雪が静かに落ちてくる。
      君という拠り所を無くした、散り逝く花びらのように。
























      犠牲の花
























      俺の目に映るものは、視覚に切り取られた世界。
      だから俺の横にも後ろにも世界は拡がってる。
      見えないんじゃない、見ないんだ。
      手に負えなくなるから。


      男ってのは、全てを護りたくなっちゃう馬鹿な生き物なんだって。
      世界中を護れるわけなんかないのに夢見ちゃう。
      だから俺は見ない。
      大切なものは一個で十分だから。


      護ってあげるから。
      大切にしてあげるから、
      お願い、俺の傍から離れないで。


      「お願い・・・わかって・・・」


      「・・・わかんねぇよ・・・っ!」


      もう一時間以上も続いてる押し問答。
      の声は俺の頭を通り過ぎて、部屋に沈殿する。


      「ずっと夢だったって言ったじゃない。」


      「んなの関係ねぇよ!」


      もう、何を言っても無駄なのかもしれない。
      諦めるしかないのかもしれない。
      だけど、出来ない。


      明日はクリスマス。
      一緒に過ごそうって言ったよね?
      

      「・・・行きたいの。」


      「・・・行かせねぇ・・・ッ!」


      ロンドンに行くって。
      やっと巡ってきたチャンスなんだって。
      が何度も泣きそうな声で繰り返してる。


      そこに行けばの夢は叶うのかもしれない。
      ずっとそれを実現させるために頑張ってきたのも知ってる。
      

      だけど、どうしても応援できないんだ。
      笑っていってらっしゃいなんて言えない。
      送り出すことさえ出来そうにない。
      離れたくない。


      「ねぇ・・・私、別れるつもりなんてないよ?」


      「・・・行くな・・・」


      「離れてたって繋がる方法なんて、いくらでもあるでしょ?」


      「・・・行くなよ・・・」


      「電話もするしメールもする。ときどき会いに来る。」


      「・・・行くなって。」


      「・・・敏弥・・・」


      今だって毎日会えるわけじゃない。
      毎日電話をしてるわけでもないければメールしてるわけでもない。
      状況は、もしかしたら今とさほど変わんないのかもしれない。


      でも日本とロンドンじゃ全然違う。
      同じ時間を感じられない。
      手の届く場所にいない。
      同じ空間にいない。
      俺の視界にいない。


      なぁ、そんなの耐えらんねぇよ。
      傍にいなきゃ意味が無い。
      いつでも護ってあげられる距離にいて。
      俺の傍にいてよ。


      「夢と俺・・・どっちがいらない?」


      仕事と私、どっちが大事なの?
      よく昼ドラなんかで耳にする妻の常套句。
      今ならその気持ちがよく解る。
      まさか自分が使う日がくるとは思わなかった。


      何かを得るためには、何かを犠牲にしなきゃいけない。
      得るものが大きければ大きいほど、犠牲も大きい。
      一番大事なものを失う覚悟が必要なんだ。


      ねぇ、俺を選んでなんて言わない。
      でも少しでも迷う気持ちがあるなら。
      お願い、俺をいらないって言わないで。


      「・・・馬鹿なこと言わないで。」


      「馬鹿なことじゃねぇよ!」


      「天秤にかけるものが違うでしょ?」


      「なんでだよ。」

  
      「夢と恋は別物でしょ?」


      「でもどっちもの中にあるもんじゃん。」


      俺が護ってあげるから。
      の大事なもんも、俺が護ってあげる。
      だから俺の為に生きてほしいんだ。


      俺はの為に生きるから。
      がいるから生きていられるんだ。
      だからも、俺の為に生きてよ。
      俺の傍で。


      「・・・とにかく・・・もう決めたの。」


      「・・・嫌だ・・・」


      「お願いだから、解らないこと言わないで!」


      「行くな・・・行くなってば!」


      「敏弥っ!」


      閑散とした部屋にの怒鳴り声が響く。
      頭を抱えて涙を流す、俺の護りたい人。
      もう、どうしたら良いのかわかんない。


      「・・・愛してるんだ・・・」


      「・・・敏弥。」


      「・・・愛してるよ、・・・」


      「・・・私も愛してるよ・・・でも・・・」


      「愛してるから・・・どこも行くなよ・・・」


      「・・・敏弥。」


      「なぁ・・・愛してるんだ・・・」


      愛してるんだ。
      どうしようもないくら愛してるんだ。
      感情が追いつかないくらいに。
      言葉が追いつかないくらいに。
      世界が追いつかないくらいに。
      愛してるんだ。


