17人目が死んだ日。
      18人目が生まれた日。
























      十八人目の君





























      傍に居て。
      俺だけを見て。


      気が狂いそうになるくらい好きなんだ。
      君の全てが俺の全てで、それ以外はなんにも無い。
      君は俺のもので、俺は君のもの。
      この世に存在する理はそれだけで十分。


      仕事が終わって家に帰りつく。
      酷くイライラした気持ちがドアを強く閉めさせる。
      ガンッと音を立てたドアは無情。
      俺の気持ちを考えることさえしない。

   
      「なぁ、今日なにしてたの?」


      椅子に座ったは人形。
      綺麗な服を着て、綺麗な化粧をして。
      骨董人形のように真っ白な肌。
      

      「薫くんがね、の話すんだ」


      ふわふわのスカート。
      そしてそれから出る綺麗な脚。
      その姿はまるで絵本の中の王女様。


      俺はの前に跪く。
      肘置きに置かれた手に、そっと唇を落とす。
      まるで神聖な儀式みたい。


      「とね、映画観に行ったときのこと話すんだ」


      細い脚に頭を埋める。
      こうやってに触ってる時間が一番好き。
      凄く安心するんだ。


      「感動して泣いちゃったんだって?」


      スカートの中に手を差し込む。
      スベスベして触り心地が良いの肌。
      スカートを捲れば目の前に出る真っ白な脚。
      俺はそれに手を這わせるのが大好き。


      「薫くんがね、可愛いやろって笑ってた」


      脚を撫でるともどかしそうに吐く吐息。
      悩ましげな声に脳が刺激される。
      無防備な素肌にいつだって踊らされるのは俺の方。


      「んでね、その後言うんだ」


      少しだけ爪を立てる。
      ズルッと音を立てて爪が食い込む。
      

      こめんね?
      を傷つけるつもりはないんだ。
      ちょっと怒ってみただけ。


      「、最近連絡取れない・・・って」


      傷ついたところを指の先でなぞる。
      トロトロ流れ出す液体。
      痛そうで、ちょっとだけ後悔する。


      「が誰と何してようとさ、薫くんには関係ないのにね」


      愛してるんだ。
      もうどうしたら良いかわかんないくらい。
      愛しくて愛しくてオカシクなっちゃいそう。


      誰にも見せたくない。
      俺の中に閉じ込めてたい。
      俺だけいればそれで良いって。
      そう言ってほしい。


      誰にも見せたくない。
      の気を引くものは全部敵。
      俺だけ見てれば良い。
      俺が全ての世界で俺だけ見てて。
      絶対的な幸福の世界。


      「は・・・俺のもんなのに・・・っ」


      は俺のもん。
      誰にも渡さない。
      俺だけのもんなの。
      薫くんには、あげないよ?


      「は俺のもんだろ・・・っ?!」


      細い脚に爪を立てる。
      じゅぷっと音を立てて指ごと飲み込まれる
      赤黒い液体が溢れ出す。


      何度も何度も指を突っ込む。
      引っ掻くたびに皮が裂け、肉が抉れる。
      爪の中に入り込むぬるぬるした固形物。
      肉片は飛び散ることなくの脚を伝う。


      「なんで薫くんがの話すんだよっ!」


      脚に拳を強く叩きつける。
      ぐちゃっと何かが潰れる音がする。

      
      何度も何度も同じ場所を叩き続ける。
      そのうちにズルっと音を立てて脚がもげた。
      そこから覗く白くカルシウムが溶けかけてる。
      蕩ける赤は爛れて滴る。


      好きなんだ、愛してるんだ。
      俺さ、頭悪いからこれ以上の言葉知らないんだけど。
      言葉にならない言葉以上に愛してる。
      

      どうしようもなく愛してる。
      もうね、周りなんてとっくに見えなくなってる。
      俺の世界はで形成されてる。
      さえいれば俺の世界は永遠なんだ。


      だから俺だけのもんになって。
      絶対不幸にしたりしないから。
      誰より幸せにしてあげるから。
      誰よりも愛してあげられるから。
      

      だから俺だけのもんになってよ。
      俺だけのもんに。


      「俺の方が、愛してんのに・・・っ!」


      


















