腐って、腐って、腐って、甘く溶ける。
      最高の瞬間なんかもしらん。




















        ブラック・スイート
























      腹減った。


      目が覚めたらそこは見慣れたベッドの上。
      そういえば昨日の夜、帰ってすぐ寝たんやっけ。
      堕威くんも隣に寝とったはずなんにおらへんし。
      

      独りの空間が好き。
      せやから人の家はあんまし好きやない。
      人を自分の家に上げんのも好きやない。
      でも堕威くんは別。
      堕威くんからは、俺の匂いがするから。


      堕威くんの匂いは好き。
      でもそれは俺の匂いと混ざりあうものやないから。
      お互いを否定しぃひん存在。
      包み込んでもらえるような、そんな匂い。


      仕事夕方からやから、今日は昼ちょい前くらいに起きて。
      着替えるん面倒やからパジャマでゴロゴロして。
      何か気持ちえぇから羊のぬいぐるみなんか抱っこして。
      少しだけ堕威くんの匂いがするベッドに頭を伏せた。

     
      羊に顔を埋めて改めて空腹を感じた。
      昨日の夜何も食ってへんかったもんな。

     
      とか思っとったらベッドからも見えるドアが開いた。
      そっから出て来た赤髪のでっかい奴。
      トイレから帰って来た赤髪になんどなーく目配せしてみる。


      「ん?京くんもトイレ行きたかったん?」


      「ちゃうわ、アホ」


      デリカシー無い男やなぁ。
      それなのにかっこえぇって思う俺は、多分洗脳されとる。
      なんか変なオーラ出とんねん、堕威くんから。
      いっつも一緒におるから、それに中てられたんやと思う。
      ま、そんなことどーでもえぇけど。


      「堕威くん・・・腹減った」


      「朝飯?昼飯?」


      「昼」


      「りょーかい」


      そう言って台所に入ってく堕威くん。
      ベルト外してチャックも開けっぱのジーンズ。
      引っ掛けただけの昨日着とったパーカー。
      ちょっとマヌケな後姿。


      俺より遅寝て、俺より早起きとるはずなんに。
      ベッドでゴロゴロしとるだけの俺の我が儘よぉ聞いてくれんなぁって。
      俺やったら自分でせぇって絶対キレるわ。


      料理するのが嫌いなわけやない。
      そら、好きでもないんやけど。
      唯何となぁーく、遅起きた昼近い朝は甘えてみたくなる。


      「京くーん・・・冷蔵庫何も入ってへんやん」


      「入っとるって」


      「水とふ菓子とマヨネーズ(小)しか入っとらんがな」


      「ふ菓子は開けたら冷蔵庫入れんとすぐ湿気るねん」


      「いや、誰も聞いとらんし」


      「今、『ふ菓子なんか最初っから湿気とるようなモンやろ!』って思ったやろ」


      「いやいや、何言うとんねん、自分」


      「失礼な奴っちゃなぁ。言うとくけどな、ふ菓子は奥が深いねんで?」


      「人の話聞けや・・・」


      「で、昼飯どーなったん?」


      「・・・ふ菓子水で煮込んでマヨネーズで和えたもんに決定しました、たった今」

 
      「センス最悪やな」


      「ふ菓子とマヨネーズで何か作れって方がオカシイやろ!」


      「ま、えぇわ。ソレ作ってや」


      「はぁ?!」


      「何や?」


      「寝ぼけとんのか?!食いモンちゃうがな、それ!」


      「食いモンやん」


      「人間としてどーよ?!」


      「だって堕威くんが作ってくれるんやろ?せやったら俺、何でも食えるもん」




















      時刻は12時14分と数秒。
      氷をいっぱい入れたグラスに水を注いで。
      汗をかいたグラスを指でなぞると、氷がカランと音を立てた。


      ベッドの上には大きな皿に盛られたふ菓子。
      水分が飛んでまったように少しカチカチで冷たい。
      湿気るよりマシやって言うたら、横で堕威くんが笑った。


