もし、歌う事にしか、俺の存在価値がないとするなら。
      もし、歌う事だけが、俺の存在価値だとするなら。
      例え、歌う事だけが、俺の存在価値やとしても。
      そんなもんいらへんから、神様・・・

















      [ex] -  ive  e  augh


















      病室のアドが開く。
      カツ、カツ、カツと静かな足音が響き渡る。
      溢れかえった花の中に、新しい花が香る。
      花なんか持って来んでええ。
      誰も、の好きな花なんか知らんくせに。





      「京くん・・・、どうや?」





      振り返ろうと思って、やっぱり止めた。
      薫くんの声やて解ったから。
      薫くんは俺の返事を待たずに、の顔を覗き込んだ。
      真っ白な肌を指でなぞりながら、小さく名前を呼んだ。
      俺に聞かんでも、見たら解るやろ。
      どうもこうもあらへんわ。
      俺は、ベッドに横たわるを無言で見つめた。





      「京くんまた寝てへんのやろ?身体壊すで?」





      「・・・別に構わへん」





      「は俺が見とくから、少しは休みぃや」





      「ええ言うとるやん!!」





      俺は肩に置かれた薫くんの手を払い除けた。
      寝たくなんかない、寝れるわけないやん。
      俺だけが楽になるん、許されるわけないやん。
      なぁ、、今、どんな夢見とる?
      楽しい夢?嬉しい夢?幸せな夢?
      それとも、まだ、あの日の悪夢に捕まっとるの?






















   









   




      

      「・・・何しとんの?」





      「おかえり」





      それはちょうど1ヶ月くらい前の事。
      いつ雪が降ってもおかしゅうないくらい寒い、午前2時。
      仕事から帰ってくると、ドアの前でが蹲っとった。
      俺が急いで駆け寄ると、頭を上げてにっこりと微笑んだ。
      真っ赤になった耳に触れると、有り得んくらい冷たくて。
      さっき来たばっかりやない事だけは、簡単に解った。
      俺は急いで部屋のドアを開けると、を部屋に入れた。
      そのままリビングのソファーに座らせると、暖房のスイッチを入れた。
      家主の居なかった部屋は、外と同じくらい寒い。
      閑散とした部屋に、吐いた息が白く溶け込んだ。





      「何かあったん?」





      部屋の窓から外を眺めるに、そう尋ねた。
      だっておかしいやん?
      こんな時間に連絡もせぇへんで待っとんの、有り得んやん。
      携帯持っもんのやし、電話くらいすればええのに。
      部屋かて、何の為に合鍵渡したか解らへんやん。
      はグレーのコートを脱いで、カーテンを閉めた。





      「ねぇ、紅茶飲みたくない?実は美味しい・・・」





      「話逸らすなや」





      「・・・別に何もないよ?」





      「嘘や」





      「理由がなきゃ、会いに来ちゃ駄目なの?」





      この小悪魔・・・・。
      そんな顔されたら、無理矢理問い詰めたり出来ひんやん。
      何かあったんは間違いあらへんのに、何も出来ん。
      力になるとかいう以前に、聞き出すことも出来ひんのや。
      何となく、自分が不甲斐ないわ。





      俺は、少し不機嫌に床にゴロンと横になった。
      暖房が効き始めてんのに、床はひんやりと冷たい。
      何で不貞寝とかしとんのやろ、俺。
      彼女とセックス出来へんで凹んどる中学生みたいやん。
      ・・・この例え自体おかしい気ぃするわ。





      「京?隣、座っても良い?」





      「ダメ言うたら座らんの?」





      「立ってる」





      「アホ。座りぃや」





      俺が寝転がったまま顔をあげてそう言うと、は柔らかく笑った。
      俺の頭元にちょこんと腰を下ろす姿も可愛えの。
      は優しく、俺の少し痛んだ髪を梳きだした。
      頭撫でて貰うと気持ちええってほんとやな。
      の指が髪を通るたびに、あったかくなる気がする。






      ってな、何か小さいねん。
      身長とかやなくて、そら身長も低いっちゃ低いねんけどな。
      何かな、壊れそうやねん、全部。
      辛い事とか苦しい事とか、絶対外に出そうとせぇへんの。
      その小さな身体の何処に入るんかと思うくらい、自分の中に溜め込むねん。
      でもな、溜め込んどる事を、俺に気付かせんようにすんねん。
      必死に笑って、俺にさえ隠そうとすんねん。
      せやから、いつだってギリギリで張り詰めてて、壊れそうに見えんねん。
      幸せそうに微笑む今のも、俺にはそう見えんねん。





      「私さ、京の声、好きだなぁ」





      は寝転がった俺の顔を、横から覗き込んだ。
      細くて長い綺麗な人差し指が俺の唇をなぞる。
      俺はそれを口に含んで甘噛みした。
      が汚いて笑たから、綺麗にしたるわ、とそれを舐めた。
      