      「ねぇ、俺のこと、愛してる?」


      「・・・っ」


      「愛してるよね?」


      「・・・は、なして・・・」


      「あぁ、ごめんね。痛かった?」


      「・・・」


      「傷つけるつもりはないんだ」


      「・・・じゃあ、離して」


      「どうして?」


      「・・・」


      「一緒にいるのは当たり前でしょ?愛し合ってるんだから」


      「・・・な、に言って・・・?」


      「愛してるよ」


      「・・・」


      「愛してるよ、


      「ど、して・・・私の名前・・・」


      「のことだったら何だって知ってる」


      「・・・あなた・・・」


      「だっては俺のもんなんだから」


      「・・・あなた・・・一体誰、なの・・・?」


      

















      傍のテーブルに置いてある果物ナイフ。
      それにどこから侵入したか解らない光が反射する。
      もしかしたら幻覚なのかもしれない。


      蘇る、記憶。
      それは渦みたいに俺の中を掻き乱して。
      俺はそれを治めたくていつだって術を探してる。
      吐き出さないと、壊れるのは俺の方。


      「俺だけ見ててよっ」


      ナイフを手に取り、それを勢いよく振り下ろした。
      ぐしゃっと刺さったのはの胸で。
      そこから血は、流れてこなかった。


      
      小さいはずなのに酷く重く感じる。
      それは手の中で意識を持ったかのように動く。
      の胸に、食い込んでいく。


      刺した肌は骨から滑り落ち、黒い肉塊になる。
      避けた服は黒く染まった。


      愛してるんだ。
      傷つけたいわけじゃない。
      唯々、愛してるんだ。
  

      「お願いだから・・・」


      いつも見てた。
      薫くんの横で笑うを見てた。
      薫くんに笑いかけるを見てた。


      大きな目を細めるとこ。
      開くと見える小さな八重歯。
      口許を隠す仕草。
      あの綺麗な笑顔が大好きで。


      俺のものにしたかったわけじゃない。
      唯、傍で見てるだけで良かった。
      その視界に入りたかった。
      敏弥、って笑いかけてほしかった。
      薫くんにしてるみたいに。


      「お願いだからさ・・・」


      爛れ落ちる胸に顔を埋める。
      脈もなければ鼓動も無い。
      なのに酷く温かい気がする。


      こうやって身体は俺を受け入れてくれるのに。
      心がある場所に手を捻じ込んでも心だけが掴めない。
      どこに在るのかさえ分かんない。


      の視界に入れても、心には入れない。
      そう気付いた瞬間に襲ってきた支配欲。
      俺のものにしたかったわけじゃない。
      嘘、俺だけのものにしてしまいたかったんだ。


      堕していくのはとても簡単だった。
      狂っていくのはもっと簡単だった。


      「俺のもんになってよ・・・っ!」


      愛してるんだ。
      の為ならいくらでも狂ってあげるから。
      俺なんていらないから。


      俺を愛してくれないはいらない。
      俺のものにならないならいらない。
   

      でもがほしい。
      俺だけのものになってほしい。
      

      「じゃなきゃ・・・」


      愛してるんだ。 
      ありふれた言葉しか言えないけど、世界で一番愛してる。
      がいる世界は完全で、がいない世界は不完全。
      がいなきゃ、何も確立しない。


      に俺の全てをあげるから。
      だからの全部を俺に頂戴?
      一個も落とさないように、俺が全部抱きしめてあげるから。
      俺が全部護ってあげるから。
      だからの全部、俺に頂戴?

     
      「・・・また・・・壊しちゃうよ?」


      俺を愛してくれないはいらない。
      俺のものにならないならいらない。


      でもがほしい。
      俺だけのがほしいんだ。


      愛してるよ。
      唯々、愛してる。
      愛しくて愛しくて、これ以上ないくらい愛しくて。
      これ以上にないくらい、愛してるんだ。


      17人目が死んだ日。
      18人目が生まれた日。


      新しいは、心に穴が開いたお人形。
      今度は俺のこと、愛してくれるかな?























      BE HAPPY・・・?

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      突発的に思いついたお話。
      気持ちを押し付けるだけじゃ・・・どうしようもないのかな?
      でもね、自分の気持ちを伝えることから、全ては始まりますよね。


      20050725   未邑拝



 
  
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