夢、現、幻。
      何処におっても独りにせんで。
























      シガレット
























      夢を見た。
      俺等が初めてキスしたときの夢。
      もう何年も前のことで、なんも覚えてへんけど。
      

      覚えてへんはずなんに、妙にリアルやった。
      堕威くんの唇の形とか、あったかさとか。
      頬に当たる睫毛がこそばゆかったとか。
      それから。


      「お、目ぇ覚めたん?」


      目ぇ開けとったんや、俺。
      堕威くんの声で一気に現実に引き戻される。


      「よぉ寝とったなぁ」


      「・・・何時?」


      「1時」


      「・・・昼の?」


      「夜の」


      重い頭を必死に動かしてみる。
      確か、昨日一日中リハやっとって。
      帰ってきたんが朝の10時くらいやった気がする。
      もしかせんでも15時間くらい寝とったんやろか。


      んで、今日は器材の調整とチェックやるはずで・・・
      何時集合やったっけ・・・?


      「・・・俺・・・寝過ごした?」


      「今から行くなら7時間遅刻やな。」


      ぅわー・・・薫くん怒るやろな。
      堕威くん心配しとるやろな。
      薫くんの次くらいに心配性やし・・・

 
      堕威くん心配しとるやろーな・・・?


      「・・・なんでおるん?」


      「んー?」


      「・・・ここ俺んち。」


      「半分俺んちやし。」


      「・・・なして。」


      「いまさらやん。」


      まぁ、確かに。
      や、そーやなくて。


      「仕事は?」


      「器材トラブル続きでな、解散になってん。」


      「俺は?」


      「なんもでけへんかったし、別にえぇんやない?」


      「・・・」


      「すぐ解散やったし、気にせんでえぇやろ。」


      えらいテキトーな口調やから、まぁえぇかと思った。
      器材トラブルはつきものやし、大した問題やない。


      「薬飲んだん?」


      「んーん。」


      「にしてはよぉ寝れたやん。」


      「・・・まぁな。」


      寝返りを打つと、堕威くんの後頭部が見えた。
      ベッドによっかかって左膝を立てとぉのが見える。
      赤い髪が目の前にあったから触ろうかと思った。
      でも、手ぇ動かすのが面倒やからやめた。


      不眠の気がある俺は、度々睡眠薬に手を出しとって。
      堕威くんはそれをあんまよぉ思っとらんらしい。
      心配してくれとぉのは解っとぉ。
      でもそれで眠れるかっちゅったらそーやない。


      でも別に責めるつもりやない。
      心配してもらえるんは、純粋に嬉しい。
      ただ、それだけ。


      「なんか疲れとったん?」


      「んー・・・?」


      「京くんが爆睡するとか珍しいやん。」


      「ん…なんやろな?」


      「あんたに解らんのに俺に解るかい。」


      「そらそーやわ。」


      ふいに煙草の匂いが鼻を掠める。
      なんかよー知らんけど、嗅ぎ慣れた匂い。
      煙草の匂いとか、どれも同じやと思っとったのに。
      なぜかこの匂いは判る。