      「離れたら辛い思いさせるかもしれないけど・・・」


      「・・・・・・行くなよ・・・」


      「ちゃんと連絡する、毎日する。」


      「・・・・・・」


      「大好きだから・・・」


      「・・・離れんな・・・」


      「大好きだから、離れてても大丈夫だよ。」


      「・・・一人にすんなよ・・・」


      「だからさ・・・いってらっしゃいって、言って?」


      俺はさ、を失うくらいなら、何もいらない。
      何を犠牲にしても、がほしい。
      俺の持ってるもん全部手放しても構わない。
      がいればそれでいいんだ。
      

      だから、も犠牲にしてよ。
      自分の夢を犠牲にしてでも傍にいて。
      全てを犠牲にして、の中で俺を一番にして。
      

      夢の為に俺を犠牲にしないで。
      夢の為に俺を捨ててかないで。
      

      こんなに愛してるのに。
      愛してるのに。


      「・・・しんで。」


      「・・・え?」


      愛してるよ。
      狂いそうなくらいに愛してる。


      「俺の傍にいらんないなら、せめて俺の為に死んで。」






















 
      ねぇ、明日はクリスマスだね。
      もう日付変わっちゃったから今日になるのかな。


      去年買った小さなクリスマスツリーはもう出してあるよ。
      一緒に飾りつけしようと思ってたんだ。
      色とりどりの電飾、小さなマスコット。
      世界に一つだけしかないツリーを作ろう。


      いつだったかが教えてくれたよね。
      ツリーには靴下を吊るしておくものなんだって。
      一番欲しいものを書いた紙をその中に入れとくんだったよね。
      そしたらサンタが朝、枕元にプレゼントを置いててくれるって。
      そう、が教えてくれたんだよね。


      早くしないとサンタが見にこれないよ。
      サンタは綺麗な装飾を目印に家まで来るんだ。
      早く飾りつけして欲しいもの吊るしとかなきゃ。
      サンタクロースに、お願いしなきゃ。


      「此処が良いかな。」


      今年のプレゼントは絶対に欲しいもんなんだ。
      だからサンタさん、お願いします。


      「・・・ん、しょ・・・重・・・っ。」


      これから先なんにも貰えなくて良いから。
      今年だけはお願いします。


      「っはぁ・・・はぁ・・・これで良いかな?」


      初めて二人で来た、空が一番近い場所。
      願いを掛けるなら、空に近い場所がいい。
      誰の願いよりも一番早く届くように。
      強く、強く願うから。


      「・・・サンタさん、俺さ・・・」


      一本の木に、火を放つ。
      乾燥した空気が炎を運び、煙を起こす。
      

      願いを反映した強い炎。
      それは一瞬の内に木を飲み込み、赤く燃え上がった。
      闇夜を照らす、不自然なくらい真っ赤な光。
      これ以上ないくらいの飾りつけ。


      その中には俺の願い事が一つ。
      高く高く吊るすから、俺の願いを叶えて。


      「・・・がほしいんだ。」


      雪が静かに落ちてくる。
      君という拠り所を無くした、散り逝く花びらのように。
      
      
      願いを掛ける為に人々が犠牲にしたものの数だけ降る雪。
      明日の朝には地面に積る、後悔と忘却の白。
      まるで一面に広がる犠牲の花。


      きっと俺はその中に立ち尽くしている。
      気が狂いそうな白に囲まれ、君を待ち続ける。
      サンタが俺の枕元に来てくれるまで。


      犠牲になったのは君?
      それとも、俺?
























      BE HAPPY・・・?

      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

      ★☆メリークリスマス☆★

      って感じの明るい雰囲気の話じゃないことは確かです(笑)
      こんな暗いクリスマス話書いてるのはウチくらいかも・・・
      でも!久々に最初の2文、気に入ったものが書けました<いらん情報
      そんなわけで、みなさま素敵な1日を(*´∀`*)


      20051224  未邑拝


      

   
    
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