すれ違いとか、空回りとか、誤解とか。
そういうの全部、好きと同じなんやと思う。
1個の物語みたいやと思わん?
5
ページ前のバレンタイン
雑誌のインタビューの待ち時間。
硬いソファーに全体重をかけるようにドスっと座った。
黒光りするビニールを貼られたそれがギュっと音を立てた。
座り心地も最悪で、何かムカツク。
背もたれの隙間に落ちとったライターを思いっきり投げた。
そしたらドアの前で立ち話しとった薫くんの頭にクリーンヒットしてもうた。
キョロキョロしよる薫くんと目ぇ合わさんように、
顔を両腕で覆い隠した。
京くんやろ!って声も聞かんかった事にした。
あームカツクわ。
「どうしたん?機嫌悪いやん」
ギュっとソファーが唸る。
この微妙な音が、不快指数を上げる。
ソファーの左側が沈む。
堕威くんの声がしたけど、それも聞かんかった事にする。
だってイライラすんねん。
なんか、こう・・・モヤモヤする感じ?
何かムカツクから、寝たふりする事にした。
薫くんが、ダダっ子病発病?って笑った。
うっさいわ、と起き上がろうとして、やっぱ止める。
寝たふり続行。
ちゃんと喧嘩でもしたんとちゃう?
こんな堕威くんの言葉も、勿論聞かんかった事にした。
遡るは5日前。
このイライラにも原因はあるんやて。
その日、仕事あんのに一人だけ遅刻してん。
事務所のドア開けたら四人+一人。
何か大きな袋持ったと皆が楽しそうに話ししよって。
が今日来るって事、全然聞いてなくて。
別の意味で、遅刻した事をちょっとだけ後悔した。
「京くん来るの遅いで!」
俺を呼んだ薫くんの手には綺麗にラッピングされた箱。
薫くんの誕生日って今日やったっけ?
ちゃうか・・・よう見たらみんな持っとるやん。
今日は2月14日・・・何か特別な日やったけ?
呆けた顔をした俺の前で、手を上下させる。
その仕草ではっと我にかえった。
「まだ寝ぼけてるの〜?」
「寝ぼけてへんわ」
そう?と微笑んだはさっさと薫くんのトコに行った。
なにやら楽しそうに話しとるし。
薫くんがの頭をポンポンと叩いて苦笑いした。
は嬉しそうに自分の頭を撫でた。
それを見てた敏弥くんが俺も!とふざけての頭を撫でた。
子供じゃないんだから、と怒りながら笑う。
微妙な疎外感。
何かムカツク。
「じゃ、私、帰るね」
「え?も、もう帰るん?!」
「?だって全員揃ったから、始めなきゃでしょ?」
「そうやけど・・・せっかく会えたんに・・・」
「?変な京。いつだって会えるじゃん」
じゃあ、またね、と会釈まじりに帰っていく。
何か・・・素っ気無いよなぁ?
気のせい?
首を傾げながら薫くんと堕威くんの間の椅子に座った。
ふと左を見てみると堕威くんと敏弥が歓声を上げながら、
手の中の箱を開けよった。
そういえば皆持っとったな。
一緒に覗き込んで見ると、出てきたんは綺麗に飾られたチョコレート。
「さすがちゃんやな!売りもんみたいやん!」
「は・・・?」
さすがちゃんやな?どーゆー事や?
の手作りって事なん?
ちょい待てよ、皆同じもん持っとるよな?
全部の手作りって事なん?
てか、なんでこいつ等がの手作りチョコなんて持っとるん?
チョコ・・・手作り・・・全員分・・・・
・・・・う〜〜〜〜ん・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「今日バレンタインやん!!」
「何当たり前な事言ってるん?」
そうや!今日は2月14日やん!バレンタインやん!
彼女が彼氏にチョコあげる日やん!
言い換えるなら、が俺にチョコやる日・・・やんなぁ?
あれ?さっきと会ったよな?
話したよな?
何も・・・貰ってないんやけど・・・
「・・・・俺のは・・・?」
「え?!ちゃんに貰てないん?!」
「「「堕威ぃ!!!!!」」」
立ち上がって堕威くんを制止する3人。
何やねん、こいつ等。
それより、何でこいつ等にはあって俺にはないん?!
何でさっき会った時何も言わんかったん?!
そういえば、の態度おかしかったよなぁ。
「ちゃん、後で渡すつもりなんやない?!」
「そうそう!だって本命やし!!」
そうやんな。
が俺になんもくれん事は有り得んし。
俺はからの誘いの電話を待ちながら、仕事を始めた。
で、今に至る。
この5日間、とは全く連絡が取れへんし。
電話しても留守電、メールも返ってきぃへん。
何が「いつでも会える」やねん。
全然会えへんやん、嘘吐き。
あ〜ムカツク。
「あ、ちゃん」
たぬき寝入りしとった耳に、心夜の声が聞えた。
こんにちは、と5日ぶりのの声に飛び起きた。
そこにはドアの隙間から顔を覗かせるがいた。
!と呼ぼうとした瞬間、薫くんの声に邪魔される。
声に成れなかった言葉が、口先で息を潜める。
「じゃ、俺等ちょっと・・・」
薫くんは行くで!と他の3人をひっぱって出て行った。
やっぱあいつ等最近変や。
呆然とドアを見ていると、が俺の顔を覗き込んだ。
まだ眠いの?と笑うに、眠ないわ、とそっぽ向いて答えた。
さっきまで寝てたのに、との笑い声が聞えた。
不機嫌を装って、俺は飛び乗るようにソファーに座った。
相変わらずビニールが擦れる音が酷く耳障り。
その瞬間ふとある事を思いついた。
なんでは俺にチョコくれんかったんやろ。
しかも俺だけに。
こんな事、思いつきもせんかったし、考えもせんかった。
もしかして、、俺の事好きやないん?
