほしいよ」


      「・・・」


      「ねぇ・・・ちょーだい・・・?」


      「・・・えぇよ」


      いつからやったっけ?
      拾ってきた動物に「薫」って名前を付け出したんは。


      怪我した小鳥、道に迷った子犬。
      縁日で掬った金魚にどっからか拾ってきた兎。
      全部に薫って名前を付けて、飼い遊んどった。
      俺が仕事でおらん間、ずっと。


      俺はそれに気付かんフリをして。
      少しずつオカシくなってくを唯々見とった。
      一番近くで少しだけ遠いトコロから。


      「・・・ホントに・・?」


      「がほしいもん、俺がやらんかったことある?」


      「・・・ない、かな」


      「薄情な言い方やなぁ」


      「だって薫からいっぱい貰いすぎて解んないんだもん」


      「光栄やわ」


      にとっての俺はそこに転がった仔猫とおんなし。
      壊れるまで、飽きるまで、唯の遊び相手。
      

      「薫はやっぱり豹に似てるよ」


      「綺麗で、強くて、気高くて?」


      「それでもって凄く頭がいいの」


      「俺が?」


      「うん」


      俺の膝の間に座って脚に顔を埋める
      その小さな頭を子供にするように撫でた。
      艶やかな髪が指の間をすり抜ける。


      逃れられる罠なら最初から張らへん。
      狂いたがっとったのはアンタの方。
      飛び込んできただって結構な策士やろ。


      「ねぇ、薫は私のものだよね?」


      「・・・そやで」


      「ずっと傍にいてくれるよね?」


      「・・・あぁ」


      「ちゃんと私のものだよね?」


      「なに心配しとんねん」


      「だって薫は頭が良いんだもん」


      「それとこれと何の関係があんねん」


      「だって蜘蛛は糸に絡まったりしないじゃない?」


      「・・・それがほんまに自分の糸ならな」


      俺がのものになったんか。
      それともが俺のもんになったんか。


      終わりが見えへんゲーム。
      どっちかが壊れるまで終わらへん。
      

      俺はを膝の上に乗せて抱きしめた。
      お互いが張り廻らせた蜘蛛の糸の罠。
      今おる位置は自分のテリトリーかのテリトリーか。
      

      俺は血溜まりに沈んだ仔猫の死骸を脚で突付いた。
      壊れたの玩具。
      


      俺は零れる笑いを必死で噛み殺した。

































      BE HAPPY・・・?

      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

      なんだか突発的に書いたお話でした。
      策士とかゆってる癖に私自体が頭悪いんで・・・巧くいきませんねぇ(失笑)

      少しでもお気に召しましたら感想下さると嬉しいです★



      20050105    未邑拝











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