      「京の声、大好きだよ」





      「いきなり何やねん」





      「いきなりじゃないよ。ずっと思ってた」





      「の精神世界まで知るかい」





      半分嘘で半分本当。
      が何か隠しとんのは解んねん。
      俺に心配かけんようにしとんねんな。
      それがにとってええ事じゃないんも解っとんねんて。
      せやけど、肝心のそれが何なんかさっぱり解らへん。
      やっぱ漫画みたいに巧くいかんねんな。
      俺、推理とか苦手やし出来へんもん。





      「私さ、京にはずっと歌っててほしいな」





      「歌いっぱなしやったら疲れるやん」





      「疲れたら、私がマッサージしてあげるよ」





      「喉の?」





      「心の」





      「・・・アホ」





      暖房の設定温度が高かったんやろか?
      だって妙に顔が熱いねん。
      暖房下げに行こうかと思ったけど、やっぱ止めた。
      が寒いかもしらんし、とか言い訳してみたり。
      





      俺は覗き込むの頭を引き寄せて、そっと口付けた。
      触れるだけでええねん。
      それ以上してもうたら、それこそが壊れそうやから。
      優しく、壊さへんように、そっと、そっと。
      





      「ね・・・何か歌って?」





      「どこのガキやねん。子守唄歌ったろか?」





      「ん、何でも良い」





      「嫌やわ、恥かしいっちゅーねん」





      「歌うのがお仕事のくせに・・・」





      「それとこれとは別やねん」





      「歌って」





      「嫌や」





      「・・・ケチ・・・」





      「シバくで」





      俺の声で、歌で、が喜ぶならいくらでも歌ってやるわ。
      が喜ぶような歌とかあんま知らへんけど、それでも歌う。
      例えば子守唄とか。
      が眠れへんときに、枕元で歌ってやるんもええと思う。
      例えば賛美歌とか。
      が落ち込んどるとき、耳元で囁くように歌ってやるんもええ。
      例えば童謡とか。
      が泣いとるとき、母親みたいに歌ってたれたらええと思う。
      子守唄も賛美歌も童謡も知らへんけど。
      それでも、が好きや言うてくれた声で、歌ってやりたい。
      今はまだ、恥かしくて言えへんのやけど。





      「いつか・・・飽きるまで聴かせたるわ」





      楽しみにしてる、って首を傾けて笑った
      つい1ヶ月前の話やのに、酷く昔の事みたいに思える。
      どうしてやろ?
      あぁ、そうや。が笑わへんねん、1ヵ月前から。

















  

      「・・ッ・・・!!!」





      「京くん落ち着いて!」





      「何やねん、敏弥・・離せやッ!!が・・・ッ!!」





      「京くん落ち着きぃや!意識ないねんから無理に動かしたら危ないやろ!!」





      「せやかてどないすんねん!!が・・・ッ・・ッ!!」





      それは、酷いもんやった。
      事務所に移動中やってん、その車ん中でぼーっとしとった。
      助手席に乗っとった心夜の声にすら、すぐに反応出来へんくて。
      薫くんも堕威くん敏弥も井上も車降りてくのに、俺だけ動かれへんかった。
      フロントガラス越しに見える映像が、夢であればええと願った。
      





      いつもの通り道。
      その道は一車線で狭く、妙に裏道染みとって。
      こんな道誰も通らんから、好都合やったんやろか・・・?
      道に転がったは、今日の朝捨ててきた生ゴミと変わらんようやった。
      俺が無造作に捨ててきた生ゴミと、なんら変わらん扱いやった。
      両腕の自由を奪われた人形は、それでも自分を護るかのように身体を丸めて。
      真っ白で綺麗な身体にはいくつもの鬱血の痕。
      細い腕に異様なまでの存在感を放つ、縄。
      全身に飛び散った「犯された」白い証。
      昨夜から降り続いた雪が、薄っすら積り始めとった午前10時。





      「京くん!救急車呼んで!電話!!」





      「・・・・・・」





      「はよ電話したって!!」





      「ッ・・・!!!」





      急いで車を飛び降りた。
      触らんでも解った、の身体が昨日よりもずっと冷たいねん。
      何回名前呼んでも、どんだけ揺さぶっても目ぇ開けへんねん。
      俺を押さえつける敏弥と薫くんの声がする。
      せやけど何言われとんのかさえ、よう解らんかった。
      捕まれた腕を必死に振り解きながら、を抱きかかえようとした。
      薫くんの怒鳴る声、心夜が誰かに電話をする声、堕威くんが俺を呼ぶ声。
      