俺の事、嫌いになったん。
チョコくれんかったんも、別れたいって意思表示やたん?
「あっ・・・」
「はい、ハッピーバレンタイン!」
立ち上がろうとした瞬間、俺の目の前に差し出したもの。
ピンクのチェックの包装紙の上に幾重も重ねられた赤いリボン。
両手の平サイズの四角い箱。
多分、ほしくてしかたなかったもの。
「何で14日にくれんかったん?!楽しみにしとったんやで?!」
「嘘吐け。忘れてたくせに。堕威くんに聞いたもん」
堕威くんの阿呆。
頭を抱える俺の横にが座った。
硬いソファーがキシっと音を立てた。
5日ぶりの2人きり。
そういえばチョコ、貰えたんよな?
て事は、嫌われたんやない?
「すぐ思い出した!チョコ待っとったんやで?!」
「だって京はファンの子からいっぱい貰うじゃん」
「そんなん薫くんも堕威くんも貰うわ!俺はのしか欲しない!」
「当たり前じゃん」
「・・・は?」
当たり前、と平然と言い放った。
も〜わけわからん。
ファンの子からいっぱい貰うからあたしのなんていらへんやん!
とか言うならまだ解る。
しかも、かなり可愛えと思う。
いつも可愛えんやけどな。
やけど、俺が以外のは欲しないのは当たり前・・・。
確かにそうなんやけど・・・間違ってとらんけど・・・
・・・・わけわからん・・・・
「14日にあげたら、ファンの子のと一緒になっちゃうじゃん」
「やから、ファンの子のは貰わ・・・」
「それはダメ!」
「何で?!」
の言いたい事がさっぱりや。
普通女って、彼氏が他の女から貰うのって嫌なんとちゃう?!
には嫉妬って感情が無いんかい?!
が普通じゃないのかもしらんけど。
突然が立ち上がって、俺の前にしゃがみこんだ。
そして膝の上にあった箱のリボンを解いた。
そこから出てきたのは一口サイズの可愛いチョコ。
綺麗に並べてあって、見せで見るヤツみたいや。
はそれを1個取り出して、俺の目の前に差し出した。
チョコの甘い匂いがする。
「コレね、京の事想って、頑張って作ったの」
「答えになってへんやん」
「黙って聞く!ファンの子もね、同じ気持ちだと思うの」
「・・・だから何なん」
「皆ね、プレゼントにいろんな想いを込めてると思うの」
「・・・うん」
「その気持ち解るから、京にも無下にして欲しくなかったの」
そう言うと、は手にしたチョコをパクっと食べた。
ちょっと甘すぎたかなと苦笑いした。
自分の想いを押し殺してまで、他人の気持ちを考える。
正直、俺には理解出来んけど。
のそんなトコは可愛えなぁと思う。
「で、でもね、私が1番だから!1番愛情込めてる!!」
「・・・」
「えっと、だからその他大勢と一緒にされ・・・」
「!」
「へ?」
「・・ありがと・・」
恥かしそうに笑ったが可愛すぎて、ギュっと抱きしめた。
その他大勢と一緒にするわけないやん。
は怒るかもしらんけど、やっぱ俺はのしか欲しない。
は笑うかしらんけど、以外皆霞んで見えるんや。
俺の中で、だけが意味あるもの。
「俺、に嫌われたんかと思ったわ」
「どーして?!」
「だって俺だけにチョコくれんかったし」
「・・?私、皆に話したんだけど・・・・?」
「何を?」
「私が14日にチョコあげない理由」
「嘘や」
「嘘吐いてどうすんのよ。・・・聞いてないの?」
「聞いてへん」
あいつ等、絶対許さへん・・・。
最近妙にの話すると思ったら、そーゆー事かい。
堕威くんなんて明らかに挙動不信やったもん。
・・・謀ったな・・・
首謀者は絶対薫くんや。
そうや、堕威くんが隠し事なんて出来るはずないもん。
イライラする俺見て楽しんとったんや!
怒鳴りに行ったろうかと思った。
でも止めた。
だって、、離したくない。
あいつ等の顔見る前に、5日間の距離を少しでも埋めたい。
抱きしめる腕に力を込めたら、苦しいよ、と声がした。
だけど15分前と同じ、聞えないフリをした。
でも5日前よりも何百倍も増した愛しさ。
そう、物語で言うならこん感じ。
5ページ前では名前も知らなかった男と女。
でも5ページ後では幸せな恋人同士になっとるんや。
その5ページの間には、筆者も気付かんかった事がいっぱいあって。
幸せになるには十分すぎる5ページ間。
俺等と少し違うトコは、5ページ前でも恋人同士やったって事。
俺等の5ページにも壮大な物語があって。
すれ違いとか、空回りとか、誤解とか。
筆者も気付かんかった物語が混在しとって。
でもそういうの全部含めて、好きやって思うから。
?見知らぬ男女が幸せな恋人になれるんやで?
それやったらさ、5ページあれば俺等、世界一幸せな恋人になれるやん。
世界一幸せな恋人同士の物語やな。
BE HAPPY・・・?
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あわわ・・・初の京くん(てか初ディル)夢で御座います。
えっと、性格が違うとかいうのはスルーしてやって下さい。
正直、訛りもさっぱりです(死)
兎に角、世の乙女へ、ハッピーバレンタイン★
20040218 未邑拝
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