全部が進んでるようで止まったまま。
      壊れた時計は、あの日をさし続けてる。
























      5年の月日























      男と女。
      女より男の方がロマンチストだってのはよく聞く話。
      それは全てを捨ててでも護りたいものがあるからかもしれない。
      女よりもその気持ちがちょっとだけ強いだけ。



      











      俺の身体はいつもより空に近い場所にある。
      足は宙についてはないけど、それでも違和感はない。
      いつもより少しだけ息がしやすい。
      歩いてるのか浮いてるのかはよく解らなかった。


      俺のずっと下に、一組の男女が見える。
      遠いはずなのに、二人の行動は手に取るようにわかった。
      

      明るい色を軽くウエーブさせた、長身の男。
      それと、綺麗というより可愛いといえる顔立ちの女。
      

      知ってる。


      俺とだ。


      そこは四角い小さな部屋。
      いくつもある部屋の内の一つなんだと思う。
      テレビやテーブルがなく、端にベッドが置いてあるだけだから。


      「ねぇ、お兄ちゃん・・・」


      「もうお兄ちゃんって呼ぶなって。」


      「・・・とし、や?」


      「うん?」


      しばらくすると、声が聞こえた。
      視覚だけじゃなく、聴覚まであるらしい。


      「お父さん達、心配してるかな?」


      「・・・不安?」


      「・・・ちょっと。」


      男が女の身体をきつく抱き寄せる。
      小さな身体は男の腕にすっぽり納まるサイズらしい。
      

      女はもしかしたら泣いているのかもしれない。
      抱き寄せた男の服の胸辺りが色濃く変色してる。
      それでも離れようとはしない。
      それは誓いにも似た行為なのかもしれない。


      「大丈夫、俺がいるじゃん。」


      「・・・うん。」


      「俺じゃ頼りない?」


      「そうじゃなくて・・・っ!」


      「そうじゃなくて?」


      「・・・幸せすぎて恐いのかもしれない。」


      女は身体を離して男を真正面から見る。
      大きな目の中に男が映ってるのがわかる。
      

      「ずっと望んでたことだもん。」


      「・・・そだね。」


      「お父さんもお母さんも友達も捨ててきたよ。」


      「・・・・・・」


      「お兄ちゃんが・・・敏弥がいればそれで良いって思ったから。」


      「俺もおんなじ。」


      「もう、敏弥しかいないんだから。」


      「俺も、しかいねぇよ。」


      男は女の頬を両手で包み込む。
      それはキスをする前の甘い準備。


      重なった唇が熱い。
      俺の唇じゃないはずなのに、感触がする。
      少し乾いた唇は女の子特有の柔らかさを持ってて。
      重なった部分から熱が混ざり合うのを感じた。


   


      

      突然俺の目の前が白い砂嵐に包まれる。
      キスをした二人の幸せそうな顔が霞んでく。
      白い砂嵐は激しさを増し、俺の視界を色のない世界へ塗り替えた。







      「あ、もうすぐ着くよ。心配しすぎだって。」


      白が晴れ、あの時の女が見えた。
      空は重く濁り、灰色と鈍色が混ざった汚い色。
      雨が降りそうなわけじゃない。
      こんな汚れた空から降る雨があるわけないから。


      女は携帯を片手に誰かと話してる。
      その声は聞きなれた速さ、高さ。
      いつもと何の変わりもないように思える。


      ただ、横に男はいなかった。
      何の変わりもないことがおかしいのかもしれない。
      

      電話の相手はあの男なのかもしれない。
      そう考えるのが自然だから。
      

      でも、俺はこの先を知ってる。
      それはなんでかわからないけど、知ってる。
      夢だからかもしれないし、夢じゃないからかもしれない。
      

      「ただいま。」


      女が大きな玄関のドアを開ける。
      それは俺もよく知ってる家のもの。


      おかえりと出迎えた人。
      それは捨てたはずの母親だ。



      










      重い目蓋を開ける。
      目覚めることを知っていたかのように頭が晴れてる。
      

      狭く四角い部屋は夢で見たものとは違う。
      一人で過ごすのにも、狭くて仕方のない部屋。
      その部屋の端で身体を丸めて小さく息をする。


      今が夜ならいい。
      明日が来る希望を少しでも絶望に変えてしまいたい。
      そう願い続けてもう5年。
      いっこうに叶う気配もない。


      「・・・クソッ・・・」


      幸せって何だったんだろ。
      あの数日間は夢だったのかもしれない。
      どれだけ目を閉じても少しも現実感がない。
      宙に浮いたまま妄想に耽ってる感覚。


      それでも俺の身体はちゃんとを覚えてる。
      がいない日々は全部が違う。
      

      どれだけ間違いを犯した日々でも、俺にとっては正しかった。
      過ちを犯すことが俺等の気持ちの証だと思ってた。
      間違いでも、がいれば恐くなかった。
      罪ですら、愛おしく思えたんだ。


      「なぁ・・・なんで逃げたの・・・?」


      幸せすぎて恐いって泣いた夜を覚えてる。
      俺には解らない感情だと思った。
      でもにはそうじゃなかったのかな?


      がほんとに恐かったのは幸せ?
      俺達の幸せは確かに長く続くものじゃなかったかもしれない。
      それでも俺は今があればそれでよかった。
      

      逃げ続けられるわけじゃない。
      でも、少なくとも自分から壊したくはなかった。
      いつか壊れてしまうからこそ、今が必要だった。
      繋がりがあれば、いつかまた逢えると思ったから。


      「・・・幸せそうに笑うなよ・・・」


      俺を捨てて、別の幸せを手に入れて。
      がほんとうに望んでたものはそれだったの?
      は今、幸せなの?


      おふくろが好き?
      おやじが好き?
      友達が好き?
      俺以外の男が好き?
      

      俺と引き換えに愛したものを教えて。


      がいなくなって手に入れたもの。
      そんなの全部捨てて良いよ。
      俺の手には何も残んなくてもいい。
      もう、何にもいらない。


      「・・・・・・」


      もう今更、あの日には戻れない。
      戻りたいとも思わない。
      もいらない。


      今はまだあの日の途中。
      終わりもしないし進みもしない。
      永遠の世界。


      無意味な時間はいらない。
      絶望を感じる時間も、希望を願う時間もいらない。
      全部、あの日のまんま止まってしまえ。



      全部が進んでるようで止まったまま。
      壊れた時計は、あの日をさし続けてる。
























      BE HAPPY・・・?

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      サイト2周年ありがとうございます!

      ご贔屓にしてくださる皆様のおかげです、ほんとうに。
      2周年やし明るくいこうかと思ったけど、おかしいかな?って(笑)
      レッパラ原点に戻ったお話にさせていただきました。

      のらりくらり更新ですが、これからもよろしくお願いします。
      みんな大好きだよー!!


      20060123   未邑拝


      
     
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