早く終わりがくればいい。
      俺の願いが、叶うのなら。
























      笑顔に潜む弱き涙























      硬いブラインドを上げる。
      降り注ぐ光は白く、眩しい。

    
      横になるベッドは、もう消毒の匂いはしない。
      染み付いた太陽の匂いと俺の匂い。
      そんなの、本気で望んでなんかなかったのに。


      三階から見える景色は酷く鮮明。
      切り取られた箱庭は世界の喧騒を遮断する。


      窓際に置いた小さな花。
      それはが持って来てくれた花。
      コップに溢れるくらいの水を入れて飾ってある。
      太陽光に乱反射してキラキラと光る。


      いつの間にか見慣れた此処からの景色。
      常緑の芝に大きな木の陰が落ちる。
      一番好きだけど、一番泣きたくなる景色。


      ――コン、コン


      「敏弥ぁ?入って良い?」


      「ぁ、どうぞー。」


      遠慮がちにドアから顔を出す
      俺は起き上がって椅子に座るように促す。


      「じゃーん!」


      「・・・何持ってきてんの。」


      が自慢気に取り出したのは、黒のシルクハット。
      はそれを被って笑った。


      「トリック・オア・トリート?」


      ぁ、そっか。
      今日はハロウィンなんだ。


      「何それ。魔女?」


      「吸血鬼ですっ!」


      「そんなちっちゃい口じゃ、血ぃ吸えなそー!」


      「失礼ねっ!」


      がイーっと歯を出してみせる。
      犬歯があるわけでもない、綺麗な歯。
      それのどこで血を吸うのかな。
      

      「もー笑うなっ!」


      俺はがする吸血鬼の真似に笑いが止まらなくて。
      怒ったの顔も可愛いな、なんて思っちゃったりして。
      そんな自分に、また、笑えてきた。


      にはの生活があるはずなのに。
      時間を見つけてはよく此処に来てくれる。
      俺はそれが嬉しくて。
      無理して来なくて良いって、言えずにいる。


      「トリック・オア・トリート?!」


      「トリートトリート!」


      怒ったように聞くに思わず苦笑い。
      俺は横にあったいちごミルクの飴を渡した。
      いつだったか、すげぇ甘いもん食いたくなって買ったやつ。
      

      それをに手渡す。
      はありがとうと言って吸血鬼のまんま笑った。
      笑った顔が、降り注ぐ太陽光で霞んで見えた。


      の笑った顔がすげぇ好き。
      なんか、全てを考慮したような笑顔じゃない。
      嬉しいから、楽しいから笑う。
      本能に従順な、何の欲もない笑顔。


      「ぁ、この飴溶けてる!」


      「うそー?ぁー・・・ずっと窓際に置いてたからかも。」


      「・・・賞味期限大丈夫よね?」


      「あと一年くらいいけるっしょ。」


      「・・・敏弥も食べて。」


      「ぇー・・・?」


      「私だけお腹痛くなったら嫌じゃんっ!」


      「俺だってヤだしっ!」


      怒ったように笑う顔。
      困ったように笑う顔。
      俺はこんな綺麗に笑う人を、他に知らない。


      「んー・・・甘い。」


      「いちごミルクって懐かしい味するよね。」


      「うん。」


      でも俺は知ってる。
      君がいつも一人で泣いてること。


      「飴、最後まで舐めとく派?」


      「んーん、途中で噛んじゃう。」

 
      「ははっ、さすが吸血鬼じゃん!」


      「・・・そんなとこ褒められても嬉しくないし。」


      この窓から見える一番大きな木の下。
      この部屋を出た後、いつもはあそこにいるよね。
      気付かれないとでも思ってた?
      あれは、俺が一番好きな景色だから。


      小さい身体をさらに小さく丸めて。
      木洩れ日の下で、涙を流す君を見てる。
      

      涙を拭ってあげたいと思う。
      でも泣かせてるのは俺だって解ってるから。
      あんな優しくて痛い涙の意味を、考えたくない。
      だから、見て見ぬふりしか出来ない俺を許して。


      ねぇ、どうやったらの涙を止められる?
      俺が死ねば、もう泣くことはなくなるのかな?
      俺さえいなくなれば、の涙は枯れてくれる?
      
