14回目の朝が来る前に
    どうか私に魔法を使える力を与えて下さい。



    あの人が明日を笑って過ごせるように。
    どうか神様、私に魔法を下さい。
    あの人に、魔法を掛けさせてください。


















    明日に変わる願い


















    13回目の夜がきました。
    貴方は今夜も、全てを柔らかな毛布に包むんですね?
    そうして何もかもを全て閉ざして
    私だけに囚われるんですね。




    ねぇ?
    貴方に私の声は届かないんでしょうか?
    こんなに私は言葉を綴っているのに。
    貴方をずっと見つめながら、貴方をこんなにも想いながら
    私は何時だって、貴方に向かって声を発しているのに。
    貴方の鼓膜には響かないんでしょうか?









     私を愛してくれた貴方の指先は、もう私を抱いてくれない。
     ただ、きつく毛布を握り締めるだけ。
     震えながら、冷たいと呟きながら、
     ただ、握り締めるだけ。




     ねぇ?まだ私の匂いは残っているんだね?
     時間は止まらないのに。










     物凄く寒い夜も
     うだるように暑い夜も
     貴方の指先は、私を離さなかった。
     私も貴方を離したくなかった。





     毛布に互いの匂いが染み込むまで
     離れなかったのは、二人。





     ねぇ?
     繋いだ指先が何時か離れてしまうなんて
     どうしてあの時の私達に知る事が出来たんだろう。











     魔法使いは、居る?
     神様は、居る?
     仏様は、居る?









     「居ないんじゃねぇ?」

     「そっかな?」

     「居ねぇよ。居る筈ない。」

     「なんで?」

     「もし居たらさっ…をこんな目に合わす訳ないじゃん。」

     「敏弥っ…」

     「を苦しめてる時点で、神様も仏様も居ないっ……魔法使いだって、居るもんかっ…」









     貴方は優しい人。
     何時だって、私のために泣いてくれた。
     私のためだけに、苦しんでくれた。






     ねぇ?
     そう言ってる貴方が、誰よりも一番に居て欲しい事を願っている事。
     私は知ってたんだよ?
     きっと私以上に、貴方は望んでいたよね?
     居ないと言い切ったのに、誰よりも居て欲しいと想っていたよね?
     私のためだけに。









     愛しさが、こんなにも泣きたくなる事なんて。
     優しさよりも、こんなに激しく自分を掻きたてるなんて。
     壊される恐怖を味わうなんて。
     私、知らなかったよ。








     貴方の愛はただ、真っ直ぐで。
     何時だって、私だけに向けられていた。
     私はソレを受け止めながら
     何時だって、泣いて笑って、


     貴方を失う恐怖に脅えながら
     それでも貴方を求める愚かさを笑いながら



     貴方の幸せを願わずにはいられなかった。







     何時か、私を失う日が来た時。
     貴方がそれでも幸せであるようにと。



     笑っていられるように、と。













     「っ……」





     喉の奥から搾り出すような、私を呼ぶ声。
     指先は、力を込めすぎて真っ白。
     小さくなった毛布の塊は、微かに震えていて。
     私に、私の願いは叶えられなかったと、痛い程に教える。









     泣かないで。
     泣かないで。
     どうかもう、私のために泣かないで。










     どうか私のために、
     貴方の全てを閉じ込めないで。
     私との思い出を、どうか辛い事だなんて想わないで。
     私と愛し合った日々に、囚われないで。











     もし、魔法使いになれるのなら。
     何時だって、笑顔の下に涙を隠した貴方を見て、私が想った事。











     貴方以上に、
     私は魔法使いになりたかった。
     きっと絶望を抱えてしまうと解っていたから。
     私を失った貴方が、
     明日を願わないって、知っていたから。
     私との日々に囚われるって、知っていたから。






     私は、魔法使いになりたかった。












     「もし、魔法使いになれるとしたら……はどうしたい?」

     「敏弥はどうしたいの?」

     「俺はね?今すぐを幸せにしたい。」

     「敏弥っ…」

     「を苦しめるモノ、全て取り払ってっ……を世界中で一番の幸せ者にしたい。」

     「敏弥……」

     「そんな魔法、掛けたいな?」

     「……っ…やだっ…そんなクサイ事、言わないでよっ……」

     「あっ!もしかして、惚れ直した?」

     「馬鹿っ…」

     「照れるなよー★」














     私の幸せを、一番に願っていた人。
     私を苦しめているモノを全て取り払ってやりたいと、泣いた人。
     居る筈のない、魔法使い。
     それでも貴方は私のために、そう願ってくれた。
     魔法を、信じたいと想ってくれた。













     あのね?
     私もね?
     敏弥を幸せにしたいって、想ったよ?
     敏弥を苦しめるモノ、全て取り払って。
     何時だって笑えるように、苦しくないように。
     そんな素敵な魔法を敏弥に掛けたいって、想ったんだ。







     明日を笑って、迎えてくれる事を。
     例え、私がその日々に居なくても。
















     愛してる。
     愛してる。
     もう、貴方に触れられないけれど。
     もう、貴方に触れて貰えないけれど。
     愛してるの。















     貴方の腕に抱き締められると
     何時だって、温かさと愛しさに包まれているような気がした。
     時間を止めてしまいたいだなんて。
     永遠を夢見たなんて。
     ずっと言えなかったけど。
     ホントはずっと、願っていた。
     貴方以上に、愚かなまでに。
     私は、貴方との日々を失いたくなかった。
     繋いだ指先を、解きたくなかった。
     そう、願っていたの。





     あの冷たいシーツの上で。













     敏弥。
     敏弥。













     どうか
     私との出逢いを悔やまないで下さい。
     愛した事を、悲しまないで下さい。
     過ごした日々をどうか、要らないなんて想わないで下さい。
     時間を止めたいだなんて、
     時間を戻したいだなんて、
     どうか、そんな愚かな事を願わないで下さい。
     明日なんて要らないなんて
     絶望しか無い明日なんて要らないなんて
     どうか、どうか、
     そんな苦しい事を叫ばないで下さい。








     叶えられない願いは、貴方の流す涙を刃に変えて、私を突き刺す。








     ねぇ?
     時間は残酷だねって言ったの、
     私だった?それとも敏弥だった?
     どんなに悲しくても、辛くても、止まらない時間は
     私の上にも、貴方の上にも、
     変わらない速度で流れてゆくね?