      「あ、煙い?」


      「や、別に・・・」

 
      堕威くんが振り向いてそう聞いた。
      空気が動くたび濃くなる香り。


      嫌いなわけやない。
      でも好きなわけでもない。
      ただ、懐かしい匂い。


      「堕威くん、煙草なん?」


      「なちゅらるあめりかんすぴりっと。」


      「ふーん・・・。」


      堕威くんは、煙を吐きながら答えた。
      白い煙はふわふわ部屋を漂って、消える。
      匂いだけが空気に溶け込む。

    
      「1本もろてえぇ?」


      「えぇけど、これでえぇのん?」


      「・・・ん。」


      差し出された箱から一本抜き出す。
      指触りになんとなく違和感を覚えた。


      ベッドに寝転がったまんま、堕威くんに火をつけてもらう。
      強い火に当たった先端がジジッと音を立てる。
      少しだけ吸うと、中の葉に火が点いた。


      目を閉じて煙を深く吸い込む。
      煙は喉を通って肺に充満する。
      白く曇ってくイメージ。


      数秒間肺に溜め、そのまんま吐き出す。
      白い煙は堕威くんの吐いたそれと高い場所で交わった。


      「旨い?」


      「ぁー・・・」


      「微妙そーな顔やな。」


      なんかがちゃうねん。
      こんなんやない。
      もっと、なんか・・・


      「疲れとんの?」


      「は?」


      「眉間、皺寄っとぉよ。」


      「・・・」


      「可愛ぇ顔がだいな・・・」


      「可愛ぇゆーな。」


      ふかすように煙草を吸う。
      煙と一緒に口ん中に味が広がる。
      慣れん、苦い味。


      こんなんやない。
      もっと、心臓がきゅっとなるような。
      なんちゅーか、もっと・・・


      「堕威くん。」


      ん?と振り向いた堕威くんと目が合う。
      ねだるのが得意なわけやない。
      堕威くんの勘が鋭い所為。


      柔らかく堕威くんの唇が重なる。
      重なったとこがあったかい。
      頬に睫毛が当たってこそばゆい。
      それから。


      「ぁ・・・これや。」


      「ん?」


      「思い出した。」


      「なんをー?」


      もしかしたら忘れとったわけやないんかもしらん。
      ただ、それに慣れてしまっとったんかもしらん。
      夢に見るくらいに。

    
      「夢、見てんやんか。」


      「夢?」


      「堕威くんの夢見た。」


      「どんな?」


      頭がぼぉっとする。
      久しぶりに寝すぎた所為。
      そん中でやけにリアルなもの。


      「煙草・・・」


      「は?俺の煙草の夢見たん?」


      初めてのキスは煙草の味がした。
      堕威くんの煙草の味かと思っとってん。
      でも、なんかちゃうねん。

  
      堕威くんの煙草は苦くて。
      こんなキスやったらよーいらん。


      初めてのキスは、煙草を吸った堕威くんの味がした。
      ちょっと苦いけど、心臓がきゅっとなる味。


      「煙草、吸うてみたらわかるかと思ってん。」


      「わかったん?」


      「違た。」


      この煙草吸っとる奴やったら誰でもえぇわけやない。
      誰とでもあんなキス出来るわけやない。
      あれは、堕威くんのキスの味。


      きっと、世界にいっこしかない味。
      んで、それが好きやと思うのも、世界で俺だけ。
      ・・・やったらえぇなぁと思う。


      「なぁ・・・」


      目を閉じて、堕威くんの唇にキスをした。
      堕威くんにとっても、心臓がきゅっとなる味やったらえぇな。
      

      寝ても覚めても、傍には堕威くんがおる。
      独りになる時間なんかこれっぽっちもあらへん。

   
      「勝手に夢に出てくんなや。」


      「あんたが勝手に出したんやろ。」

  
      「堕威くんが悪いねん。」


      堕威くんが夢ん中にまで出てくるから。
      いっつもいっつも視界には堕威くんがおる。
      離れられんくなる。


      「はぁ?どんな夢見てん?」


      「・・・」


      「おーい、京くーん?」


      「・・・・・・ゅめ。」


      「ん?」


      初めてキスしたときの夢。
      こんな夢見たとか、口が裂けてもゆわれへん。
      だって、俺がえらい堕威くんのこと好きみたいやんか。


      「堕威くんが俺に煙草の火ぃ押し付ける夢っ!」


      夢に出てきた奴は自分のことが好きなんやて。
      昔の人はそう信じとったらしい。


      やから、俺の夢に出てきた堕威くんは俺が好きってこと。
      好きやって気付いてもらいたいんやって。
      夢に出てくるくらい、愛しとるってこと。
      ・・・やったらえぇな。


      「そらぁーすまんかったなぁ。」


      「・・・ん。」


      「痛かったやろ?」


      「・・・ん。」


      優しく笑って頭を撫でてくれる。
      なんか恥かしくなって俯いてしまう。


      「ごめんな?」


      後頭部に回された手で頭を引き寄せられる。
      いつものキスは、やっぱ苦くて心臓がきゅっとなった。
      夢に見たのとおんなし味。


      「・・・ん。」


      夢、現、幻。
      何処におっても独りにせんで。


      夢に見るくらい、俺は堕威くんのものやから。






















   
      
      Lies Or Trueth・・・?


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      特に意味の無い、寝起きの悪い京くんが書きたかった。
      堕威くんの煙草は、今もそれかは知りません。<構いません
      思うとこは其々だと思うので、お好きに変換しちゃってください。

      少しでもお気に召しましたら感想下さると嬉しいです★



      20050919   未邑拝

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