      
      だったらね、もう少しだから。
      もう少しだから、それまで俺の傍にいれくれないかな?
      君の涙が枯れる日は、きっとそう遠くはない未来だから。
      だけど、俺はその日を一緒に迎えることは出来ないから。
      こんな我が儘な俺で、ごめんね。


      「はい、敏弥もこの帽子かぶって。」


      「はい?」


      「お、似合うねぇー。」


      「・・・そりゃどーも。」


      「はい、アレゆってゆって!」


      「・・・トリック・オア・・・トリート?」


      「吸血鬼だぁー!トリート、トリート!」


      「・・・わざとらしい演技。」


      「うっさい!」


      ねぇ、こんな何気ない会話なのに、泣きそうになっちゃうよ。
      嬉しくて、幸せで、幸せで、幸せで。
    

      もっと、もっともっと一緒にいたかったな。
      こんな日がくるなら、もっと一緒にいればよかった。
      全部の時間をもっと大事にしてればよかった。
      一個も忘れずに、抱きしめてればよかった。

 
      俺の中に残ってる少しの記憶が、今の全てで。
      やっぱちょっと寂しいな。
      

      もし時間が戻せるなら、また同じ時間を過ごしたい。
      今度は、もっと大事に覚えておきたい。
      一人になっても、寂しくなんてないように。


      「はい、どーぞ。」


      「・・・お菓子?」


      「クッキーあげるからイタズラしないでね、吸血鬼さん?」


      「これ手作り?」


      「けっこう上手でしょ?」


      「すげーきれい。」


      俺の為に作ってくれたのかな?
      自惚れちゃうよ?
      なんてね。


      そんなこと考えることですら罪。
      俺はに想いを伝えることなんか許されてない。
      

      「気が向いたときにでも食べてね。」


      「絶対食う。ありがと。」


      「ハロウィンだからね。」


      もうすぐいなくなる俺に、一体なにが出来る?
      に想いを伝えて、一体なにをしてあげられる?
      

      最期の願いなんて、史上最高のエゴだ。
      そんなもん残していけるわけがない。
      

      だけど、綺麗な笑顔でが俺を見るから。
      泣き腫らした目を隠して笑うから。   
      愛しい気持ちだけが一人歩きしそうになる。


      「ぁ、もうそろそろ帰らなきゃ。」


      「もうそんな時間?」


      「うん、今日は途中で抜けてきたから。」


      「・・・そっか。」


      ねぇ、好きだよ。
      大好きだよ。


      「また時間あるとき寄るからね。」


      「無理すんなよ?」


      「無理してないよ。」


      「身体とか、壊すなよ?」


      「はいはい。」


      そんな顔で笑わないで。
      胸が苦しくなるから。


      「ぁ、その帽子あげるから。」


      「ぇー?何に使うんだよ。」


      「それかぶって女の子でもナンパしたらー?」


      「ぜってー誰も引っ掛かってくんねぇって。」


      好きだよ。
      のことが、好きだよ。


      「じゃあ、またね。」


      「ん・・・ありがと。」


      最後の最後まで壊れない笑顔。
      君はどんな気持ちで笑ってる?
      聞いてあげられなくて、ごめんね。


      閉まったドアが静寂を閉じ込める。
      白くけぶる部屋が、痛かった。
      

      最初から声が出なければよかった。
      何度も何度も、想いが溢れそうになる。
      飲み込んだ言葉が身体中を駆け巡る。
      

      俺の想いはまるで毒。
      出口を求めて身体中に浸透していく。
      何も言えずに、毒に侵されていくばかり。


      「・・・好きだよ。」


      大きな窓から景色を見下ろす。
      常緑の芝生に大きな影を落とす一本の木。
      その下に、君がいる。


      「・・・俺の・・・」


      小さな肩を抱きしめて、君が泣いてる。
      切り取られた胸が締め付けられる綺麗な景色。
      降り注ぐ太陽が、君だけを照らしてる。


      君の涙が枯れますように。
      君の笑顔が見れますように。
      常緑の芝生に影を落とす、大きな木の下で。
     

      早く終わりがくればいい。
      俺の願いが、叶うのなら。

 
      「・・・俺の、愛しい人。」


      愛してるよ。
      ずっと、ずっと愛してるよ。


      泣かないで。
      俺の、最愛の人。





















  
      BE HAPPY・・・?
     
      ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

      そんなこんなでハロウィンですね。<どんな?
      話の流れのハロウィンネタに多少無理矢理感が感じられますが。
      所詮はこんなレベルなんです、私の書くもんなんて・・・(;´Д⊂)
      状況はお好きに設定してみてください☆

      少しでもお気に召しましたら感想くださると嬉しいですv



      20051030   未邑拝



 
     
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