      「また『ふ菓子なんか最初っから湿気とるようなモンやろ!』って思ったやろ」


      「思ってへんって」


      「ふ菓子はな、湿気とるんとちゃうねんで?やぁーらかいねん」


      「食いながら話さんと・・・」


      「ガキから年寄りまで万人が食えんねんで?」


      「ほらほら・・・零しぃな」


      「俺の話聞きよるん?」


      「あんたこそほんま人の話聞かん子やな」


      えらい気持ちえぇ日。
      植物は俺。
      カーテンの隙間から射すのは日光で、グラスに入ったのは水。
      栄養は堕威くんでベッドは俺が埋まった地面。
      立派な光合成。


      「あ・・・」


      「あ?」


      「眠いんやったわ、俺」


      「・・・忘れとったん?」


      「うん、今思い出した」


      「・・・そーゆーもんか?」


      「ん。・・・寝る」


      「や、あかんやろ」


      「あんな、人間、人生の1/3寝て過ごしとんのって」


      「・・・で?」


      「あ、2/3やっけ?」


      「どっちでもえぇがな」


      「睡眠は大切やっちゅー話。オヤスミ」


      「あかんって。夕方から仕事やん」


      「まだ昼やん」


      「昼の次は夕方やん。風呂入って用意せなあかんやろ」


      「我が儘やなぁ」


      「どっちがやねん」


      1個でも足りないと花を咲かせへん植物は弱い。
      何となく、俺もそれに似とるかもしらん。
      太陽と水と好きな空間と堕威くんと。
      水だけじゃ7日間しか生きれへんらしいけど、堕威くんがおるなら8日は生きれる。
      植物より少しは強かに出来とんのかも。


      「あ・・・」


      「今度は何やねん」


      「えぇこと思いついたわ」


      「えぇこと?」


      「うん。仕事遅刻すればえぇやん」


      「それのどこが『えぇこと』やねん」


      「ちゃんと仕事行くとこ?休まへんねん」


      「・・・もう眠ぅて仕方あらへんのやろ?」


      「さっきからそうゆーとるやん」


      心地えぇ頭の痺れ。
      もし俺が植物みたいに酸素を作り出せるとしたら。
      少しは堕威くんにもこの心地良さが伝わるかもしらん。
      俺が堕威くんのおかげで生きれるみたいに、俺が堕威くんを生かせるんかもしらん。
      

      「二人して遅刻してったら何てゆわれるやろーな」


      「敏弥あたりに『えー二人って出来てんのー?』とかゆわれるんとちゃう?」


      「で、堕威くんは困るんや?」


      「京くんは困らへんの?」


      「別にー・・・わからへんわ」


      「まぁえぇやん、バレても」


      「・・・えぇのん?」


      「ナントカっちゅー俳優が最近男と結婚しとったやん?」


      「・・・関係ないやん」


      「その国にな、二人で逃げればえぇやん」


      「・・・逃げてどーすんねん」


      「結婚しよーや。で、日本人に見せつけたるねん」


      「・・・ただのノロケやんか」


      「幸せなときに幸せってゆーて何が悪いねん」


      「・・・はた迷惑な男やな」


      「俺等が愛し合っとけばな、逃げ道も希望になるんとちゃう?」


      「・・・恥かしいわ・・・」


      「自分に正直な男やねん、俺」


      何てことない昼下がり。
      テレビも音楽も点けへんのに優雅な気持ちになる。
      あったかすぎて頭に蛆が湧いたんかもしらん。
      さぞかし栄養たっぷりなんやろうな、俺の脳。
      

      果物は腐りかけがオイシイってゆうやんか。
      もし脳味噌が食えるんなら、多分それも同じ。
      腐りかけた脳味噌は吐き気がするほど甘いはず。
      クラクラするくらい甘美な匂いを漂わせる。
      腐って、腐って、腐って、甘く溶ける。
      最高の瞬間なんかもしらん。


      「きょーくん・・・寝んなって・・・」


      「・・・んー・・・」


      「マジで遅刻する気・・・っん・・・」


      えらい気持ちえぇ日。
      仕事に行きたなくて、またベッドに潜り込んだ。
      上から赤髪が起きろ起きろうっさい。
      あんまりうっさいから飛び起きて、そのまま口を塞いでやった。
      黒砂糖の甘くて懐かしい味がした。


      




















      




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      ウルトラほのぼの!!何の意味もないお話でした★
      たまーにはこんな昼下がりもあって良いかなと思って書いてみました(/∀\〃)


      少しでもお気に召しましたら感想下さると嬉しいですvV



      20041117  未邑拝








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