     いっそ、時が止められる魔法が使えたら。
     貴方は泣かなかった?
     こんなにも、苦しまなかった?
     残酷な現実を、知らないままでいられた?














     「このままっ…離したくねぇよっ…」

     「敏弥っ…敏弥っ…!」

     「いっそ、二人っ…融けちゃえばいいのにっ……」

     「うんっ…敏弥ぁ…っ…」

     「融けてっ…一つになっちゃえばっ……こんなに苦しくないのにっ……」















     繋いだ指先を
     どうか離さないでと泣いた夜。
     私は、貴方と一つに溶け合う夢を見た。















     ねぇ?
     人間の身体って、
     一体どれ程の熱さを与えれば
     融けてしまうんだろう?
















     あの日
     貴方と一つになった瞬間。
     私と貴方、同時に融けてしまったのなら
     この繋いだ指先はきっと、離れなかったよね?







     二人は、一つになったよね?














     「もうっ…しか要らねぇっ…何も、要らねぇよっ……」

     「敏弥っ…敏弥ぁ…っ…」

     「どうしたらっ…一つになれるんだよぉ…っ…」

     「敏弥っ…」

     「どうしたらっ……俺の願いは、叶うんだよっ…」

     「……っ…」

     「どうしたらっ…を幸せに出来るんだよっ……教えてくれよぉ…っ…」















     冷たいシーツを熱くさせて。
     滴る汗に塗れて。
     愛を、重ねあった時間。










     愛おしくて。
     唯、愛おしくて。
     互いに一つになる事を、夢見て
     互いの中に融けてしまう事を、望んで
     何時までも重なり合っていた、あの夜。









     泣きながら、貴方が言った言葉。
     泣きながら、ソレを受け止めるだけだった私。









     叶えられない願いは、どうしてこんなに残酷?











     「っ…っ…」

     「敏弥っ…敏弥ぁっ…」










     名前を呼び合う。
     指先を繋ぐ。
     一つになる。










     それでも一つに融け合えない、私と貴方。
     それでも一つになりたいと願う、愚かな二人。










     ねぇ?
     私の願いは唯一つ。
     貴方が私を幸せにしたいって言ってくれたように。
     私も貴方を幸せにしたいんです。






     私を幸せにしてくれた、あの笑顔を
     取り戻したいんです。
     笑える明日を、与えてあげたいんです。











     神様。
     仏様。
     魔法使い様。
     私の声は、聞こえますか?












     私に、その力を下さい。
     一つだけでいいんです。
     どうか魔法を使える力を、私に下さい。













     そのために、敏弥が私を忘れてしまっても。
     私を愛した事も、失って泣いてくれた事も。
     何もかも忘れてしまっても。
     私は構わないから。













     このまま全てを閉ざしたまま、生きてゆく彼を見るぐらいなら。
     私だけを愛したまま、絶望を抱えてゆくのならば。
     出逢った事も、愛した事も、彼が悔やむ前に。
     どうか、神様。
     どうか、仏様。
     どうか、魔法使い様。
     私に魔法を掛ける力を、与えて下さい。














     この人が笑って、明日を迎えられるように。
     十四回目の朝が、来る前に。
















     貴方の握り締める指先は、白いまま。
     そして私の声は届かないまま。













     私が、貴方を愛する想いも
     貴方が、私を愛する想いも
     全部、そのまま。













     聞き届けられない私の願いは、
     貴方が私に放つ、想いと同じ。













     貴方の想いはもう、私に届かない。
     私の願いが叶えられないように。













     それでも願わずにはいられない。
     私がこの場所から離れられないように。
     貴方が涙を止められないように。












     私の願いは、私達が叶えられなかった永遠を旅する。

















     ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

      このお話は、『レッテルパラドックス』の未邑さまが書いたお題、『明日に変わる願い』から
      私が感じた想いを形にしたモノです。
      あのお話に出てくる敏弥に、私が感じて、切なく想った事を、小説という形を借りて
      書いてみました。
      もしかすると、意味不明だったかもしれません(爆)
      もしかすると、未邑さまの話を先に読んでいて、イメージが崩れたって想うかもしれません(泣)
      でも、許して下さい。
      私はあの話の中の敏弥を救ってあげたかったんです。
      私が、彼に魔法を掛けたかったんです。
      彼に、笑える明日を与えたかったんです。


      賛否両論、色々とあると想いますが。
      苦情は要りません(爆)
      そして、未邑さまにも許可を頂いていますので。

      もし、一つだけ魔法が使えるのなら
      私の望みは、ただ一つ。



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      xxxfake flowerxxx の或季さんから戴きました★
      彼女視点と合わせることで、私の書いたお話は完全なものになった気がします。
      独りよがりじゃない辛さ、切なさが痛いほど伝わってきます。
      こうやって世界を広げてくださった或季さんに感謝しています!
      素敵なお話、本当にありがとう御座いました!!

      20050310  未邑拝


            
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