雨に打たれて、錆びて朽ちるのを待っとる。
      このゴミ溜めの中で。


















      廃棄物






















      雨が降る日。
      世界は透明に煙って、冷たくて仕方なかった。
      指先が紫色に変色していく。


      「・・・捨てるの?」


      「・・・」


      「捨てるの?」


      「・・・」


      雨の音の中から聞こえる声。
      かき消されそうにか細い。


      「別に良いよ。」


      「・・・」


      「最初からゴミみたいなものだったし。」


      灰色の景色に雨が跳ねる。
      雨音は不規則なリズムで存在を主張する。


      俺はなんもゆえんまんま、ソレを見つめた。
      身体は冷えて、体温は降下してく。
      心臓の動きだけが忙しく、確かに感じた。


      「こんなとこで、ごめんな。」


      「別に・・・」


      「・・・」


      「京がいない場所なんて、どこも一緒だよ。」


      「こんなとこに捨てて、ごめん。」


      「やっぱり・・・捨てるんだね。」


      雨みたいな言葉が突き刺さる。
      どうにもとりつくえそうにない。
      真実やから。


      「邪魔だったの?」


      「・・・」


      「ねぇ?」


      「今はもう、いらん・・・」


      「捨てたくなるほど?」


      「・・・ん。」


      所詮は玩具。
      別に一生手元に置いときたいものやなかった。
      さして大切でもなかった。


      遊んだ記憶は遠い過去。
      ずっとしまい込んで埃塗れ。
      それじゃ可哀相やろ?


      「あんな気に入ってくれてたのにね。」


      「・・・昔の話やろ。」


      「私にはすごく最近に思えるよ。」


      「・・・昔の話やってゆーとるやん。」


      ごみ箱には捨てられへんかった。
      グチャグチャにしてゴミ袋には入れられへんかった。
      愛着があったんやろか。


      こいつを捨てたら、後悔するんやろか。
      廃棄物処理所を探し回る日がくるんやろか。
      捨てるんやなかったって、そう悔やむんやろか。


      でも、それはそれでえぇ気がする。
      むしろ、そんな日が来るのが待ち遠しい。


      「私ね、京と過ごせて良かっただなんて、絶対思わない。」


      「・・・」


      「遊んでくれてありがとうなんて思わないから。」


      「・・・そ。」


      「思い出なんて、一個も残さないから。」


      「・・・別に。」


      「一個も持ってかないから。」


      捨てて後悔したもんなんか一個もあらへん。
      大切にしたもんなんかあらへん。
      全部が廃棄物前提の玩具。


      「私だって、京なんかいらない。」


      「・・・」


      「京なんかいらないよ。」


      「・・・」


      「京が私を捨てたんじゃないから。」


      「・・・は?」


      「私が京を捨てたの。」


      降り注ぐ雨は透明な濃度。
      気付けば前も後ろも、世界は灰色。
      まるで廃棄物みたいな世界。


      手放したものって何があったやろか。
      それって、俺が捨てたん?
      それとも俺が捨てられたん?
      何も残ってへんから確かめようがない。


      手の平は無駄に冷たい。
      雨の雫と一緒に体温が流れてく。
      

      「全部、自分の思い通りになると思わないで。」


      「・・・」


      「全部、自分の所有物だと思わないで。」


      「・・・」


      もし全てのものに所有者がおるんやとすれば。
      俺も誰かの所有物ってことになるんやろか。
     

      俺もいつか、捨てられる日が来るんやろか。
      それとももう、とっくの昔に捨てられとんのやろか。
      

      自分から離した手。
      もしかしたら、離されたんかもしらん。
      いらんと思われとったんやろか。
      俺が、いらんと思ったように。


      「あんた・・・俺を捨てるん?」


      「・・・そう。」


      「俺んこと、もういらんの?」


      「京なんていらないよ。」


      降り注ぐ雨の下。
      世界が真っ白に見えた。

 
      手が冷たい。
      それは雨の所為やなくて。


      俺の手には何も残ってへんから。
      抱きかかえとるもんはいっぱいあると思っとった。
      でも実際はからっぽやったんやな。
      すり抜ける雨が酷く冷たく感じた。


      「・・・あんた、名前は?」


      「・・・ないよ。」


      「あらへんの?」


      「ゴミに名前はいらないでしょ?」


      「・・・そっか。」


      この世界はでっかいゴミ箱。
      いつかはゴミで溢れ返って、爆発する。


      「・・・。」


      「・・・誰?」


      「・・・あんたの名前。」


      「・・・」


      「俺を捨てた奴の名前。」


      「・・・ゴミには勿体無い名前ね。」


      「・・・どーせゴミやからえぇんちゃう?」


      「そーね・・・」


      「・・・。」


      「・・・なに?」

  
      「・・・口に出しただけ。」


      「・・・そ。」


      灰色の世界に寝転がる。
      顔にあたる雨が痛い。


      空は無限に広くて、灰色。
      ゴミ箱に蓋はいらんってこと。


      「・・・京。」


      「・・・なん?」


      「・・・ゴミには勿体無い名前ね。」


      「・・・いらん世話や。」


      所詮は俺も廃棄物。
      雨に打たれて、錆びて朽ちるのを待っとる。
      このゴミ溜めの中で。
























      BE HAPPY・・・?

      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

      ゴミ扱いしてごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんn∞
      一番の廃棄物は私です、間違いないです(;´Д⊂
      彼女さんは何なのかはお好きに想像してみてください。

      お気に召しましたら感想くださると嬉しいです。


      20050925    未邑拝


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