      「せやかてどないすんねん!!が・・・ッ・・ッ!!」





      誰がこないな事、誰にこないな事、とか考えもせんかった。
      唯々、を助けなあかんと思った。
      唯々、俺を独りにせんといてと思った。
      その時は、これが邪推なんやと言うことにすら、気付いてなかった。
      病院で俺はガキみたいに何度も何度もいつ目が覚めるんか医者を問い詰めた。
      傷自体は酷くあらへんのに目が覚めへんのは、心が起きるんを拒否しとるんやて言われた。
      何回聞いても、医者の答えは同じやった。





































      
      「ごめん、薫くん・・・」





      「・・・無理したらあかんよ?」





      薫くんは俺の頭をポンポンと叩いて、苦笑い交じりにそう言うた。
      うん、と返事したんを確認すると、持ってきた花を活け始めた。
      部屋のいたる所に飾られた花。
      みんなが気ぃ使うて持って来てくれたんやけど、全然綺麗に見えへん。
      が目ぇ覚まさんのやったら、こんな花だって邪魔なだけや。
      全部枯れればええのにと思った瞬間、薫くんが持ってきたピンクの花の花びらが落ちた。
      





      「なぁ、薫くん。、綺麗やと思わん?」





      「・・・京くん?」





      「顔かて身体かて傷一つあらへんで、綺麗やと思わん?」





      「・・・そうやな」





      「なして起きてくれへんのやろ?」





      「・・・・・・」





      俺はそっとの顔を両手で包み込んだ。
      こんなに温かいのに、あの日とは全然違うのに。
      せやけどは、の心は、あの寒い日に置き去りにされたままなん?
      なぁ、どうやったら迎えに行ってやれるんかな?
      なぁ、どうやったらもう1回笑ってくれるんかな?      
      俺はそのまま開くことの無い瞼にキスを落とした。
      動く事のない頬に、言葉を発する事のない唇に、何度も何度も。
      物語やったら姫さんはここで目ぇ覚ますはずなんにな。
      あの日護ってやれんかった俺じゃ、の王子にはなれんっちゅう事やろか。
      せやったら、それでもええねん。
      他に王子がおるならそれでもええ、もう誰でもええねん。
      が目ぇ覚ますんやったら、それ以外何も望んだりせぇへんから。





      「京くん・・こないな時に悪いんやけど、明日・・・」





      「ごめん、薫くん・・・ごめん・・」





      「辛いんは解る。せやけどこれと仕事は別やろ?」





      「ごめん・・もう、歌えへんねん」





      「・・何言うてんねん。酷かもしれんけどな、自分の立場ぐらい解っとるやろ?」





      「せやかて無理やねん・・・歌えへんねん・・・」





      無責任て怒られても、自分勝手やて詰られてもええ。
      もう、歌えへんねん。
      俺な、が歌ってて言うたとき、歌ってやれへんかってん。
      きっと、のSOS信号やったんや。
      ほんまはずっと信号を送ってたんかもしらん、俺が気付いてやれへんかっただけで。
      こないな俺が歌う資格なんて、もうあらへんやろ?
      誰のためにどんな顔してどんな歌歌うねん。
      一番届いてほしい人には、届かへんのに。





      「許したって・・・ごめん・・・」






      なぁ、、俺の声聞こえる?
      ずっと歌とってて言われたとき、俺な、めっちゃ嬉しかってんで?
      答えられへんかったけど、めっちゃ嬉しかった。
      のためやったら、歌ってもええて思た。
      歌う事ってな、俺の存在価値やと思っとってん。
      歌わへんかったら、誰も俺の事なんか見てくれへんやろ?
      俺が俺でおるためには、歌わなあかんのやと思っとった。
      歌われへんようなったら、全部なくなんねん。





      「京く・・・」





      「がおらんと、歌えへんもん・・・・」






      でもな、それでもええ。
      だって、がおらんと歌われへんねんもん。
      が笑ってくれへんのに、歌われへんよ。
      なぁ、もう・・・ライブの後に笑顔で抱きしめてくれへんの?
      最高やったって、抱きついてくれへんの?
      俺の声が大好きやって、髪撫でてくれへんの?
      ずっと歌っとってって、キスしてくれへんの?
      なぁ、?答えて?
      俺の声が聞こえるんやったら、頼むから答えてや。
      がおらんと俺、歌われへんよ・・・。





      
      
      もし、歌う事にしか、俺の存在価値がないとするなら。
      もし、歌う事だけが、俺の存在価値だとするなら。
      例え、歌う事だけが、俺の存在価値やとしても。
      なぁ、神様?俺、そんなもんいらへんよ。
      存在価値なんていらへんから、全部返すから、頼むわ・・・
      を俺に返して下さい。























      BE HAPPY・・・?



      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

      あんまり長い間ネタだけ貯め過ぎて、何が何だか・・・。
      これだけ主人公の出てこない話も滅多にないんじゃないかと・・・。
      反省点が多すぎて振り返りきれましぇーん(死)

      少しでもお気に召しましたら、感想下さると嬉しいです!




      20040306   未邑拝









      









      
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